なんだか真面目で難しそう。

 映画の予告編を観たときこそ、そう思ってしまいました。

 2022年3月11日(金)より日本公開をスタートした『アンネ・フランクと旅する日記』の予告編を最初に観た時の印象はそんな、とっつきづらさを感じるものでありながら、実際に本編を観てみると、その予想は覆されました。

 『アンネ・フランクと旅する日記』は、ユダヤ人として迫害を受け、密かに隠れ家での生活を続けた少女アンネを題材としたアニメーション映画です。架空の友人キティーに向けて、当時の生活を綴った日記は、当時の状況を知る貴重な文献として、「アンネの日記」として現在の日本でも広く知られる書籍となっています。今回の映画ではそんなイマジナリーフレンドであるキティーが現代によみがえるところから物語が始まり、キティーの目線からアンネの半生を追っていくことになります。

  監督を務めるのは『戦場でワルツを』や『コングレス未来学会議』などの傑作を生みだしてきたアリ・フォルマン監督。どちらもアニメーションを用いた仕掛けで、こちらの常識を揺さぶるような体験をさせてくれる映画だっただけに、『アンネ・フランクと旅する日記』もそれに準ずるヘビーな映画なのかと構えてしまう人もいることでしょう。

 しかし、今回声を大にして言いたいのは、

 この『アンネ・フランクと旅する日記』はポップで万人に勧められる傑作エンターテイメントだった、ということ。

 アンネの日記をそう使うのか!と驚かされるしっかり現代人に向けられた映画になっていたのです。

◆アンネを知らない?ならちょうど良いじゃん!

 そもそも皆さんはアンネ・フランクのことをどれぐらい知っていますか。

 実際に翻訳されたものを読んだことがあるという人となるともちろんのこと、案外「アンネの日記」自体を知らないという人も居るのではないでしょうか。

 アンネ・フランクは第二次世界大戦下で、ユダヤ人というだけで迫害を受けた被害者の一人です。わずか15歳で強制収容所で亡くなった彼女が、生前に残した日記は、のちに70以上の言語に翻訳され、当時のユダヤ人が陥っていた状況を広めることになりました。

 そんな背景のあるアンネですが、じゃあしっかり彼女のことを予習して行かないとダメなのかと言われたら、そんなことないのが『アンネ・フランクと旅する日記』のまた秀逸なところです。

  アンネの日記を媒介として、現代によみがえったキティーは、すでに何十年と時が経っていることを知らず、アンネを探すことになります。次第にすでに時代が変わっていることを知り、アンネの身に起こったことを調べていくことになります。日記に記されていることしか知らないため、キティーもアンネがどういう顛末を迎えることになったのかは、この映画の中で知っていくことになります。アンネという少女はどういう人物だったのか。それを知らない人ほど、この映画のキティーの心情に思いを重ねながら、アンネの顛末を追えられるのではないでしょうか。アンネのことを知らないからと言ってなんら問題なし。むしろこれをきっかけにアンネのことを知れる映画となっています。

◆キティーの冒険譚でありラブストーリーでもある

 この映画がアンネを知らない人にも観やすい映画となっているのは、やはりこのキティーというキャラクターがあってこそと言えます。

 アンネに何があったのか知らないまま現代によみがえったキティーにとっては、ナチス制服下の状況とのギャップはもちろんのこと、アムステルダムに点在するアンネの名を冠した施設に対する戸惑いを感じたりと、タイムスリップ物のような体裁となっているのが上手いです。極めつけには、現代で出会う青年に助けられたり、一緒に旅をしたりとラブストーリーでもあり、冒険譚にもなっていたりと、ここまでエンターテイメントに振り切ったような作品をアリ・フォルマン監督が送り出してくるというのは意外でした。

◆ドイツの現状はキティーにどう映るのか?

 一方で、観ている私たちをただ楽しませるだけの映画で終わらないところがこの映画のまた憎いところ。

 物語の舞台となっているドイツは、第二次世界大戦の反省から、大量の難民を受け入れる姿勢を見せてます。ですが、その難民の全てを満足に生活させられる状況にはなく、治安の悪化や多額の税金の投入から次第に難民への不満が高まることになっています。

 そんな現状が、この映画の中でも描かれており、キティーが出会う青年というのも、観光客の財布を目当てにスリをしているような人物。第一印象こそ最悪な彼ですが、そんな彼もただの悪人ではないことをキティーは知っていきます。

 もはや笑ってしまうほどアンネの名前が溢れている町で、苦しむ立場に追いやられてしまう人々が再び現れているという皮肉はなかなか痛烈。仕上がりこそエンターテイメント作品でありながら、しっかり鋭い刃を内に秘めているのが、またこの映画の素晴らしいところです。

 しかも、そんな現状に対して疑問を投げかけるだけでなく、しっかりキティーが一つの答えを導き出してくれるのだからたまりません。

「真面目で難しそう。」

 そんな偏見を気持ち良いくらいに払拭してくれる、明快な映画がそこにはありました。

〈文/ネジムラ89〉

《ネジムラ89》

アニメ映画ライター。FILMAGA、めるも、リアルサウンド映画部、映画ひとっとび、ムービーナーズなど現在複数のメディア媒体でアニメーション映画を中心とした話題を発信中。缶バッチ専門販売ネットショップ・カンバーバッチの運営やnoteでは『読むと“アニメ映画”知識が結構増えるラブレター』(https://note.com/nejimura89/m/mcae3f6e654bd)を配信中です。Twitter⇒@nejimakikoibumi

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