日本では漫画やアニメで得た知識が、常識として世間に定着してしまうことがあります。しかし、あくまでフィクションの世界のため、その中には実際と違っていたりリアルには存在しなかったりする設定や演出も多いです。ネットのない時代は今のように簡単に調べられなかったため多くの日本人が信じてしまい、人気漫画作品による勘違い現象が生まれました。
◆『男塾』や『ミスター味っ子』のあのネタも!
『魁!! 男塾』では「民明書房」の本からの引用という形で、拳法や戦闘様式など数多くの知識が披露されています。このため、多くの読者が「民明書房」という出版社が本当にあると思い込み、引用されているネタ知識を信じてしまう勘違いが生まれました。
漫画で引用元が記載される場合、実際にある書籍からというのが当たり前だったため「民明書房」の存在を信じてしまう人が多かったのは必然だったのかもしれません。それにともなって、記載されている内容もネタ知識まで信じてしまう読者も出て来てしまいます。
その中でも特に有名なものが、民明書房刊『スポーツ起源異聞』より引用された纏劾狙振弾(てんがいそしんだん)という武術がゴルフの起源であるというネタになります。纏劾狙振弾は男塾三面拳の一人、月光が見せた棍法術最強の流派として名高いチャク家流に伝わる最大奥義です。
特殊な棍で地面に置いた小さな鉄球を飛ばして敵を攻撃するというもので、その動きはまさにゴルフのスイングそのもの。ネットがない時代ですから、本当にゴルフの起源がこの武術であると信じてしまった人も多かったです。
このほかにも民明書房はネタなのか本当なのか分からない絶妙なラインを攻めて、スポーツや歴史などまことしやかに解説していました。ただ、作中の設定では「民明書房」の創始者である大河内民明丸は大ボラ吹きで、男塾のメンバー以外からはインチキ出版社として認識されている模様です。
つまり、作中の一般人の間で「民明書房」はフェイクニュースばかりを発信する出版社だったということです。それなのにリアルの世界では、マニアックな知識を正しく伝える出版社として信じる人が増えてしまうというおもしろい現象が起きていたことなります。
また、『ミスター味っ子』の第2話「スパゲティはアル・デンテ」は、パスタの中心に髪の毛1本の芯を残して茹で上げるアル・デンテの重要性がフィーチャーされた話となっています。
本来アル・デンテはパスタをソースに絡めるための加熱時間で火が通り過ぎないようにするための茹で方です。しかし、味皇料理会イタリア料理部主任の丸井善男が「スパゲティにはある程度の歯ごたえが要求されます」とアル・デンテを一番最高の茹で加減と紹介したため、本場イタリアのパスタは固茹でであるという知識が日本人に広まりました。
日本人よりパスタが身近であるイタリアではお店や家庭で茹で加減が異なり、日本のパスタは硬すぎると感じるイタリア人もいるそうです。ただ、乾麺を使うことが多い南イタリアは硬めのアル・デンテが多く、生パスタが主流の北イタリアではそもそもアル・デンテという概念が薄い傾向があるとのこと。
日本でもうどんのコシやラーメンの麺の硬さには好みや地域差がありますから、一概にどの茹で加減が正しいなんていえないのと同じでしょう。ただ、いまやすっかり全国区となった讃岐うどんは、強いコシと弾力のある食感が特徴です。
また、ラーメンにはバリカタやハリガネといった芯を残す茹で方があります。さらには粉を落とす程度でお湯から引き上げる粉落とし、生麺を湯気に当てるだけの湯気通しもあるほどです。
つまり、日本人には固茹で麺を好きな人も多く、パスタもアル・デンテの茹で加減が好みに合っていたことで爆発的に広がったという側面もあると考えられます。
『ミスター味っ子』で紹介されていなくても、いずれパスタも日本人好みに合わせてアル・デンテの茹で方が全国に広まっていた能性も十分あるでしょう。
──日本人にとって漫画の影響力は強く、好きな作品に書かれたことを鵜呑みにしてしまうことはよくありました。それによって大きな勘違いが全国的に広まって常識になってしまう現象が生じるのは、それだけ日本人の生活に漫画が浸透しているということでしょう。しかし、ネットが発達した現代ではすぐに真実に到達できるため、もはや失われつつある「漫画あるある」といえるのかもしれません。
〈文/相模玲司〉
《相模玲司》
大学卒業後、編集プロダクションに入社。メンズファッショ誌の編集に従事したのち、フリーランスの編集・ライターとして独立。アニメ・漫画関連のムック本の制作や、週刊誌のWeb版でアイドルの取材記事やサブカルチャー記事の作成に携わる。
※サムネイル画像:Amazonより 『「魁!! 男塾」第1巻(出版社:サード・ライン)』



