『ドラえもん』『クレヨンしんちゃん』など、国内のみならず海外からも支持される国民的アニメ。視聴者層に子供が含まれるためほのぼのとした日常回が多い一方、稀に不気味さを感じるエピソードも存在します。その恐怖的な演出やホラー要素は、幼心にトラウマを植え付けることも……。
次の国民的アニメにも、いつもと違う“闇深”エピソードが存在しました。
◆あるはずのない4番目の教室に戦慄
『クレヨンしんちゃん』はギャグアニメの印象が強いですが、「クレヨンホラー劇場」と銘打って不定期に恐怖エピソードが放送されたことも。中でも直球のホラー回と呼び声高いのが、1997年8月に放送された第241話「恐怖の幼稚園だゾ」です。
物語の主人公は風間くん。この日は担任のよしなが先生ではなく、まつざか先生が引率者としてバスに乗っていました。既に異変を感じ取っていた風間くんは、誰もいない園にたたずむ“4番目の教室”の存在にも気づいてしまうのです。
教室に入ってドアが勝手に閉まったかと思えば、火の玉が突然現れ、マサオくんとネネちゃんが順番に姿を消してしまいます。さらに奥のトイレまで進むと、天井から石化した行方不明の先生や園児たちが落ちてきて、次々と崩壊。しまいには何者かに取り憑かれたまつざか先生が、土色のおぞましい顔をして掴みかかってくるという怒涛の恐怖体験に見舞われることに。
この風間くんの体験は、結局は“夢オチ”。しかし、朝迎えにきたバスに乗っていたのは夢と同じまつざか先生だった……という“ループもの”を思わせる終幕が不気味さを際立たせています。
子供向けアニメの域を超えた恐怖のクオリティーに、「大人でも怖い」「まつざか先生の顔がしばらく見られなかった」と恐れる声が上がりました。
◆不可解過ぎて「死んでいる説」が噂に
『サザエさん』にも、視聴者をざわつかせる薄気味悪いエピソードが存在しました。2007年1月に放送された第5822話「こたつ依存症」は、“サザエさん史上最も奇妙な回”として語り継がれています。
冬の寒い日、学校から帰ると一目散にこたつに入るカツオ。その光景を見て呆れるサザエもこたつでお菓子作りをしており、こたつから離れられない様子。
「不便なのはこたつがひとつしかないから」と考えたカツオは、友人の西原から小さいこたつを借ります。そのこたつは波平とマスオの晩酌にも使われ、磯野家はそれぞれの場所でこたつを使う状況に……。
ここまではいつも通りの日常風景。しかし、問題はラストシーンにありました。全員が寝静まった後、無人の真っ暗なリビングに水が滴り落ちるような不安を煽るBGMが鳴り響きます。
そしてこたつからタマが出てくると、急に磯野家が和気あいあいと会話を楽しむ絵に移り変わり、そのまま物語は終了してしまうのです。
オチの不明瞭さもさることながら、不可解なのは後半サザエさんがまったく登場しなくなること。異変を察知した視聴者の間では、「サザエの死を暗喩しているのでは?」と“サザエさん死亡説”が広まることに。
また、タマの登場回数が多いことから“タマ目線の物語説”も囁かれるなど、さまざまな考察が繰り広げられる回となりました。
◆そして誰もいなくなった……風刺色の強いブラック回
『ドラえもん』には「のろいのカメラ」や「百苦タイマー」など名前からしてゾッとするひみつ道具が多く存在しますが、中でも「どくさいスイッチ」は格別。
そんな不穏なアイテム「どくさいスイッチ」がメインとなったエピソードが、2022年4月に放送されました。
野球の試合で大量失点し、ジャイアンに殴られるのび太。ドラえもんに泣きつき、「ジャイアンさえいなかったら」と口走ります。そこでドラえもんが出したのが「どくさいスイッチ」でした。
「どくさいスイッチ」は使えば対象者の姿はもちろん、周囲の記憶からも抹消できるアイテム。最初は戸惑っていたのび太も、再びジャイアンに虐められたことでスイッチを使ってしまいます。
ジャイアンを消したからといって、のび太のいじめられっ子ポジションは変わらず。ついに悪夢までみたのび太は勢い余って「みんな消えちまえ」とスイッチを押し、世界中の人々を消してしまうことに……。
この「どくさいスイッチ」は、実は独裁者を懲らしめるための発明。ラストはのび太が1人では生きられないことに気づき、ドラえもんに「気に入らないからって次々に消していけばこんなことになっちゃうんだよ、わかった?」と窘められるシーンで幕を閉じました。
また、このエピソードが放送された2022年4月は、奇しくもロシアのプーチン大統領がウクライナ侵攻を進め、“独裁者”と呼ばれていた時期。シニカルで社会風刺のきいたブラック回に、「道具のリスクやばい」「結構現実的でヘビーな話」との声が聞かれました。
◆まさかの実体験エピソードにヒヤリ
2025年にアニメ化35周年を迎える『ちびまる子ちゃん』のエピソードには、ちょっぴり謎めいたものも。とくに1991年7月に放送された第81話「まる子 まぼろしの洋館を見る」は、屈指の不可思議回として視聴者の記憶に残っています。
まる子がたまちゃん、ブー太郎と町内を探検していると、誰も住んでいない古びた洋館を発見。洋館の中は薄暗く、あちこちに蜘蛛の巣が張っていました。
まるでお化け屋敷のような廃れ具合、歩くたびにギシギシ軋む床の音、気味の悪い絵画とコート。洋館の怪奇的な雰囲気に耐えられなくなった3人は、一目散に洋館から脱出します。その際まる子は、洋館から外国のお酒の瓶の蓋を拾って持ち帰っていました。
翌日、花輪くん丸尾くんを誘って洋館に向かったまる子たち。しかし、いくら探しても見つからず、まる子が持ち去ったお酒の瓶の蓋だけが証拠として残ることに……。
このエピソードは、実は作者・さくらももこ先生の実体験。ラストはさくらももこ先生のモノローグで「私にはこの他にも一度行ったのに二度と見つからなかったお花畑や田んぼがいくつもあります」「神様が子どもだけに遊ばせてくれる場所があるのだと思えてなりません」と語られ、物語のオカルトチックな雰囲気をさらに強めました。
──国民的アニメの新たな一面が見られるトラウマ回。突然現れるホラー調や不気味回は、ある意味ではアニメを飽きさせないスパイスの役割を担っているのかもしれません。
〈文/繭田まゆこ〉
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