日本でも無事公開を果たし話題となった『スパイダーマン:スパイダーバース』。いろんなタッチのスパイダーマンが一画面に収まっている光景は、アニメーションだからこそできる面白い体験ですよね。

 そんな、いろんなタッチの画が一本の作品に収まっている日本の作品が、実はこの『スパイダーマン:スパイダーバース』と同時期に上映されていたことをご存知でしょうか。

 その名も『ある日本の絵描き少年』。今回はこの作品がどんな作品か、紹介させてください。

少年の成長と共にアニメのタッチも成長する映画!?

 『ある日本の絵描き少年』は一風変わった20分ほどの短編アニメーション作品。なにが変わっているかといえば、そのアニメーションのタッチ

 絵を描くことが好きな主人公シンジくんが成長していく姿が描かれるこの物語では、キャラクターそれぞれがその時代の自身の絵のタッチで描かれます。例えば、シンジくんが小学生の頃のお話は、絵具を使ったようなアニメーションで描かれていたり、漫画家を志している時期はシャープペンシルで大学ノートに描かれたようなタッチのアニメーションになります。

 しかも、面白いのはキャラクターごとにタッチが違うところ。シンジくんは絵が好きなだけあって明らかに“絵が上手い子の絵”として描かれるのですが、奇抜な画を描く子はその子だけ思いっきり奇抜な線で描かれていたり、大学時代の話になるとある人間は特徴的な絵を描く人なのか、その人だけアーティスティックに描かれた同級生が登場したりと、まったく異なるタッチで描かれたキャラクターが同じ場面にたびたび登場するので、絵面としてとても面白い仕上がりになっているのです。

ある日本の絵描き少年
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絵を描くのが好きな人にはたまらない絵かきあるあるの数々

 絵描きあるあるとしても楽しめるのもこの作品の魅力の一つです。

 それぞれの年代の子が描いたであろう絵のタッチが非常にリアルなのです。『ドラゴンボール』の悟空にモロに影響を受けているであろう子は、しっかり“小学生ぐらいの子が悟空を意識している絵”として描かれているのです。この絵の按配が絶妙。「こういう絵を描いている子、確かに居た!」と懐かしくなる瞬間が多々ありました。著作権のラインを躊躇なく踏み込むかつての自身の幼い頃まで抉られるようですごい体験でした。

 さらに注目して欲しいのは、そのアニメーションが描かれている場所。幼い頃は、チラシの裏で描かれていて、それが絵描き玩具に代わり、そのうちノートに変わったかと思えば、漫画原稿用紙に変わったりと、なにをキャンバスにするかもしっかり描かれる時代によって変わっているのも上手いです。絵を描くという行為がこんなに豊かなものだったのか、ということに今更ながら気づかされました。

実はもうひと仕掛け?意外な要素も盛り込まれている?

 さらにこの作品の驚いた点がもう一つあります。タッチの違うアニメーションのアイデア一つに尽きず、ある別の挑戦的な試みも盛り込んでいるのです。それが障がい者タレントを起用して、自然と作中の登場キャラクターとして登場させているところ。

 近年はNHKの『バリバラ』といった番組なども登場して、テレビでも障がい者とされる方々の活躍が観られるようになってきましたが、映像メディアに登場させることを厭う声もまだまだなくならないのも実情です。そんな現状の中、本作では自然とストーリーのキーキャラクターとして、障がい者の方が活躍されていて、あくまでも一個人として登場する普通の物語になっていたところが、逆に新鮮味があり、不思議な体験でした。

 海外では映像メディアに限らず、表メディアでも盛んに障がい者とされる方が活躍される動きが出来てきています。その時流にいち早く乗っているという意味でも、新たな風を呼び込む作品として本作の登場は大きいでしょう。

 そんな、『ある日本の絵描き少年』はすでに数々の映像作品賞を受賞しており、映画館・下北沢トリウッドさんでは2019年4月5日まで上映を実施しています。限定的な公開ではありますが、かなり注目度の高い作品なので話題に昇って、もっと広く公開される機会に恵まれて欲しいなぁ、とも思っています。『スパイダーマン:スパイダーバース』の続編企画の始動も報道されている昨今ですが、それが待ちきれない人には特にイチオシの映像体験が待っています。

(Edit&Text/ネジムラ89)


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