今年は梅津康臣(やすおみ)監督の久しぶりの監督作品が劇場公開されます。その名を『ヴァージン・パンク』と題して、『魔法少女まどか☆マギカ』や「<物語>シリーズ』で知られるアニメーション制作会社シャフトとのタッグで制作し、その作品が6月27日から公開されることが発表されたばかりです。

 梅津監督といえば知る人ぞ知る人物で、その特異なところは海外での評価も凄まじいです。というのも1998年に梅津監督が監督したアニメ『A KITE(カイト)』があまり他にない形でヒットを果たしたからです。

◆アクション描写が凄すぎたアダルトアニメ『A KITE』

A KITE

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『A KITE』は出自からして特殊なアニメーション作品でした。元々は梅津監督が原作・監督・脚本と企画から携わったOVA(オリジナル・ビデオ・アニメーション)作品として1998年にリリースされた全2話の作品です。

 主人公の少女・砂羽(さわ)が殺人請負人として、かつて自身の両親を葬った相手へ復讐を果たそうとする物語です。ただ、一般的なアニメーションと決定的に違うのは、年齢制限を要するアダルトアニメだった点です。

 80年代以降はビデオの普及に伴い、地上波放送や劇場公開作品だけでなく、よりニッチな需要や作家性の強い作品の第3の販路として、ソフトのみで販売されるOVAが発展していきました。その中でさらにターゲットが絞られるアダルトアニメはそんなOVAの中でも特異な存在でした。

 一方でアダルトな要素が含まれていれば、それ以外の要素は比較的自由に演出ができるということで、梅津監督はやりたいテーマや要素を詰め込んだオリジナル企画として昇華していきます。その結果、『A KITE』はアクションシーンが稀に見るレベルのクオリティーの作品となります。

 もともと年齢制限がかかっているという前提もあり、作中のアクション描写で倒されていく人物は凄惨な姿となったり、当時の一般的なアニメーションではできないショックの強い演出にあふれていました。

 ただ凄惨なだけでなく、ただでさえ動きまくる上に、しっかり魅せるアクションシーンとなっており、結果的に当初の意味以上に“大人が楽しめる作品”が完成したのでした。

◆海外展開でカルト的な人気を獲得! そして実写映画化へ

 そんなクオリティーの高さからたちまち高い評価を獲得した『A KITE』は海外進出を果たしていきます。

 ただ、アダルトアニメであることが海外展開にはネックとなるため、性的なシーンを削除し、アクションシーンをメインに一つの長編に編集した上でR指定作品として発表する“インターナショナルバージョン”が生まれます。

 インターナショナルとはいっても、もちろん日本展開もされているので現在も各種配信サイトなどで配信やレンタル、販売されています。

 こうして『A KITE』は海外でも広く見られる作品となります。その影響力は大きく、あのクエンティン・タランティーノ監督が『キル・ビル』の撮影時には、ゴーゴー夕張役で出演した栗山千明さんに『A KITE』の砂羽を提示し演技指導したというほどです。

 そしてついに2014年には『カイト/ KITE』という実写映画がアメリカで製作されます。もちろん本作の原作はアニメの『A KITE』。ただ人気を獲得するだけでなく、海外の別の作品へとその影響は移っていくほどでした。

◆満を持しての新作アニメーション!

 それほどの人気の作品だった『A KITE』でしたが、2018年に続編となる『KITE LIBERATOR』も作られたものの、その後は続編構想はあるとしながら、続く展開を見られないままでした。

 そんな流れでの今回の『ヴァージン・パンク』の発表です。監督作としては、2014年に放送された『ウィザード・バリスターズ 弁魔士セシル』以来10年ぶりというのですから、まさに満を持しての登板といったところ。

 バウンティハンターとして生きることになった主人公の羽舞(ウブ)の物語を描くそうですが、ティザービジュアルでは銃を持ち顔に血を浴びている姿は『カイト/ KITE』にも通じる作品性を感じさせます。

 しかも、今作は第1弾「Clockwork Girl」として続くシリーズ展開を想起させる前提となっている企画です。『A KITE』の衝撃が今年ついに再来……するのかもしれません。

〈文/ネジムラ89〉

《ネジムラ89》

アニメ映画ライター。『FILMAGA』、『めるも』、『リアルサウンド映画部』、『映画ひとっとび』、『ムービーナーズ』など現在複数のメディア媒体でアニメーション映画を中心とした話題を発信中。映画『ミューン 月の守護者の伝説』や映画『ユニコーン・ウォーズ』のパンフレットにライナーノーツを寄稿するなどその活動は多岐にわたる。noteではアニメ映画ラブレターマガジンを配信中。X(旧Twitter)⇒@nejimakikoibumi

 

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