夏アニメの中でも抜群の人気を集めている作品といえば『リコリス・リコイル』でしょう。本編も佳境に入り、衝撃の事実が明かされて仰天させられ、話が一体どこへ行き着くのか目が離せない状況にあります。

 そんな『リコリス・リコイル』。見れば見るほど良くできていますが、なぜこんなにまで人気なのか? 偶然じゃない仕掛けがこのTVアニメには実はあります。

◆“リコリス”の2人の心の変化を描いたストーリー

 『リコリス・リコイル』は、世界一治安が良いとされる架空の日本で、その裏側で秘密裏に犯罪者たちを抹殺している治安維持組織“DA”に所属する凄腕の女性暗殺者“リコリス”である錦木千束(にしきぎ ちさと)と、井ノ上(いのうえ)たきなの2人を追った物語。

 見た目は可愛い女子高生でありながら、ひと度事件が発生すると圧倒的な運動神経と銃さばきで、少女たちは犯人を抹殺していく……と聞くと殺伐とした作品に聞こえるのですが、本作が絶妙なところは、主人公の千束は組織の犯人を殺すことに反抗的な態度を取る点にあります。

 「たとえ悪人であっても命まで奪うことはしない」。DAに忠実だったたきなは、その様子を目の当たりにし、次第に心境にも変化が生まれていきます──。

◆ポップなスタートとジワジワ迫るハードな部分が人気を集める理由の一つ?

 DAに所属しながらそれに反発する千束のなにが絶妙なのかといえば、千束が人を殺さない側であるおかげで、本来であれば陰鬱になりかねないようなシリアスな内容が、見やすくポップな内容になっているのが『リコリス・リコイル』が人気を集める理由の一つなのかもしれません。

 千束の可愛さや明るさも相まって、これは楽しいアニメなんだと思えるようにできているので、ハードな背景に対して視聴者の間口を広く持つことができます。

 しかも、そこから序盤では明かしていないシリアスな背景への言及を徐々に進めていくのが上手くてずるい!

 犯罪者を始末する部隊の話なので、回を追うごとに大怪我や死人までもが発生していき、なぜそこに千束が所属しているのかに言及していくことになります。

 このようなハードな物語の部分は、放送回を追っていくごとに少しずつ濃いものにしていくので、ポップな作品だと思って観ていた人もいつの間にかハードでシリアスな作品世界に没入させることができます。

 その転機というのがまさに第8話。このエピソードで、ポップで楽しいと思っていた人に圧倒的な衝撃を与える“ある事件”へと繋がります。

 これまでのあの楽しい時間はなんだったのかという、ハードな側面がくるりとポップな内容を包み込んでしまい、主人公たちと同じく楽しかったかつての時間がより愛おしくなるとともに、いったいこの後どうなってしまうのか気になってしょうがなくなります。

 しかも、主人公を2人にしているところも仕掛けとしてもうまく機能しています。作品をポップにする役割を持つ千束を外から観るたきなの視点があるおかげで、視聴者は自然とたきな側の視点に自然と感情移入できるようにして、物語を飲み込めるようにしています。

 世界観だったり、勢力だったり、人物関係だったり。複雑な世界をいかにして視聴者を飲み込ませるのか、の工夫が見事に成功しているアニメと言えます。ハードな世界観をポップという綱一本で渡っていく見事な芸当です。

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