※この記事には複数の作品のネタバレが含まれます。ご注意ください。
連載時には見えなかった答えが、単行本の最終巻でそっと差し込まれることがあります。わずか数ページの加筆で、消えたと思われた人物の行方が揺らいだり、賛否のあった結末の受け止め方が変わったりするのです。
最終回は、作品の印象を大きく左右する場面です。だからこそ、後から加えられた描写が読者の記憶に残り続けることもあります。ここでは、最終巻の加筆によってファンの間であらためて話題になった漫画を振り返ります。
◆姿を消した男に残された“生存”の余地──『ゴールデンカムイ』
野田サトル先生の『ゴールデンカムイ』は、北海道を舞台に金塊争奪戦を描いた人気作です。単行本31巻で完結した同作では、連載時のラストに加えて、エピローグにあたる描写が追加されました。その数ページが、ある人気キャラクターの行方をめぐって大きな反響を呼びました。
注目されたのは、物語終盤で杉元とともに海へ沈んだ鶴見中尉です。本誌掲載時点では、額当てや骨さえ見つからず、生死ははっきりしないままでした。物語の中でも強烈な存在感を放っていた人物だけに、その結末は読者の想像に委ねられていたといえます。
ところが最終巻の加筆では、マッカーサー元帥の遺品にまつわるエピソードが描かれます。大統領選をめぐる資金援助の話や、彼を翻弄した日本人の存在が示され、その手がかりとして「マダラ模様の美しい金貨」と一枚の写真が登場しました。
その写真に描かれていたのが、黒い帽子をかぶり、額当てをつけた鶴見中尉を思わせる人物です。明確に生存が断言されたわけではありませんが、読者にとっては十分すぎるほど意味深な加筆でした。
本誌では喪失感を残した結末だったところに、単行本では「もしかすると生きているのではないか」という余地が生まれました。鶴見中尉は人気投票でも上位に入った人物であり、この追加描写がファンを沸かせたのも自然な流れです。最終巻の数ページが、キャラクターの余生まで想像させる余白になった好例といえるでしょう。
◆賛否の最終回に“受け継がれる命”を補った──『鬼滅の刃』
吾峠呼世晴先生の『鬼滅の刃』は、鬼との戦いを描いた大ヒット作です。本誌で最終回が掲載された際には、物語が現代へ一気に移ったこともあり、読者の間でさまざまな意見が交わされました。
「鬼を倒したあとの炭治郎たちをもっと見たかった」「急に時代が変わって戸惑った」といった声もあり、連載時点では結末の受け止め方に温度差がありました。そんな印象を大きく変えたのが、最終巻23巻に加えられた描写です。
特に話題になったのは、終盤に追加されたモノローグとイラストです。炭治郎と禰豆子が手をつなぐ姿から始まり、柱たち、玄弥、錆兎、真菰、隊士たちの姿が描かれていきます。そこに添えられた言葉は、戦いを終えた者たちへの祈りのようでもあり、読者への静かな手紙のようでもありました。
このモノローグが誰の言葉なのかは、はっきりとは示されていません。そのため、登場人物の遺した思いだと受け取る人もいれば、作者からキャラクターたちへ向けた言葉のように感じた人もいます。あえて明言されないからこそ、読む側がそれぞれの解釈を重ねられる余地が残されていました。
最終巻の加筆によって、炭治郎たちの時代から現代へと命がつながっていく流れが、より自然に受け止められるようになりました。本誌掲載時には唐突に感じた現代パートも、積み重ねられた犠牲と願いの先にある未来として見え方が変わったのです。
◆爽やかな余韻から一転、物語の先を考えさせた──『進撃の巨人』
諫山創先生の『進撃の巨人』も、最終巻の加筆が大きな話題を呼んだ作品です。本誌掲載時のラストは、エレンの墓の前で涙を流すミカサのもとに鳥が現れ、彼女のマフラーを巻き直すという、静かな余韻を残す終わり方でした。
一方、単行本34巻では、その後の世界を思わせる数ページが追加されています。エレンの墓がある巨木のもとへ、ミカサらしき女性が家族と訪れる場面。やがて彼女が寿命を迎え、時代が進み、パラディ島が戦争によって荒廃していく様子が描かれます。
さらに、エレンの墓のそばにあった木は、始祖ユミルが巨人の力と出会ったときのような巨大な木へと変化していきます。そこへ少年と犬がたどり着き、木を見上げる場面で物語は閉じられました。
この追加描写によって、作品の余韻は大きく変わりました。本誌のラストが、ミカサとエレンの関係に焦点を当てた感情的な締めくくりだったのに対し、単行本では人間の歴史や争いの連鎖を想像させる終わり方になっています。
そのため、読者の間では「歴史は繰り返されるのか」「巨人の力は本当に終わったのか」といった考察が広がりました。不穏さを増した結末ではありますが、ダークファンタジーとしての『進撃の巨人』らしさがより強まったと評価する声も少なくありません。
──最終巻の加筆は、たんなるおまけではありません。作品によっては、キャラクターの生死に余地を与え、結末への評価を変え、物語の先に広がる世界まで読者に想像させます。
連載時の最終回が一つの到達点だとすれば、単行本の加筆は作者が最後に残したもう一つの答えともいえます。わずかな描写が読後感を変えてしまうところに、漫画という表現の奥深さがあるのかもしれません。
〈文/士隠カンナ〉
《士隠カンナ》
1990年〜2000年代に放送されたアニメに中学・高校の頃にどっぷりとハマり、その後フリー編集・ライターに。主にアニメ・漫画のムック本のブックライターとして活動中。最近のマイブームはもっぱら『ちいかわ』。
※禰豆子の「禰」は「ネ+爾」が正しい表記となります。
※サムネイル画像:Amazonより 『「ゴールデンカムイ」第31巻(出版社:集英社)』

