ブライト・ノアの苦労は、歴戦の指揮官になってから始まったわけではありません。まだ19歳の青年だった彼は、ホワイトベースの艦長代理として、少年兵同然の仲間たちと連邦軍の新兵器を同時に背負うことになりました。宇宙世紀を通して描かれた、胃が痛くなるような場面を振り返ります。
◆19歳で艦長代理、しかも主戦力は15歳の少年
宇宙世紀の『ガンダム』シリーズで、ブライト・ノアほど長く戦場の重圧を背負い続けた人物は多くありません。後年の彼は経験豊富な指揮官として描かれますが、出発点は決して落ち着いたベテランではありませんでした。
『機動戦士ガンダム』でホワイトベースに乗っていたころのブライトは、まだ19歳です。士官学校を出て軍に入ったばかりの青年が、サイド7での襲撃とパオロ・カシアス艦長の負傷によって、いきなり艦長代理の立場に置かれました。
しかも艦を守るだけではありません。連邦軍の新兵器であるガンダム、ホワイトベース、そして避難民を含む乗員たちの命まで抱え込むことになります。その中心にいたのが、15歳のアムロ・レイでした。
ブライトは上官でありながら、年齢差で見ればアムロのわずか4歳上です。それでも戦場では、命令を下し、反発を受け止め、時には父親のような役割まで求められました。この時点で、彼の胃に負担がかからないはずがありません。
◆ガンダムを持ち出された日、ブライトの負担は限界に近かったハズ
第17話「アムロ脱走」では、ブライトの苦労が象徴的に描かれます。アムロは自分の技量や判断を過信し、ブライトの命令から外れた行動を取ってしまいます。その結果、ホワイトベースや仲間たちは危険にさらされました。
ブライトはミライ・ヤシマと相談し、アムロをガンダムから降ろすべきか悩みます。ところが、その会話を偶然聞いたアムロは、主戦力であるガンダムに乗ったままホワイトベースを離れてしまいました。
平時なら、思春期の少年の家出として受け止められたかもしれません。しかし状況はジオン軍の勢力圏内です。持ち出されたのは私物ではなく、艦の生命線ともいえるガンダムでした。ブライトからすれば、少年の反発と軍事的危機が同時に押し寄せたようなものです。
アムロが戻ったあと、ブライトは独房入りという処分を下します。厳しすぎる対応にも見えますが、戦場で艦を預かる立場としては、個人の感情だけで済ませられない問題でした。若い指揮官が、さらに若いパイロットをどう扱うべきか。その難しさがにじむ場面です。
◆Ζ、ΖΖでも続いた“少年たちの受け皿”という役割
ブライトの苦労は、一年戦争で終わりません。『機動戦士Ζガンダム』や『機動戦士ガンダムΖΖ』でも、彼はニュータイプの少年たちと向き合い続けます。戦力として頼らざるを得ない若者たちを支えながら、軍や組織の理屈とも折り合いをつけなければなりませんでした。
特に『機動戦士ガンダムΖΖ』第47話「戦士、再び……」では、その中間管理職としてのつらさがはっきり表れます。ネオ・ジオンとの決戦後、戦後処理に現れたエゥーゴや連邦軍の高官たちの態度に、ジュドー・アーシタは怒りを抑えきれませんでした。
ジュドーはメッチャー・ムチャにつかみかかります。そこでブライトは、行き場のない怒りを受け止めるように「俺を殴って気を済ませろ」と告げ、自ら殴られる側に立ちました。
これはたんなる美談ではありません。子どもたちに戦わせた大人側の人間として、ブライトが責任を引き受けた場面でもあります。現場の若者を理解しながら、組織の一員でもある。どちらにも寄り切れない立場だからこそ、彼の苦悩は深かったのでしょう。
◆地球を救ったあとも、ブライトは楽にならなかった
『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』で、ブライトはアクシズ落としを止める戦いに関わった功労者の一人です。ところが、その後の彼には栄光だけが待っていたわけではありません。
漫画作品『機動戦士ガンダムUC 虹に乗れなかった男』では、ブライトが国家騒乱罪の容疑で連邦軍の審問会に呼ばれます。そこで問われたのは、アクシズを押し返した“アクシズ・ショック”をどう扱うかという問題でした。
ブライトは、ニュータイプとサイコフレームの感応が物理的な力を生んだという出来事を否定するよう求められます。彼は長年、ニュータイプの少年少女たちをそばで見てきた人物です。その可能性を知っているからこそ、簡単に否定できる話ではありませんでした。
さらに状況を重くしたのが、カムラン・ブルームの核弾頭横領と、息子ハサウェイの無断出撃です。カムランには重い処分がかかり、ハサウェイはチェーン・アギのリ・ガズィを撃墜するという取り返しのつかない出来事に関わっていました。
ブライトは、カムランやハサウェイの件を処理する代わりに、アクシズ・ショックを否定する選択を迫られます。地球を救ったはずの戦いのあとに、今度は真実と家族、仲間の処遇の間で苦しむことになったのです。
──ブライト・ノアという人物の大変さは、たんに戦闘指揮が多かったことだけではありません。彼はいつも、年若いパイロットたちの感情、軍の都合、戦場の現実を同時に引き受けていました。
アムロには指揮官として向き合い、ジュドーには大人の代表として殴られ、アクシズ・ショックのあとにはニュータイプの可能性を知る者として沈黙を求められました。どの場面でも、ブライトは楽な場所にいません。
映画『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』シリーズでは、今後、息子ハサウェイの運命が描かれる物語で、ブライトが何を知り、どのような立場に置かれるのか。彼の苦労は、まだ終わっていないのかもしれません。
〈文/相模玲司〉
《相模玲司》
大学卒業後、編集プロダクションに入社。メンズファッショ誌の編集に従事したのち、フリーランスの編集・ライターとして独立。アニメ・漫画関連のムック本の制作や、週刊誌のWeb版でアイドルの取材記事やサブカルチャー記事の作成に携わる。
※サムネイル画像:Amazonより 『「機動戦士ガンダムUC 虹にのれなかった男」(出版社:KADOKAWA)』


