クールで頼れる存在として長年愛されてきたキャラクターが、ある瞬間に別人のように豹変する——。『週刊少年ジャンプ』の人気作品には、そんな“キャラ崩壊”の名場面が数多く存在します。読者を驚かせながらも、どこか笑って許せてしまうのは、崩壊前の「クールさ」とのギャップが絶妙だからかもしれません。
◆ 酔うと「金持ちで何が悪いんですか!」と叫ぶ中川圭一——『こちら葛飾区亀有公園前派出所』
『こちら葛飾区亀有公園前派出所』の中川圭一は、問題児・両津勘吉(両さん)の数少ない抑止力として知られ、常識人のイメージが定着していました。しかし、酒を飲んで酔っぱらうと、その姿は一変します。「金持ちで何が悪いんですか」と叫びながら両さんの頭をビンで殴り、旅館の廊下を裸で走り回るなど、豹変ぶりは見事なものです。
一発芸「働き者のナマケモノ」を披露したかと思えば拳銃を乱射するなど、まるで両さんがもう一人いるかのような暴れっぷり。タジタジになる両さんの姿はむしろ新鮮で、読者からは「中川が酔う回にハズレなし」と好評です。
連載初期の中川は、銃の乱射や勤務中のナンパも日常茶飯事でした。タクシーで派出所に乗りつけ、その料金を署にツケるなど、やりたい放題。
「警官になった動機の一つは拳銃を自由に撃てるから」という本人の発言は、なかなかの衝撃です。長い警察官生活を通じて常識を身につけた中川ですが、お酒が入ると本来の自分が顔を出してしまうようです。
◆チェリーを「レロレロ」……読者が偽物と疑った花京院典明──『ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース』
花京院典明は穏やかで礼儀正しい人物として描かれてきたキャラクターです。ところがインドへの移動手段を探す場面で、スリの男をいきなりボコボコにし、口調も下品に。チェリーを舌の上で転がして「レロレロ」するなど、明らかに様子がおかしい行動を連発します。
「これは偽物だ」と読者の多くが予感した通り、ラバーソールがスタンド「イエローテンパランス(黄の節制)」を使い花京院に化けていたことが判明します。空条承太郎の機転でラバーソールは撃退され、本物の花京院と無事に合流。列車内での花京院はいつもの落ち着いた口調に戻っていました。
しかし——。承太郎がチェリーを残しているのを見た花京院は、「好物なんだ」と言いながら舌の上でレロレロと転がし始めます。本物だからこその“奇行”に、承太郎も絶句。このワンシーンだけで花京院のイメージが塗り替えられてしまった読者も多いはずです。
◆恥ずかしいポーズをやらされ、女性言葉でトスを上げる……ピッコロの「キャラ崩壊3ステップ」——『ドラゴンボール』
ピッコロはもともと、クールで冷酷なヒールポジションのキャラクターでした。それが魔人ブウ編では、フュージョンの恥ずかしいポーズを強要され、ゴテンクスとレベルの低い口げんかを繰り広げ、挙句の果てには女性言葉でバレーボールのトスをさせられます。腹筋崩壊必至の展開の数々は、今も語り継がれる名(?)シーンです。
ピッコロが変わった最初のきっかけは悟飯との出会いです。ともに戦い、命を懸けて守ったことで、二人の間に師弟を超えた絆が生まれました。次のターニングポイントは神との融合。「元・地球の神」という立場が加わったことで、界王神などの上位存在と絡む場面が増え、取り乱すシーンも目立つようになります。
そして決定打となったのが、悟天とトランクスとの出会いです。ヤンチャで自由奔放な二人はピッコロの強さを知らず、遠慮なく振り回します。天津飯の排球拳さながら、女性言葉を使ってバレーのトスをさせられるシーンは、キャラ崩壊の“極み”といえるでしょう。
劇場版では悟飯の娘・パンに稽古をつけたり、幼稚園の送り迎えを任されたりする場面も。育児系エピソードのほっこり感が相まって、当初の悪役イメージとは真逆の「頼れるおじさん」として定着しました。
◆中井和哉ボイスのまま肥満体に……土方十四郎の女体化が笑えるほど容赦なかった——『銀魂』
真選組の「鬼の副長」「頭脳」と恐れられる土方十四郎は、もともとマヨネーズ狂いという強烈な個性を持っていました。そこに「ヲタク化」「女体化」という新属性が加わり、キャラ崩壊はさらに加速します。
妖刀・村麻紗に呪われヲタク化したトッシーは、赤いハチマキにデニムのベストという奇抜なスタイルで登場。語尾は「ござる」、笑い方は「プークスクス」、性格はヘタレと、普段の厳格さとのギャップが見事です。妖刀の呪いをねじ伏せて自分を取り戻したものの、その後もトッシーは復活しており、今も土方の中に眠り続けていると思われます。
さらに凄まじいのが女体化(X子)のエピソードです。筋肉量が落ちたことで、これまで蓄積したマヨネーズのカロリーが一気に噴き出し、歩くたびに地響きがするほどの肥満体に変貌。他の女体化キャラは女性声優に交代しているのに、土方だけ中井和哉さんのボイスのまま。名前の由来が豚肉ブランド「TOKYO X」であるX子が、マンホールにつっかえて動けなくなる場面は、作品屈指の爆笑シーンとして知られています。
普段は誰もが恐れる「鬼の副長」だからこそ、そのギャップが笑いをさらに増幅させます。土方はジャンプ系キャラの中でも、見た目・性格ともにキャラ崩壊が突き抜けている存在といえるでしょう。
──真面目な人ほど、よく知ると意外な一面を持っているものです。漫画の中のキャラ崩壊は、そんな人間らしさをデフォルメして見せてくれます。笑って受け入れられるのは、崩壊前のクールさがあってこそ。もし身近なクールな人がピッコロ並みの変貌を見せたり、花京院のような奇行をしていたりしたら、笑う前に少し心配してあげてください。
〈文/相模玲司〉
《相模玲司》
大学卒業後、編集プロダクションに入社。メンズファッショ誌の編集に従事したのち、フリーランスの編集・ライターとして独立。アニメ・漫画関連のムック本の制作や、週刊誌のWeb版でアイドルの取材記事やサブカルチャー記事の作成に携わる。
※サムネイル画像:Amazonより 『「ドラゴンボール」第20巻(出版社:集英社)』


