偶然か作者が予知したのか、マンガやアニメで描かれたできごとや発言、アイテムがのちに現実になるケースが少なからずあります。たとえば代表的な作品でいうと、「ネオ東京」を舞台にしたSFマンガ『AKIRA』。東京五輪延期や新型コロナウイルス感染症を彷彿とさせるシーンなど、一部のファンの間では「予言の書」と囁かれるほど話題になりました。
◆1988年の時点でリモート飲みが登場していた!──『こちら葛飾区亀有公園前派出所』
新型コロナウイルス感染症の蔓延で外出自粛を余儀なくされた中、新しく生まれた文化といえば「リモート飲み」です。
今ではすっかり世間に浸透しましたが、平成、ましてや昭和の頃は「パソコンを前に一杯」が流行するとは想像もしていなかったはず。しかし、人気マンガ『こち亀』では、このリモート飲みが既に36年も前に登場していたのです。
リモート飲みを想起させたのは、原作マンガ第571話「テレビでこんにちは!の巻」でのこと。
給料300円の極貧生活を抜け出すため、アルバイトを探す両津勘吉。選んだのは日給2万円、能力不要のコンピューター会社の求人でした。
仕事内容は、モニターテレビや電話回線を駆使した「リモート同窓会」をセッティングすること。画面越しに同級生たちが会話しお酒を飲む姿は、現代のリモート飲み会とほぼ変わりません。
さらに、背景が描かれたパネルや服を貸し出すオプションも付属。現在でいうバーチャル背景まで的中させています。
この回が掲載されたのは1988年。まさに時代を先取りしたエピソードといえるでしょう。
◆ヒトカラがトレンドになることを予想していた?──『笑ゥせぇるすまん』
一人カラオケをさす「ヒトカラ」。今や当たり前の娯楽となったヒトカラですが、流行る前、カラオケは複数人でするものという固定概念があったのではないでしょうか。
ところが、藤子不二雄A先生による『笑ゥせぇるすまん』では、その概念が崩されヒトカラがトレンド化することを予見していました。
ヒトカラを思い起こさせるエピソードが描かれたのは、「夢のカラオケ・ホール」(中公文庫コミック版第3巻)。
喪黒福造がカラオケ好きのサラリーマン、恩地秀司をとあるカラオケ・ホールへ案内したところから始まります。
そこは、好みのコスチュームを着て、立体映像の観客を前に思う存分歌えるスポット……すなわちヒトカラを楽しむための場所でした。
さらに注目したいのが、喪黒が去り際に放ったセリフ。「近頃カラオケ・ホールがにぎわってるようですが、そのうち一人でカラオケを唄うオタク・カラオケ・カプセルというのができるんじゃないでしょうかねえ」とヒトカラの出現をズバリ予想していたのです。
喪黒が言うように、現在ではヒトカラの利用者が増えただけでなく、ひとりカラオケ専門店まで存在するように。未来をピタリと当てる先見力は脱帽ものです。
◆生成AIをもちいた『ブラック・ジャック』新作を予想?──『ドラえもん』
「TEZUKA2023」プロジェクトがAIとヒトのコラボレーションを実現。医療マンガの金字塔『ブラック・ジャック』が、新作読み切りとして2023年11月発売の『週刊少年チャンピオン』の紙面に蘇りました。この生成AIを活用するという現代的な試みを予見していたのが、国民的マンガ『ドラえもん』だったのです。
描かれたのは、アニメ「バカ売れ!?週刊のび太」でのこと。週刊誌の新人まんが賞に落選したのび太は、ドラえもんの道具を借りて自分の雑誌を作ることにします。
道具の一つである編集ロボットに雑誌の内容を相談したところ、みんなに好きな漫画家を聞いて、人気の高かった人たちに描いてもらうことに。ここで登場するのが「まんが製造箱」です。
たとえば手塚治虫先生の漫画を「まんが製造箱」に入れると、コンピューターがその絵柄や作風を分析してそっくりの能力を身につけます。
次に描いてほしい漫画の内容をいえば、ものの数分でまるで本物の手塚治虫先生が描いたようなオリジナル作品が完成するというカラクリ。その構造を聞けば聞くほど「まんが製造箱」と生成AIによる漫画制作が結びついてきます。
アニメの放送は2020年ですが、もとになった原作エピソード「週刊のび太」の初出は1978年。藤子・F・不二雄先生は、漫画制作の未来を見事に予言していたのです。
──レジェンド漫画家たちは、先見の明に優れていたようです。もしかすると、まだ実現していない未来も描かれているかも?
〈文/繭田まゆこ〉
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