春から新学期や新入社員として新しい生活を迎えた人たちも、ゴールデンウィークという休息期間を経て、閉塞感だったり、やる気を失っているような、まさに“五月病”にかかってしまっているのではないかという時期。このタイミングに丁度ふさわしいアニメーション映画が登場したので紹介します。
それが2018年5月18日より公開をスタートした『GODZILLA 決戦機動増殖都市』。こちらが思いの他、考えさせられる大きなインパクトを持った映画となっておりました。
※今回の記事は『GODZILLA 決戦機動増殖都市』の中盤以降の展開にもガッツリ言及するのでネタバレ注意です。
メカゴジラも登場!?『GODZILLA決戦機動増殖都市』
『GODZILLA 決戦機動増殖都市』はアニメーションで描くゴジラの映画シリーズ第二弾。全三部作を予定しており、ちょうど真ん中にあたる作品です。本作では、前作で散開してしまった人類たちが再び集い、ゴジラと再び戦うという物語となっています。
勝機などないと思われていた人類に大きな希望を与えるのが、かつてゴジラによって破壊されたはずのメカゴジラ。二万年の時を経た地球にて、思いもよらぬ形でメカゴジラの残骸が進化を果たしており、人類の大きな武器となるという展開を見せます。このメカゴジラがなかなか意外な登場の仕方をして、そして物語の大きな役割を持つポイントとなっているので注目です。
人間と明らかに違う本性を見せるビルサルド達!
さて、そんな本作では前述のとおり、考えさせられる大きなインパクトを与える展開が用意されています。その展開を起こすのがビルサルドという人型種族たち。この映画の人類は、異星人であるエクシフ人やビルサルド人といった複数の人型異種族と協力し、ゴジラと戦うことになっております。
そんな中、ビルサルド人は自分たちが主導して開発していたメカゴジラを再発見できたということで、率先してメカゴジラを生かした作戦に取り組んでいくことになります。
次第にメカゴジラに傾倒していくビルサルドたちはその勢いを増し、なんと、最終的に次々と自ら機械に取り込まれていき、一つの回路のような状態に統合されていってしまいます。本人たちはそれが一番合理的といいながら、自らの意思をかき消していくような術に投身していきます。その姿はなかなか悪夢的です。
そんな、身を投げ出していくビルサルドの姿を前に、みんなのリーダーであり、地球人の主人公ハルオは戸惑いや反抗心を見せるのですが、言い争う間もなく準備不全の彼らの前にゴジラが接近し、物語はクライマックスを迎えていきます。
自ら取り込まれていくビルサルド人達は、なにを描いているのか?
機械に取り込まれていくビルサルドの人たちは非常に暗喩的です。
どんどん発展していき、ありとあらゆるものが機械化していく文明を描いているようでもあるし、人工知能やロボットによって人類自体が不要になっていくような時代を描いているようでもあります。そして何より私がもっともイメージしたのが、社会の歯車となって企業の一員として働き詰めとなる日本人らしい勤労社会を描いているようにも思えました。
ゴジラを倒すという、ただ一つの非常に大きなゴールのために、“個”をひたすら殺して邁進するビルサルドたち。そのゴールを経済的な成功などに置き換えればまさに会社経営などに置き換えることができるように思います。
いくら会社として意識はなくとも、集団行動をする以上、社員ひとりひとりはどこかで自分を殺す必要が出てくるわけですが、いきすぎた会社では、自分というものを徹底的に殺さないとやっていけないような所もあるでしょう。
まさにそんな徹底的に“個”を殺していくのが正解であり、合理的だという、ビルサルド人の考え方は、まさに度が過ぎた会社経営のようです。
そんなこともあり、新入社員として新たな会社での生活を始めてみて、どこか自分がなくなっていくように感じた人。もしくはすでに長年会社に勤めていながらも今の自分の在り方に疑問を抱えていたような人。そんな人達には特に特別な思い入れが発生する展開の映画なのではないかと思いました。
なんてことを言うのも、私がまさにそんな“個”の消失に悩んできた人間の一人だから。
自分大好き人間だったので、初めて勤労という世界に踏み出して以来、どこまで“個”を殺すのが正解かというラインに悩まされてきました。
映画でビルサルド人が純粋に身を投げ出す姿には、「それでいいのか?」「それが正解なのか?」と疑問を投げかけずにはいられませんでした。
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“個”を殺せ、という悪魔のささやき
そして映画ではそんなビルサルド人がハルオ達にまで、機械に取り込まれるよう勧めていきます。ビルサルド人はハルオに対し、懸命に人でなくなることを肯定的に諭していくのです。
これは、まさに新入社員が体験する、社会の歯車として無心で生きよと選択を迫られるこの5月ぐらいの時期と同じような感じではないでしょうか。
機械と一つになり悲願だったゴジラを殺すのか? それとも人成らざるものとしてゴジラに勝利するのは本当に勝利と言えるのか?
このハルオが迫られる選択は、まるで会社に溶け込むか、それとも会社に抗うのかという新入社員の姿のようでもあります。
本作ではビルサルドの諭しを悪魔のささやきの様に描きます。物語自体は機械化することを実は否定的に描いています。これはハルオに、そして映画を観に来た観客に、「考えることをやめたら、人じゃなくなるぞ」と訴えかけています。
今、社会の歯車になりかけて、自分を見失いかけているあなた。ビルサルド人になってはいけない! 会社を辞めろというわけではないけど、自分を完全になくしてしまったら、もはや人ではないのです。どうにか折り合いつけて、“個”を失わないでいきましょう。人間でありながら、ゴジラに勝つのです。
がんばれ、新入生に新社会人。未開の地であろうとも勝利をつかむのです!
(Edit&Text/ネジムラ89)
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