毎年、この時期になると日本映画製作者連盟より、前年の映画産業レポートが発表されるわけですが、今年も2021年の興行結果が発表されました。*1
日本の映画市場全体では年間で興行収入1618億円9300万円にも及び、新型コロナウイルス感染症の影響で著しく数字の落ち込んだ2020年に比べると前年比113%の成績となりました。それでも、’00年の発表以来、最高額を記録した2019年の2611億円に比べると、まだまだ市場が回復したとは言えないのが悲しいところ。現在もオミクロン株の感染拡大の影響を強く受けており、2022年の興行の完全回復は一筋縄ではいかない状態です。
そんな中、今回の映画産業レポートで、大事件に感じているのが「海外アニメーション映画のヒット作がなかった」こと。
実は2021年に10億円以上の興行成績を残した洋画はわずか5本しかなく、その中にはアニメーション映画が一本も入っていないのです。海外アニメーション映画のヒット作がない2021年を踏まえ、2022年はどうなっていくのでしょうか。
◆ディズニーの方針転換の影響は強大!?
最後に10億円を超える興行収入記録を残したのは、皮肉にも2019年の洋画の興行収入記録で首位となった『アナと雪の女王2』で133億円に及ぶ大ヒット作でした。この興行が落ち着いた頃には、日本も新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、多くのアニメーション映画が延期を発表。2020年3月に公開予定だったピクサースタジオの当時の新作『2分の1の魔法』も8月に延期となり、興行収入も10億円を割る数字となりました。
それまで、ディズニーもしくはピクサーのアニメーション映画と言えば、コンスタントに10億円は超える勢いがあったのですが、日本でも映像配信サービスDisney+をスタートしたことに伴い、『ソウルフルワールド』や『あの夏のルカ』といったピクサーの新作は、映画館での上映を取りやめ会員向けの無料配信を実施したり、『ラーヤと龍の王国』や『ミラベルと魔法だらけの家』などの本家ディズニー作品は、劇場上映開始と同時に有料配信をしたり、公開からひと月ほどで有料配信を実施するなど、劇場に絞らない公開体制にシフトしています。そういった影響もあってなのか、かつては軽々と超えてきていた興行収入10億円の壁を、2021年に劇場公開を実施したディズニーのアニメーション映画たちは越えることができませんでした。
その上、2022年3月11日に劇場公開を予定していたピクサーの最新作『私ときどきレッサーパンダ』も、Disney+配信での公開に切り替えることを発表しました。大ヒットを生み出し続けてきたディズニーの現状は、海外のアニメーション映画への入り口として、機能していた従来から、大きく変化を感じさせる事態となっています。
◆日本の海外アニメーション市場を広げるユニバーサル作品!
そんなディズニーが劇場での活躍が乏しくなってきている中、2022年以降の海外アニメーション映画界を支えてくれる存在となるかもしれないのがユニバーサル作品です。
ユニバーサル傘下のドリームワークスアニメーションが製作し、2021年末に日本上映を実施した『ボス・ベイビー ファミリー・ミッション』は前作の30億円級ほどの大ヒットにはなりませんでしたが、10億円に迫る好成績で年末年始以降も興行を頑張っています。
そして2022年の海外アニメーション映画を支えるであろう会社として忘れてはいけないのが、同じくユニバーサル傘下のイルミネーション・エンターテインメント。言わずと知れた“ミニオン”でおなじみの会社です。
イルミネーションは、ミニオンシリーズの他にも『ペット』シリーズや『SING / シング』シリーズなど、近年ディズニー以外でコンスタントに興行収入10億円以上の成績を残しています。
《日本興行で10億円以上のヒットとなったイルミネーションエンターテインメント作品》
- 怪盗グルーの月泥棒3D(2010年):12億円
- 怪盗グルーのミニオン危機一髪(2013年):25億円
- ミニオンズ(2015年):52.1億円
- ペット(2016年):42.4億円
- 怪盗グルーのミニオン大脱走(2017年):73.1億円
- SING / シング(2017年):51.1億円
- グリンチ(2018年):13.2億円
- ペット2(2019年):21.8億円
(出典:一般社団法人日本映画製作者連盟日本映画産業統計参照 http://www.eiren.org/toukei/)
今やディズニー作品が映画館でなかなか上映されなくなってしまった日本で、海外アニメーション映画人気の間口を広げる役を担えるのは、ユニバーサル作品ではないでしょうか。というのも、今年2022年はイルミネーションの新作映画が続々と上映予定を発表しているのです。
◆2022年公開予定のイルミネーション作品たち!
2022年はすでにイルミネーション製作の映画を2作、日本で上映する予定であることが発表されています。
まずは目前の2022年3月18日には、字幕版と吹替版で2種類の歌声を楽しめることでも話題となった『SING / シング』の続編、『SING / シング:ネクストステージ』が上映されます。
実際に歌手活動している方をキャストに起用するところも注目された前作でしたが、今作でも新キャラクターのゾウのアルフォンゾ役にSixTONESのジェシーさん、そして同じく新キャラクターのオオカミのポーシャ役にBiSHのアイナ・ジ・エンドさんが起用されることが発表されました。どちらのキャラクターも作中に歌唱シーンがあるということで、今作でも字幕・吹替の聞き比べが楽しめそうです。
そして、海外では夏に公開され、日本でも同時期に公開を期待したいのが、待望の『ミニオンズ』シリーズ最新作『ミニオンズフィーバー』。日本では2022年中の公開予定であることを発表しています。今作では幼き日のグルーが、ミニオンたちを率いて起こす騒動を描いた内容となるようで、久しぶりにミニオンたちの活躍を大スクリーンで楽しむことができそうです。当初は2020年に公開を予定していたものの、丸々2年の延期となってしまった作品なだけに、今年こそ映画館でミニオンに会えることを期待しましょう。
そして忘れちゃいけないのが、海外では2022年12月21日に公開を予定している、あのスーパーマリオのアニメーション映画。実はあのマリオの映画を製作しているのもイルミネーションです。日本では具体的な公開時期は2022年初頭時点ではまだ発表されていませんが、できることなら海外と同じタイミングで映画館で楽しみたいところです。続報の発表が待ち遠しいところです。
「スーパーマリオ」のアニメ映画が2022年ホリデーシーズンに公開決定。
北米では2022年12月21日公開。マリオなど登場10キャラクターの声優キャストも決定。#NintendoDirectJP pic.twitter.com/Dblanaq4aE— 任天堂株式会社 (@Nintendo) September 23, 2021
このように、いずれも日本でのヒットが期待できる作品が控えているということで、2022年の海外アニメーション界はぜひイルミネーションの活躍を応援していきたいところ。
昨今は中国アニメーション映画など、海外製作アニメーションの上映作品もバラエティ豊かになってきていますが、それでも全国のシネコンで大盛況となるような作品が出てきているかといえばまだまだです。日本は自国製作のアニメーションが充実しているだけに、「海外の作品を上映しなくても良いじゃん」という流れになってしまうことは懸念したいところ。
日本が、海外の大ヒットアニメーションからマニアックな作品まで上映されるような国になるよう、イルミネーションがその市場を押し拡げるきっかけとなってくれることを祈っています。
*1 一般社団法人日本映画製作者連盟公式サイト
http://www.eiren.org/index.html
〈文/ネジムラ89〉
《ネジムラ89》
アニメ映画ライター。FILMAGA、めるも、リアルサウンド映画部、映画ひとっとび、ムービーナーズなど現在複数のメディア媒体でアニメーション映画を中心とした話題を発信中。缶バッチ専門販売ネットショップ・カンバーバッチの運営やnoteでは『読むと“アニメ映画”知識が結構増えるラブレター』(https://note.com/nejimura89/m/mcae3f6e654bd)を配信中です。Twitter⇒@nejimakikoibumi