『ドラゴンボールZ』のアニメオリジナル回には、ベジータとブルマの距離感、悟空が運転免許を取るまでの流れ、サイヤ人の非情さなど、あとから見返すと本編の理解が深まる場面がいくつも描かれていました。
◆ベジータとブルマの距離が近づいた? 重力室で描かれた意外な関係
原作では、人造人間編に入るとブルマとベジータの間にトランクスが生まれており、2人がどのように距離を縮めたのかは詳しく描かれていません。その空白を少し埋めてくれるのが、TVアニメ『ドラゴンボールZ』第124話「こえてやる…悟空を!!戦闘民族サイヤ人の王」です。
このエピソードでは、人造人間襲来に備えてカプセルコーポレーションの重力室で無茶な修行を続けるベジータの姿が描かれます。プライドの高さから限界を認めようとしないベジータは、修行中に大きなけがを負ってしまいました。
そんな彼を放っておけなかったのがブルマです。強がるベジータに対して、彼女は文句を言いながらも看病を続けます。目を覚ましたベジータのそばで、ブルマが机に突っ伏して眠っている描写からは、彼女がかなり長い時間付き添っていたことがうかがえます。
第118話ではブルマがベジータを「案外いい男」と評し、第119話ではベジータがブルマの気の強さに反応する場面もありました。恋愛として明確に描かれているわけではありませんが、2人がお互いをただの他人として見ていないことは伝わってきます。原作だけでは唐突に感じやすい関係に、アニメ版が小さな段差を作っていたといえるでしょう。
◆ただのギャグ回では終わらない 悟空とピッコロの教習所エピソード
第125話「免許皆伝?悟空の新たなる試練」は、『ドラゴンボールZ』のアニオリ回の中でも特に語られることが多いエピソードです。人造人間が現れるまでの期間、悟空とピッコロがチチの一言をきっかけに教習所へ通うことになります。
地球を何度も救ってきた悟空も、車の運転となると話は別でした。戦闘では天才的な感覚を見せる一方で、教習ではかなり危なっかしい運転を披露し、教官から厳しい評価を受けます。そこに巻き込まれたピッコロも、普段の冷静なイメージとのギャップが大きく、日常回ならではの面白さがありました。
一方で、この回はたんなる息抜きだけでは終わりません。実技試験の最中、悟空とピッコロは土砂崩れに巻き込まれそうになった幼稚園バスを救います。免許取得にはつながらなかったものの、2人が戦闘以外の場面でも自然に人を助ける姿が描かれました。
その後、第172話「神様を探し出せ!! 悟空、大瞬間移動」では、悟空が運転免許を取っていることが分かります。ハチャメチャに見える『ドラゴンボール』の世界でも、車を運転するには免許が必要だという妙な現実味が、作品世界に独特の生活感を与えていました。
◆ベジータとナッパの冷酷さが際立つ アーリア星の後味
第11話「宇宙一の強戦士サイヤ人めざめる!」では、地球へ向かう途中のベジータとナッパが立ち寄ったアーリア星での出来事が描かれます。この回は、2人がただ強いだけでなく、当時どれほど冷酷な価値観を持っていたのかを分かりやすく示すエピソードです。
ベジータとナッパは、アーリア星が高く売れそうだと考えて星へ降り立ちます。住民たちから敵意を向けられても、彼らは余裕の態度を崩さず、あえて捕らえられるような行動を取りました。やがて星がモアイ王に支配されていることを知り、ナッパは圧倒的な力で王の配下や巨大生物を倒します。
この流れだけを見れば、2人はアーリア星を救った存在のようにも見えます。実際、王に苦しめられていた人々は、ベジータとナッパを救世主のように受け止めました。奪われた婚約者と再会できた青年の喜びも描かれ、星には平和が戻るかに思えます。
しかし、その直後にベジータたちはアーリア星を価値なしと判断し、あっさり破壊してしまいます。彼らにとって重要なのは、そこに暮らす命ではなく、星が商品として売れるかどうかだけでした。サイヤ人編の初期に描かれたこのアニオリ回は、ベジータとナッパの非情さを補強する役割を果たしていたといえます。
◆ツフル人の存在が広げた サイヤ人の歴史とその後の物語
第20話「よみがえるサイヤ人伝説!悟空のルーツ」では、界王がサイヤ人の過去を語る形で、原作漫画では深く触れられなかった歴史が描かれました。ここで登場するのが、惑星ベジータにかつて高度な文明を築いていたツフル人です。
アニメ版の説明では、サイヤ人はもともと文明を持たない戦闘民族として惑星ベジータにたどり着きます。受け入れたツフル人から知識を吸収したサイヤ人は、やがて彼らを滅ぼし、星を自分たちのものにしていきました。
この設定は、のちの関連作品にもつながっていきます。ゲーム『ドラゴンボールZ外伝 サイヤ人絶滅計画』やそのOVAでは、ツフル人のドクターライチーがサイヤ人への復讐を企てます。また『ドラゴンボールGT』では、ツフル人の因縁を背負った存在としてベビーが登場しました。
原作漫画の本筋だけを追うと、サイヤ人の歴史は比較的シンプルに見えます。しかし、アニメ版の補足によって、サイヤ人という種族がただの侵略者ではなく、別の民族の歴史を踏みにじってきた存在として立体的に見えてきます。この積み重ねが、のちの外伝的な展開にも説得力を与えていました。
──『ドラゴンボールZ』のアニメオリジナル回は、原作に追いつかないための引き延ばしとして語られることもあります。実際、長く気をためる場面や、戦闘のテンポがゆっくり進む場面を思い出す人も多いでしょう。
それでも、すべてが時間稼ぎだったわけではありません。ベジータとブルマの関係、悟空の運転免許、ベジータとナッパの冷酷さ、サイヤ人とツフル人の因縁など、アニメ版だからこそ描けた補完も確かに存在します。
原作のスピード感とは違う一方で、キャラクターの生活感や設定の奥行きを広げてくれる。それが『ドラゴンボールZ』のアニオリ回が今も語られる理由なのかもしれません。何気ない日常回や寄り道のようなエピソードにも、作品世界を豊かにする意味が隠れていました。
〈文/最上明夫 編集/相模玲司〉
※サムネイル画像:Amazonより 『「ドラゴンボール」第27巻(出版社:集英社)』

