緊急事態宣言延長により、私の住む大阪でも対象地域に含まれているということもあって、まだまだ外出には一段と気を遣わないといけない日々が続いています。
元からインドアではあるわけですが、一段と家から出ないようになり、部屋に籠って映像配信サービスを使ってアニメや映画を観てばかりです。そんな中、Netflixにて「なんぞこれ」と驚かされるアニメの配信が始まりました。
その名も『YASUKE -ヤスケ-』。
一見、時代劇物なのですが、どうも内容を観ていると“様子がおかしい”のです。
◆実在のアフリカ出身の武士・弥助の物語
『Yasuke』は、天下統一を目前にした織田信長が本能寺で自決し、家臣によって介錯を受けるシーンから始まります。その家臣こそがこの物語の主人公・弥助。
アフリカ出身で、かつて宣教師と一緒に日本へ来国したものの、信長に見入られ“弥助”という名をもらい武士として従事することになります。そんな弥助が主君を失ない、落ちぶれてしまうのですが、そんな弥助が一人の少女との出会いによって、新たな戦いに巻き込まれていくことになります。
この弥助という人物は、実在していたとされる武士。特異な背景を持ちながらも、日本でも知名度はそれほどなこともあり、架空の人物と思ってしまう人もいるのではないでしょうか。
◆ただの時代劇物にあらず!ロボットに結界にミュータントとなんでもあり!?
外国人の武士という設定以上に、弥助という人物を架空の存在と捉えてもおかしくないのが、実はこの『Yasuke』というアニメーションはただの時代劇アニメーションではないことが、その冒頭から明らかになっています。
燃え盛る本能寺の周囲で争う人々たち。その合戦の様子には明らかに時代にそぐわない巨大なロボットが登場していたり、謎の結界のようなものを人々が張り攻撃を防いだり、物語を追っていくと、電撃を放つことができるミュータントの存在が明らかになったりと、この作品の世界観は、ただの日本ではないことが明らかになります。
ロボットや、特殊能力などなんでもありの世界の中で、主人公の弥助はただその身一つと刀を使って戦っていくのだから、これがまた熱い。Netflix作品らしく、バイオレンス描写も容赦なく描いているので、いつも以上に手に汗握る臨場感のある戦いを体験することができます。
◆制作形態も実は変わっている!?
題材も、世界観も、ストーリーもクセのある『Yasuke』ですが、どこが制作しているのかと思えば、『ドロヘドロ』『進撃の巨人The Final season』『呪術廻戦』と、まさに今ノリにノっているMAPPA。近年よく話題作の制作で名前を見かけるアニメーション制作会社ですが、またもやこちらでも制作に名を連ねています。
以前より、珍しい題材のオリジナル作品から、コアなファンがつく大人気原作ものに至るまで、挑戦的な企画にも意欲的に取り組む会社だと思っていましたが、またもやこんな突飛なオリジナル作品を繰り出してくることに、その生産性とクオリティーに驚かされるばかりです。
アニメーション制作のスタッフのほとんどは日本人が多い中、原案・監督・制作総指揮を務めるのは『キャノンバスターズ』でも日米合作経験のあるラション・トーマス氏が担当。近年、国境を超えて制作を進める合作企画はどんどん増えている状態にありますが、本作もそんな中の一本となっています。
◆超次元時代劇はもはやいちジャンル!?
思えば、日米合作のアニメーション作品といえばこれまでも多数存在しました。
『アフロサムライ』(2006)や『ニンジャバットマン』(2018)などは同じく日本の戦国時代を舞台にしており、ただの時代劇に収まらないところが共通しています。
今回リリースされた『Yasuke』もこの系譜にあることがわかりますが、どうも日米でタッグを組むと、超次元的な時代劇になりやすい傾向があるのかもしれません。
そういえば、現在アメリカでも絶賛興行中の『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』が、全世界興行収入が515億円に達して、2020年公開の映画における成績が全世界1位となったというニュースが報道されました。この1位はもちろん、2020年の映画市場が新型コロナウイルス感染症の影響を強く受けていることを示してもいるのですが、しっかりアメリカで『鬼滅の刃』が好成績を収めていることも要因の一つです。
『鬼滅の刃』も時代劇の側面を持った作品であることを思うと、アメリカ市場を狙って日本のコンテンツを打ち出していくのには、時代劇......中でも日本刀を振り回して戦うアクション作品は手堅いと言えるのかもしれません。
まだこれらにジャンル名らしいジャンル名は付いていませんが、作品が充実していった暁には、“異世界転生物”のような独自のジャンルとして名前が付いていくのかもしれません。
〈文/ネジムラ89〉
《ネジムラ89》
アニメ映画ライター。FILMAGA、めるも、リアルサウンド映画部、映画ひとっとび、ムービーナーズなど現在複数のメディア媒体でアニメーション映画を中心とした話題を発信中。缶バッチ専門販売ネットショップ・カンバーバッチの運営やnoteでは『読むと“アニメ映画”知識が結構増えるラブレター』(https://note.com/nejimura89/m/mcae3f6e654bd)を配信中です。Twitter⇒@nejimakikoibumi