10月に入り続々と秋アニメが放送を始めています。『少年ジャンプ+』の人気作『ダンダダン』や3rdシーズン突入の『Re:ゼロから始める異世界生活』、往年の名作リメイク『らんま1/2』などなど話題作が目白押しですが、実は今挙げた作品たちが放送が始まるはるか前にSNSで映像が共有、そして拡散されているという事態が起きていました。いったいこれらの作品に何が起きていたのでしょうか?
◆秋アニメが2ヵ月前に流出!? SNSに拡散する事態に!
事件が起きたのは今季アニメの放送の2ヵ月前の8月初旬。ユーザー同士でファイルの共有などができるトレントサイトにて何者かによって『ダンダダン』や『Re:ゼロから始める異世界生活』、『らんま1/2』といった作品のオープニング映像や本編映像などが投稿されました。これらの映像はすぐにX(旧Twitter)やTikTokといったSNSに進出し、あっという間に多くの人の目にとまる場所にまで拡散されました。
ここで拡散された映像は決して良い画質ではないことや、タイムスタンプや何かを隠すためのぼかしが施されていたりと制作過程を思わせる映像で、明らかに非正規な方法で配信されたと分かるものでした。
今回映像が不当に配信された作品はTVアニメだけでなく『劇場版モノノ怪 唐傘』といった映画作品や『ターミネーター0』や『アーケイン』シーズン2など海外作品など多岐に渡り、多くの新作アニメーションが“流出”の被害に遭う事態となっていました。
能動的にアクセスするトレントサイトに比べて、受動的なユーザーにも波及するSNSにまで広がってしまったのは、作品を送り出す側にとってはかなりの痛手といえます。
◆なぜ流出は起こったのか!? ある会社で事件が起きていた?
今回の流出に関して、特に槍玉に挙がったのが独占配信を発表している『らんま1/2』や『ターミネーター0』などのオリジナル作品の多くが流出してしまったNetflixでした。
Netflix側の声明としては、映像配信サービス会社の作品の仕上げを行うポストプロダクションが不正アクセスを受けたことで起きてしまったと海外メディア・Varietyを通じて発表されています。
ただし流出してしまったことだけでなく、これらの映像が一向に削除されることなく長時間に渡り野放しにされ続けていたことも非難されていて、対応の遅さも指摘されています。
そして流出の原因となったポストプロダクションも直々に声明を発表。日本を含む世界各地にオフィスを持つ配信映像のローカライズを行なっているIyuno社は8月9日に「セキュリティインシデントのご報告」として機密情報漏洩の事実と情報流出の原因・責任者の調査を行なっていることを発表しています。
▼Iyuno公式サイト「セキュリティインシデントのご報告」
状況に進展があり次第報告する、と述べられているものの現在も続報はありません。結局現在もなぜ流出したのか、誰が流出させたのかなどは公にはなっていない状態です。
◆今回の流出事件で学べることと私たちができること
事件の解決こそしていないながら、今回の事件から学ぶことは日本のアニメーションも海外のリークと戦っていく必要が出てきていることでしょう。
配信サービスの普及によって、海外のアニメーション好きも日本人と同じタイミングで容易に最新アニメを楽しめるようになってきました。
そうなると作品を観ている人間や関わる人間の母数も自然とこれまでよりもはるかに多くなってきます。その結果、今回のように世界規模で映像が流出・拡散してしまいやすくもなっているわけです。
日本アニメが海外でも人気であることは日本側としては嬉しい一方、今までにない悪意にも晒されやすくなっていることが今回の事件で露わになったといえます。
ではいち視聴者に何ができるか? といえば、できることも限られているのが実際のところ。SNSでは映像なども勝手に流れてくるので不本意に流出映像に遭遇することもあるでしょう。しかし公式の投稿でなかったり明らかにおかしい映像素材は不容易に拡散しない姿勢が大切です。
その心がけが正規の流れでお披露目されるはずだった作品を守り、それを作った製作者を守り、最良の状態でアニメーションを楽しむはずだった私たちのひと時を守ることにつながります。
そういった意味でも満を持しての秋アニメの到来。心置きなく正規の放送や配信でアニメを楽しみましょう。
〈文/ネジムラ89〉
《ネジムラ89》
アニメ映画ライター。『FILMAGA』、『めるも』、『リアルサウンド映画部』、『映画ひとっとび』、『ムービーナーズ』など現在複数のメディア媒体でアニメーション映画を中心とした話題を発信中。映画『ミューン 月の守護者の伝説』や映画『ユニコーン・ウォーズ』のパンフレットにライナーノーツを寄稿するなどその活動は多岐にわたる。noteでは『アニメ映画ラブレターマガジン』を配信中。Twitter⇒@nejimakikoibumi
※サムネイル画像:YouTubeチャンネル『KADOKAWAanime』より