マンガやアニメに登場するキャラはインパクトを与えたりキャラクターのイメージに合わせたりするため、珍しい名字がつけられることも少なくありません。中には、初見では読めないものや現実にいるのかと疑ってしまうものもありますが、果たして実在しているのでしょうか?
2017年に出版された『難読珍名「日本人の名字」クイズ』(著:髙信幸男)を元に調べていきます。
◆「栗花落」──実は古い歴史がある名字だった
『鬼滅の刃』には竈門や不死川など多くの珍しい名字が登場しており、その中でも古い歴史を持つ名字が「栗花落」(つゆり・つゆ)です。
栗花落という名字は、1300年近く前に摂津国に住まう山田左衛門尉真勝という役人が、貴族の藤原豊成の娘・白滝姫に恋をしたことから始まります。真勝は白滝姫へ求婚しますが断られてしまい、哀れに思った第47代淳仁天皇がふたりに歌比べの場を設け、勝者の望みをかなえることにしました。
なお、『難読珍名「日本人の名字」クイズ』が出版された2017年の時点で、栗花落姓は全国で約5軒あるといわれています。
『鬼滅の刃』には、竈門炭治郎の同期である「栗花落カナヲ」(つゆりかなを)が登場しており、原作19巻の大正コソコソ話では、いくつかの候補のなかから自分で名字を選んでいました。
序盤のカナヲは無感情なキャラでしたが、炭治郎とコインの裏表をあてる勝負に敗れてから、自分の感情を表に出すようになり、炭治郎ともいい雰囲気になります。もしかしたら、真勝と白滝姫のエピソードにちなんで、名字がつけられたのかもしれません。
◆「御薬袋」──有名武将にちなんだ名字
戦国時代の有名な武将・武田信玄にちなんだ名字が、「薬袋、御薬袋」(みない・みなえ)です。
晩年の信玄は病気にかかり薬袋を持ち歩いていたところ、ある日、薬袋を落としてしまい、農民が届けてくれました。信玄は患っていることを悟られて世に広まり、敵から攻められるのをおそれて中身を見たか確認しますが、農民は「見ていない(見ない)」と答えます。これを聞いた信玄は褒美として、農民に薬袋性を与えたそうです。
なお、由来とされる説はほかにもあり、定説ははっきりしていません。薬袋・御薬袋姓の人は『難読珍名「日本人の名字」クイズ』が出版された2017年の時点で、約200軒おり山梨県にお住まいの人が多いそうです。
アニメに登場するキャラでいえば、『カードファイト!! ヴァンガード overDress』に登場する「御薬袋ミレイ」(みなえみれい)がいます。
彼女は巫女としてお祓いをしたり生まれつき目が見えなかったりしますが、視覚や伝統ある御薬袋家の窮屈さを感じさせない明るく強かな性格です。
そんな彼女の強さと戦国最強と謳われる信玄の強さを重ね、「御薬袋」という名字にしたのかもしれません。
◆「八月一日」──似た名字と関係がある?
日付の名字は『xxxHOLiC』に登場する「四月一日」(わたぬき)が有名ですが、もうひとつ「八月一日・八月八朔」(ほづみ・ほずみ・ほぞみ・ほうずみ)があります。
八月一日は旧暦だと9月の中旬にあたり、この時期には稲を収穫して積み、神に供えていました。このことから稲を収穫する「八月一日」に穂を積む「ほづみ」という読みかたをあてたと考えられます。また、「穂積(ほづみ)」という名字も同じ由来を持ちますが、八月一日は「穂積」という名字から派生したとも考えられているようです。
なお、『難読珍名「日本人の名字」クイズ』が出版された2017年の時点で八月八朔姓は全国で約40軒、八月一日姓は名字由来netによると全国で約80人いるといわれています。
八月一日という名字を持つアニメキャラといえば、『蒼き鋼のアルペジオ -アルス・ノヴァ』に登場する「八月一日静」(ほづみしずか)が挙げられるでしょう。彼女は潜水艦イ401のソナー手を務めていますが、作中の活躍からは特に名字の由来とは関係がないように思えます。
しかし、おそらく彼女が八月一日姓になったのは、同じく潜水艦イ401の機関調整やメカニックを主に担当する「四月一日いおり」(わたぬきいおり)が関係しているのでしょう。
実は、八月八朔姓を持つ人の近くには四月八朔姓を持つ人が住んでいるそうです。このことから、それぞれに八月一日・四月一日と姓をつけたのかもしれません。
◆「毒島」──インパクトが強いけど歴史ある名字
女性に対しては呼びづらい「毒島」(ぶすじま)という名字は、『難読珍名「日本人の名字」クイズ』が出版された2017年の時点で全国に約250軒しかない希少な姓ながら、意外とアニメやマンガ、特撮では登場しています。
たとえば、野球漫画『ストッパー毒島』の主人公・「毒島大広」(ぶすじまたいこう)や、特撮テレビドラマの『「牙狼〈GARO〉-魔戒ノ花-』の「毒島エイジ」(ぶすじまえいじ)、ラッププロジェクトの『ヒプノシスマイク』の「毒島メイソン理鶯」(ぶすじまめいそんりおう)が挙げられるでしょう。
アニメやマンガではよく見かける毒島という姓は、実は歴史ある名字で室町時代から群馬県で存在を確認できます。
名字の由来はトリカブトの別名「附子」(ぶす)とされていますが、毒にちなんで「毒」の字をあてたわけではないようです。トリカブトは漢方の生薬にも用いられており、薬の製造や薬の商売を営む人が毒島姓を名乗り始めました。
名字のインパクトが強く、トリカブトが由来と聞くと毒を連想してしまいますが、名字の歴史から、毒島姓は薬を通して人々の生活を支えた一族といえるでしょう。
◆「百目鬼」──字面からおそろしさが伝わる
字面からも由来からもおそろしさが伝わる名字が、「百目鬼」(どうめき・どめき)です。
百目鬼の由来は川が氾濫したときの音とされており、「ごうごう」という音の「どよめき」から、百目鬼という字に「どうめき」の読みかたをあてたと考えられます。
また、治水された現代ならともかく、治水がままならない時代は川の洪水はおそろしいものだったハズ。百目鬼という漢字の構成からも、そのおそろしさが十分伝わってきます。
なお、百目鬼姓は茨城県で多く見られ、『難読珍名「日本人の名字」クイズ』が出版された2017年の時点で全国に約150軒いるようです。
百目鬼姓で有名なアニメキャラといえば、珍しい名字が多く登場する『XXXHOLiC』の「百目鬼静」(どうめきしずか)が挙げられるでしょう。
彼は名字からも連想できるように、目つきが鋭く無口でどこか近寄りがたい雰囲気を感じます。しかし、根は優しく、主人公・四月一日(わたぬき)を気にかけており、彼のことを考えて大学の専攻を決めているほどです。
また、名字の「鬼」という字に反してアヤカシを祓う力があり、作中でも弓を用いてアヤカシを祓っていました。
——アニメやマンガで見かける珍しい名字は、調べてみると字面からだけでなく由来やエピソードからも、キャラクターにマッチしていることが分かります。作中で珍しい名字を見かけたら調べてみると、思わぬ発見があるかもしれません。
〈文/林星来 @seira_hayashi〉
《林星来》
フリーライターとして活動中。子供の頃から培ってきたアニメ知識を活かして、話題のアニメを中心に執筆。アニメ以外のジャンルでは、葬儀・遺品整理・金融・恋愛などの記事もさまざまなメディアで執筆しています。
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