すっげー!

 と、思わず叫びたくなる体験を北海道でして参りました。

 11月2日(金)~11月5日(月)にかけて北海道の新千歳空港ターミナルビル内の映画館・ソラシネマちとせを中心に、第5回新千歳空港国際アニメーション映画祭が開催されました。このイベントでは国内外のアニメーション作品をテーマに、コンペティションやトークイベントや爆音上映から展示作品など様々な催しが行われる、もはやこの時期の恒例イベントとなっています。

 第5回目を迎える今年の見どころの一つとして、コンペティションの一つとして本映画祭初の長編部門が設立された点にあります。

 このノミネート作品がすごかった、のでどうすごかったのかをピックアップしていきます。

第5回新千歳空港国際アニメーション映画祭長編部門ノミネート作品

 今回長編部門にノミネートされた作品は以下の5本。

  • 『FUNAN』
  • 『The Breadwinner(生きのびるために)』
  • 『This Magnificent Cake!』
  • 『On Happiness Road』
  • 『少年ハリウッド -HOLLY STAGE FOR YOU- 完全版』

 国内外の様々な作品が集うラインナップとなっており、いずれもノミネートされるだけある評価を得ている作品ばかりです。

 例えば『FUNAN』は、歴史あるアニメーション映画祭であるアヌシー国際アニメーション映画祭で2018年の最高賞であるクリスタル賞を受賞した作品です。対する『The Breadwinner』はアニー賞にて日本作品を抑えてインディペンデント部門で受賞。『This Magnificent Cake!』はザグレブ国際アニメーション映画祭、そしてオタワ国際アニメーション映画祭でグランプリを受賞。そして『On Happiness Road』は東京アニメアワードフェスティバルのグランプリの他、それぞれ世界各地で賞を受賞しています。まさに近年のアニメーションの映画賞で話題になった作品が勢ぞろいしている状態なのです。

2018年の“今”観ておきたい、それぞれの視点

 箔のある賞を数々受賞してきた強豪たちなだけに、作品の内容もやはりすごい!

 『FUNAN』は70年代後半のポル・ポト派によって支配されたカンボジアを舞台に、理不尽に奴隷のような扱いを受けることになっていく家族の物語を描いています。直接的なゴア描写こそないものの地獄めぐりというような、辛い境遇の数々には目を覆いたくなるのですが、その物語のラストのわずかな希望を感じさせるラストには涙がボロボロ出てきてしまいました。

 一方で『The Breadwinner』は00年代のタリバン政権下のアフガニスタンに住む家族の物語を描いた一作。女性単独では物も買えないイスラム圏の文化の下、理不尽にも父親を刑務所に連行されてしまい、やむなく男のふりをして生活することになる少女が主人公。日本とはまったく異なる環境にこれまた衝撃を受けます。本作は“物語”をテーマに、そんな境遇に一筋の希望を添えるような一作となっており、これまた感動的な作品となっています。どちらも社会的な弱者視点の切り口でありながら、テイストもアニメーションの使い方も異なるある意味、対照的な作品です。

 そして、同じく社会的弱者視点も持ちながら、それをシュールでユーモアなテイストに落とし込んだストップモーションアニメーション作品が『This Magnificent Cake!』です。19世紀末より始まるアフリカの植民地化の時代を舞台に、奴隷のように扱われるアフリカの人やそれを使役するために奔走する国外の人間達を、どことなく間抜けで面白く、俯瞰的に描いたオムニバス形式の作品となっています。本作は前述の2作同様、歴史における弱者と強者の関係がポイントとなる作品ですが、テーマの伝達の仕方にはこんな方法もあるんだよ、と教えてくれる変わり種です。

 それらの壮絶な歴史背景と一転して、もっと日本人にも身近に感じられる個人的な物語が描かれるのが『On Happiness Road』です。台湾出身の女性チーの過去と現在の物語を往復しながら、現代に生きる人間の悩みや葛藤が描かれる一作。前述の作品たちとは時代も問題も違うのだけど、現代社会は現代社会で重く辛い悩みや選択があるということが描かれており、これまた違った目線で対照的な作品となっています。

 移民問題がまだまだ大きな課題となっており生きづらさをまだまだ感じる2018年現在の視点で観ると、どれもより味わい深い作品ばかりです。どれも今観るべき作品であり、今評価されているのも納得の作品達です。

『少年ハリウッド』がノミネートされることの有意味性

 さて、唯一の日本作品であり、異色の選出といった感じなのが『少年ハリウッド -HOLLY STAGE FOR YOU- 完全版』です。

 本作がどんな作品かというと、元々は小説を原作に持つ作品。2014年、2015年と2クールにかけてTVアニメ化を果たしました。5人の10代男性アイドルユニット“少年ハリウッド”の活躍を描いており、本作はその最終話である26話に追加映像を加えた完全版です。

 一見これまで紹介した作品から浮いているようにも思えますが、実はこの作品も2018年を切り取るという意味でも複数の点で有意味な作品だったりします。

 まずは、本作がクラウドファンディングで生まれた作品である点です。本作は、完全版として製作するためにクラウドファンディングで予算を募って生まれたという経緯を持つ作品。結果として目標金額を大幅に超える出資を獲得して、2018年末現在、アニメーション作品としては国内史上最大の支援額に到達するという快挙を成し遂げています。今の時代ならではの生まれ方をしたアニメと言えるでしょう。

 そして二点目。日本のアニメーション界でも台頭してきているアイドル物である点。ラブライブ!KING OF PRISM『キラッとプリ☆チャン』などのプリティーシリーズなど、今や日本のアニメーション界ではアイドル物はメジャージャンルの一つとなってきています。これらのムーブメントは“応援上映”という映画市場自体の新たな流行を生み出すなど、日本の今のアニメ界を語る上で避けては通れない勢いとなっています。

 そして三点目として、この作品も、前述の作品たちと“同じくアニメーション映画”であるという点。

 どうしてもこういった映画祭では、作家性の強いアニメーション映画ばかりが並んでしまい、商業性やキャラクターブランドとして確立している作品は除外されがちです。ですが『少年ハリウッド -HOLLY STAGE FOR YOU- 完全版』といった典型的なIP作品も、こうしてラインナップに並ぶことこそ、アニメーションという視点でいえば非常にフェアと言えるでしょう。

 これらの意味でも、今回の長編コンペティションに『少年ハリウッド -HOLLY STAGE FOR YOU- 完全版』がノミネートされているのは良いことだなぁ、とつくづく思う次第です。

 

――コンペティションの結果としては、グランプリを受賞したのは『This Magnificent Cake!』でした。とはいえ、今回挙げた5作品はどれも必見の作品。作品によっては鑑賞が難しい状態の物もありますが、2018年の“今”を感じるにはどれも見逃してほしくない作品です。ぜひ鑑賞のチャンスがあった際にはお見逃しのないようご注意を。ホント、どれもすっげー!体験が待ってますよ。

(Edit&Text/ネジムラ89)

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