『ジャンプ』作品にはクールなイケメンだったり、とんでもない悪役だったりしたにもかかわらず、ストーリーの進行につれてキャラ崩壊してしまった男たちがいます。その変貌ぶりに読者も驚かされましたが、逆に和むと評価を上げたキャラも。
次の4人は、これまで築いて来たイメージを一瞬にして崩壊させてしまったキャラクターたちです。
◆ピッコロがキャラ崩壊していった3つの要因──『ドラゴンボール』
ピッコロ大魔王の息子であり分身、生まれ変わりであるマジュニア(以下、ピッコロ)は、当初クールでヒールな悟空のライバルというポジションでした。しかし、魔人ブウ編では恥ずかしいフュージョンポーズをやらされたり、ゴテンクスとレベルの低い言い争いをしたり、自身のキャライメージを崩壊させるとともに読者の腹筋も崩壊させました。
ピッコロが変わったきっかけは、やはり悟飯との出会いが大きいでしょう。サイヤ人襲来に備えて悟飯を鍛え上げて、最後はナッパの攻撃から命懸けで彼を守りました。
サイヤ人との戦いやナメック星でのフリーザとの戦闘では、冷静で頭のキレる司令塔としての役目を見せています。このときはいわば、チョイ悪おじさん的な立ち位置で活躍しており、まだキャラ崩壊はしていませんでした。
第2のターニングポイントは、セル編での神との融合です。それまでピッコロは悟飯との絆は強いものの孤高の存在というポジションでしたが、元地球の神という立場も加わります。
これによって界王神など身分が上の存在と絡むことが多くなると、取り乱す場面も増えていきました。ラディッツ戦で死んだ悟空を界王のもとで修業させるため、神様が閻魔大王の元に届けました。このとき神様は考えごとをしていて、閻魔大王の呼びかけを無視して怒鳴られてうろたえるシーンがありましたが、融合したことでピッコロも身分の上下関係が生まれてキャラの立ち位置が変わります。
3つ目の要因は、悟天とトランクスとの出会いです。魔人ブウに対抗するためピッコロはこの2人の指導をしますが、ヤンチャで自由奔放な子どもたちに振り回されます。
悟天とトランクスに言われて、天津飯の排球拳のように女性言葉を使いバレーボールのトスをさせられたシーンは、ピッコロのキャラ崩壊の極みでしょう。チチに優等生に育てられ、ピッコロに鍛えられた悟飯は、幾度の戦闘をともにしたこともあって彼のことを心から尊敬していました。
しかし、悟天とトランクスはピッコロの強さを知らなかったこともあって、尊敬の念は薄く舐められていた感じはあります。ただ、シビアなストーリーが展開される魔人ブウ編において、ギャグ要員としてがんばるピッコロの姿は和むとキャラ崩壊を好意的に受け取る読者も多かったです。
また、劇場版などでは悟飯の娘のパンに稽古をつけたり、ビーデルから幼稚園の送迎を頼まれたりもしています。さらには、研究に没頭してパンの送り迎えを忘れる悟飯を叱りつける場面も。
パンにも慕われており、その良い保護者ぶりからピッコロの人気はさらに高まりました。当初のイメージから大幅に変わってすっかりギャグ要員となってしまいましたが、キャラ崩壊しても人気が出た成功例といえるでしょう。
◆酔っぱらうとキャラ崩壊する中川圭一──『こちら葛飾区亀有公園前派出所』
中川圭一といえば、不良警察官である両津勘吉(以下、両さん)を諫める『こちら葛飾区亀有公園前派出所』の数少ない常識人というイメージを持つ人も多いですが、酒グセが悪く酔っぱらうと「金持ちで何が悪いんですか」と叫びながら両さんの頭をビンで殴ったり、旅館の中を裸で走り回ったり見事なキャラ崩壊ぶりを見せます。
さらには「働き者のナマケモノ」という一発芸を披露したり拳銃を乱射したりと、まるで両さんが1人増えたような暴れぶりです。中川がキャラ崩壊する原因は主にお酒ですが、もともとその素質はあったようです。
連載初期の中川は銃の乱射や勤務中の女性のナンパは当たり前、両さんと派手な大ゲンカをすることもしばしばでした。さらには両さんと一緒に賭け花札をしたり、新幹線の無賃乗車をしたりとやりたい放題。
警官になった動機の1つは、拳銃を自由に撃てるからです。また、初勤務の日はタクシーで派出所に乗りつけ、その料金を署にツケていました。
つまり、中川は警察官として勤務する過程で、社会のことを学んで常識人となっていったのでしょう。しかし、お酒を飲んで酔っぱらうとスイッチが入って、もともとの自分が出てキャラ崩壊してしまうようです。
中川が酔って暴れ出すと両さんもタジタジになることもあり、普段クールなイケメンなだけにインパクトも強烈となっています。そんな中川がキャラ崩壊する回はハズレがないと、読者の間でも好評となっています。
◆ヲタク化・女体化でキャラ崩壊した土方十四郎──『銀魂』
土方十四郎はもともとマヨラーという奇抜な属性を持っていましたが、ヲタク化や女体化など新しい属性が増えるにたびにインパクトの強いキャラクターを生み出しています。普段が厳格な性格のため、そのギャップもあって『銀魂』の中でも激しいキャラ崩壊を経験した1人です。
妖刀村麻紗に呪われたときは、ヲタク化してトッシーになりました。普段の真選組の隊服とは違い、赤いハチマキにデニムのベストという奇抜な姿。
さらに語尾は「ござる」、笑い方は「プークスクス」となっており、性格はヘタレと典型的なヲタクです。最後は妖刀の呪いをねじ伏せて自分を取り戻すものの、その後にトッシーが再び復活したこともあり、その人格は今でも土方の中に眠っていると思われます。
また、性別逆転してX子になったときは、女になって筋肉量が落ちたことで、これまで蓄積したマヨネーズのカロリーが一気に噴き出して歩く度に地響きのする肥満体に。ほかの女体化したキャラクターのボイスは女性声優に変わっていたにもかかわらず、土方だけ中井和哉さんのままでした。
X子の名前の由来は豚肉ブランドの「TOKYO X」であり、マンホールにつっかえて動けなくなる醜態をさらしています。しかも、女体化した銀子をはじめ、周りからは人間扱いされていませんでした。
土方は性格だけでなく、見た目のキャラ崩壊もすさまじいといえるでしょう。普段は「鬼の副長」「真選組の頭脳」と呼ばれて恐れられているだけに、そのギャップもキャラクターのぶっ壊れぶりに拍車をかけています。
◆チェリーをレロレロする下品な花京院典明──『ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース』
花京院典明はインドに向かう交通手段を確保しようとしたとき、財布をすろうとした男をいきなりボコボコにしたあげく、言葉遣いもとても下品になりました。さらにチェリーを舌の上で転がしてレロレロするなど、明らかに様子がおかしいキャラ崩壊が始まります。
やたらと空条承太郎に突っかかり昆虫を食べるなど、これはさすがに花京院の偽物だと考えた読者も多かったことでしょう。案の定、ラバーソールがイエローテンパランス(黄の節制)というスタンドによって、花京院に化けていました。
承太郎の機転によってラバーソールはボコボコにされ、彼は無事に別行動をしていた花京院やジョースターたちと合流します。インドに向かう列車内での花京院は、いつも通り落ち着いた感じで丁寧な言葉遣いでした。
しかし、承太郎がチェリーを残しているのを見ると、好物だと言ってラバーソールと同じように舌の上でレロレロ転がし始めます。本物であるはずの花京院の意外な一面、奇行に承太郎も唖然として言葉を失っていました。花京院のキャラ崩壊はこのシーンだけだったため、逆に印象に強く残っている読者も多いのではないでしょうか。
──真面目な人でも、よく知ると意外な一面を持っていることは珍しくありません。しかし、漫画の中なら笑って受け入れられるキャラ崩壊も、身近にいるクールな人がピッコロ並みの変貌ぶりを見せたり、花京院のような奇行をしていたりしたら心配せずにはいられないでしょう。
〈文/諫山就〉
《諫山就》
フリーライターとして活動中。漫画・アニメ・医療・金融などの記事、YouTube用シナリオを執筆・編集しています。
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