2022年1月28日にNetflix配信をスタートしたアニメ『地球外少年少女』が凄まじい!
2007年に放送され、いまだに根強い人気を持つ『電脳コイル』の原作者・監督としても知られる磯光雄氏の久しぶりの監督作ということで、注目が集まっていた作品です。
『電脳コイル』では、202X年を舞台に電脳メガネと呼ばれる近未来ガジェットを使って遊ぶ子供たちを主人公に、AR技術が普及した世界で「起こるかもしれない」出来事を見せてくれるエンターテイメント作品となっていました。そんな『電脳コイル』から約15年。磯監督が新たに描いた少年少女の物語では、さらに未来の2045年を舞台にしています。
宇宙旅行が気軽にできるようになったら。
AI技術が今よりもっと発達していたら。
宇宙で生まれ、地球での生活を知らない子供がいたら。
そんな、「もしも」の世界を見事な説得力で描いてくれる物語となっており、現代の私たちを未来の世界にグイグイ引き込んでくれる作品となっていました。中でもAIの可能性の描き方は、2021年公開の『ロン 僕のポンコツ・ボット』や『アイの歌声を聴かせて』といったAIを題材にした作品たちよりもさらに踏み込んだ課題や具体的な現象をいくつも描いており、AIに対する解像度が大きく上がる体験となっています。
そんな『地球外少年少女』でもう一つ、内容とは別にその挑戦性について言及しておきたいポイントがあります。それがこのアニメの尺です。
◆Netflix配信と劇場版前後編公開
『地球外少年少女』は特殊な公開形態を取ったアニメでもありました。前述の通り、2022年1月28日にNetflixで世界同時配信をスタートしました。実はこの『地球外少年少女』は話数単位に分かれており、1話約30分の全6話で構成されています。
そして、それとは別にもう一つ、前後編に分けた劇場公開版も2週間の限定上映という形で実施されました。
昨今は新型コロナウイルスの影響も拍車をかけて、配信サービスでのストリーミングと同タイミングで劇場公開をする作品も、世界的に増えてきており、日本でも多くはないにせよ映画『劇場』がAmazonプライムビデオと連携して、配信と上映を同時実施していたりと日本も例外ではなくなってきています。『地球外少年少女』もそういったストリーミングと劇場公開を実施した作品の一つなわけです。
◆劇場長編も視野に入れられていた『地球外少年少女』
磯氏はインタビューなどでも『地球外少年少女』の制作時に目標として、映画のサイズの作品にしようと考えていたことを語っています。ただし、制作の過程で通常の映画のサイズ感に収まらないボリュームになってしまい、現在のような6話編成の作品となったそうで、しかもそれでも収まりきれてないエピソードが存在していたことを明らかにしています(それらの未公開パートはBlu-rayの特典のコンテ本に収録)。
結果的にオーソドックスな映画という枠に収まる作品とはなりませんでしたが、映画という想定があっただけあって、実際に劇場の大スクリーンで『地球外少年少女』を観ると話のスケールと見事に合致して、満足度の高い体験となっていました。2週間限定上映かつ、公開館はわずか10館という状態でしたが、ぜひ劇場公開の機会をもっと設けるべき作品の一つであることは間違いないでしょう。
◆今アニメーションのサイズ感が解き放たれた?
本作を広い劇場規模の上映作品にできなかったのは、その特殊なボリューム感も要因の一つにはなってしまったでしょう。90分〜120分ほどの収まりの良さが実現したら、売り出し方も今とは違っていたことが想像できます。アニメーションはどうしても、1クール単位のTVアニメにするか、映画サイズの劇場長編アニメにするかといった2択がセオリーになっているので、難しいところです。
じゃあ、それ以外の尺の作品を生み出すことはできないか。実はそれ以外の尺の作品を送り出す文化として、OVAというジャンルが存在します。いや、むしろ存在していました、と、過去形になってきているのかもしれません。
パッケージ販売が一般的だった従来は、TVアニメや映画として公開される以外の販路として、かつてはVHSやLD、少し前ならDVDやBlu-rayなどで販売するしかなく、そういった形態で公開される作品はOVAという括りに入れられていたわけです。OVAの世界でも数多のアニメーションが生まれてはいたものの、やはりTVアニメや劇場版というサイズ感こそが花形で、OVAはそれに準ずる知る人ぞ知るような立ち位置となっていました。
そんな時代から現在。
映像配信サービスの普及で、ついにそのフォーマットの定番が打ち破られようとしていると言って良いでしょう。映像配信サービスといえば、時間や場所を自分で選んで楽しめることがメリットとされますが、制作側としてもTVの放送枠や映画館のスケジュールといった制限を気にせず作品制作が出来、しかもその映像配信サービスが、映像を楽しむ手段の一つとして今、一般化してきているわけです。アニメーションのサイズ感を従来以上に気にせずに制作できる時代が来ている以上、かつてクール制のTVアニメや劇場版といった作品の影に隠れたOVAに類するはずの作品が、脚光を浴びる日も近いでしょう。
その証拠に昨今は特別興行と称して、従来の映画サイズよりも短いアニメーション作品や、逆に長めの作品を前後編などに分けてイベント的に劇場上映する作品がどんどん増え、それなりに広い規模で実施されるケースが増えています。
今後はどんどんアニメーションのサイズ感は自由になっていく。そんな可能性を『地球外少年少女』の登場は痛感させてくれます。作中で描かれるようなAIだけでなく、アニメーションも従来の制限された“ゆりかご”を飛び出しています。
〈文/ネジムラ89〉
《ネジムラ89》
アニメ映画ライター。FILMAGA、めるも、リアルサウンド映画部、映画ひとっとび、ムービーナーズなど現在複数のメディア媒体でアニメーション映画を中心とした話題を発信中。缶バッチ専門販売ネットショップ・カンバーバッチの運営やnoteでは『読むと“アニメ映画”知識が結構増えるラブレター』(https://note.com/nejimura89/m/mcae3f6e654bd)を配信中です。Twitter⇒@nejimakikoibumi
© MITSUO ISO/avex pictures・地球外少年少女製作委員会