<画像引用元:https://www.tbs.co.jp/anime/5hanayome/ ©春場ねぎ・講談社/映画「五等分の花嫁」製作委員会>
「ハーレム物苦手なんだよなぁ……」と距離を置いていた自分がいかに愚かかを思い知りましたよ。
2022年5月20日より映画『五等分の花嫁』が公開されるということで、それに合わせてTVアニメシリーズ『五等分の花嫁』を始めから一気に観て分かりました。この作品が然るべくしてヒットした、雑に距離を置くには惜しいとても真摯で、まっすぐな恋愛アニメーション作品だったのです。
◆『五等分の花嫁』とは
『五等分の花嫁』はもともと2017年〜2020年にかけて週刊少年マガジンで連載されていたラブコメ漫画。主人公は学年首席の優等生である高校生・上杉風太郎です。
家が貧乏なこともあり、ひょんなことから同級生の美少女五つ子の家庭教師となるのですが、五つ子それぞれが赤点ギリギリの成績だったり、複雑な課題を抱えていたりとトラブル続き。そんな問題を風太郎が解消していき、次第に五つ子と親密になっていくことで五つ子たちは風太郎に恋愛感情を持つようになっていきます。
そんな漫画を原作に2019年にTVアニメシリーズ『五等分の花嫁』がスタートし、本作のブレイクから2021年には第二シリーズが放送されました。
◆ハーレム物の苦手な部分とそこには属さなかった『五等分の花嫁』
『五等分の花嫁』のあらすじだけを聞いて、主人公の男の子を女の子が囲む、淫らな作品だと勝手にイメージしてしまっていたのですが、観始めてみると意外とそうでもないことが分かります。
ラッキースケベ的な展開がゼロではないものの、本作の主人公の風太郎は基本的に女の子にデレデレしない誠実な人物。可愛い女の子に囲まれている状況でありながら、スケベなことを想像するよりもしっかり家庭教師として、五つ子の成績向上を目指します。
もちろんそこには風太郎が貧乏な家庭ゆえに収入を得ることに熱心という、別のベクトルの下心がきっかけとしてあるわけですが、その前提のおかげで風太郎の人間味が増して親近感が生まれます。
しかも、貧乏性で少しズレている部分はあれど基本“いいやつ”。変わり者の五つ子たちがそれぞれ個性の違う魅力を持ったヒロインとして描かれているのはもちろんなのですが、風太郎も素直でまっすぐな魅力を兼ね備えた人間であることがしっかり伝わります。
五つ子たちが惚れていくのも納得というぐらい、説得力を持ったキャラクターなおかげで、いつしか夢中で風太郎と五つ子の恋愛劇を応援していました。
◆“なあなあ”な関係を良しとしない作品
そしてもう一つ、『五等分の花嫁』の見事な点がそれぞれの恋心もぞんざいに扱わない所にあります。ヒロインが複数いる作品では、三角関係や四角関係をなあなあに描いて、それとなく平和でみんな仲良くしていこうという着地を見せる展開が時折あります。
穏やかな結末としては気持ちが良いけど、現実の恋愛ってそんな結論で折り合いをつけられないよね? という、嫌なツッコミをしたくなるのですが、時折しっかりと恋路のぶつかり合いを描いた作品が登場します。
2007年放送のTVアニメ『CLANNAD-クラナド-』は原作が恋愛アドベンチャーゲームということで複数のヒロインが登場するのですが、第18話『逆転の秘策』ではしっかりそのヒロインたちの中から主人公が誰を選んだのか、と選ばれなかった側の心情を描くシーンが描かれます。
あるいは、同じく2007年放送のTVアニメ『School Days』も原作のゲームを踏まえ、複数のヒロインが登場する中、すれ違いや嫉妬、肉体関係にいたるまで、ドロドロとした恋愛模様の展開が描かれ、最悪の惨劇に着地していく模様が1クールにかけて描かれていきます。『CLANNAD-クラナド-』とは対照的ではあるとはいえ、なあなあな関係で終わらせないという意味では、本作も真摯です。
こういった作品と同様に『五等分の花嫁』は五つ子のそれぞれが風太郎への好意や、ライバルである姉妹との関係との折り合いをつける姿がしっかり描かれています。
次第に他の姉妹も風太郎に好意を抱いていることを知っていくがゆえのぶつかり合いが描かれたと思えば、それをどうにか抑えようとする姉妹も現れたりと、自分や他人の好意といかにして向き合うかの姿が丁寧に描かれます。この姿は間違いなく当初想像していた「ハーレム物」とは全く違うもの。そこには確かに、ひたむきで誠実な青春恋愛物語がありました。
そして、その物語がついに終わりを迎えるのが映画『五等分の花嫁』です。TVアニメシリーズでぶつかり合った5つの恋路が、ある着地を見せます。決して、なあなあな関係には終わらせず、風太郎と五つ子の恋の果てを描くというのは、前述の作品同様、作中のキャラクターの好意にしっかり向き合う態度と言えるでしょう。果たして風太郎は、どういう結論を見出していくのか。“苦手”どころか、そこにはすっかり目が離せないドラマがあったのでした。
〈文/ネジムラ89〉
《ネジムラ89》
アニメ映画ライター。FILMAGA、めるも、リアルサウンド映画部、映画ひとっとび、ムービーナーズなど現在複数のメディア媒体でアニメーション映画を中心とした話題を発信中。缶バッチ専門販売ネットショップ・カンバーバッチの運営やnoteでは『読むと“アニメ映画”知識が結構増えるラブレター』を配信中です。Twitter⇒@nejimakikoibumi
©春場ねぎ・講談社/映画「五等分の花嫁」製作委員会
Copyright© 1995-2022, Tokyo Broadcasting System Television, Inc. All Rights Reserved.