コンプライアンス意識が急速に高まっている昨今。長年、多くのファンに愛され続ける「国民的アニメ」も、実は時代に合わせてストーリーを大きく変化させており、以前は今では考えられない衝撃的な内容の放送回がありました。

◆病院に銃を持った軍人!?──『サザエさん』

 今年でアニメ放送開始55周年を迎えた『サザエさん』も、長い歴史を持つがゆえに実は多くの衝撃回があった作品の一つです。

 TVアニメ放送初期の19691019日に放送された「お医者さんの巻」でのこと。腹痛をうったえるワカメをマスオが病院へと連れて行くのですが、何とそこには軍服を着て銃を持った男が。さらに、そこへ駆けつけた看護師は男に向かって「ハイルヒトラー」と言い放つと、男も「はい、ヒトラー」と、今では世界的にもNGなワードを連発しています。

 それを見てブルブル震えるマスオとワカメに、看護師は男が患者であることを明かすと同時に、銃もおもちゃであることが分かりました。

 マスオとワカメは、帰り道に病院の看板を見て、訪れたのが精神病院であったことを知るのですが、その院名は何と「阿呆(あほ)精神病院」という衝撃的なネーミングだったのです。

 1969年といえば、まだ第二次世界大戦の終戦から30年と経っておらず、コンプライアンス意識が現代より低かった時代です。そんな時代背景を加味すると、ある程度の過激な描写は理解できますが、ほのぼのとした日常を描いた作品だけに、現代のスタンダードで考えるとそのギャップはあまりにも衝撃的だといえます。

◆図書館館長と恐怖の鬼ごっこ──『名探偵コナン』

 1996年にTVアニメの放送が始まり、今や親子2世代で楽しんでいるという家庭も少なくない国民的アニメ『名探偵コナン』。殺人事件が発生するところから物語が始まることが多い作品ですが、時間を遡るごとにその描写の過激さも増していきます。

 199733日のひな祭りに放送された、TVアニメ第50話「図書館殺人事件」という回では、読書感想文を書くためにコナンたち少年探偵団は図書館へ訪れますが、目暮警部ら警察がそこへ駆け付け、図書館職員の玉田和夫が一昨日から行方不明になっていることを明かします。

 その後、館長の津川秀治が玉田和夫を殺害したことを独り呟いているのを聞いた少年探偵団は、密かに閉館後の図書館に残り遺体や動機を探りますが、その過程で館長に見つかり、夜の図書館での壮絶な「恐怖の鬼ごっこ」が始まります。

 捕まれば命を奪われる──。コナンたちを追いかける館長の表情は狂気すら感じさせるホラー映画のような描写で、現代のチビッ子視聴者に視聴させるのを親御さんはためらうかもしれません。

 コナン屈指のトラウマ回である「図書館殺人事件」は、今ではまさに放送できない放送回といえます。

◆まさに”禁忌”の人体錬成……「人間製造機」──『ドラえもん』

 1973年の初回放送から50年以上にわたって愛され続けている国民的アニメ『ドラえもん』にも、実は今では考えられないような衝撃的な放送回が存在します。

 1979713日に放送された「人間製造機」。人間製造機は新世界デパートが販売した新製品でしたが、実はこの道具によって生み出される人間は、念力などの強大な超能力を使用するミュータントになり、性格も凶暴で並の人間では太刀打ちできないほどの非常に危険な存在になってしまうという致命的な欠陥がありました。

 22世紀では生み出されたミュータント鎮圧のために国連軍が出動するほどの大騒ぎになり、最終的にこの道具は販売中止に……。

 のび太が使ったことで生まれてきたミュータントは、のび太に作らせたミルクをしずかちゃんがだいなしにしたのを見て激怒し、電撃で命を奪おうと暴れ回り、その末、あわや人類の危機に発展するほどの事態となりました。

 人間製造機で人体製造するための材料は、脂肪分になる石鹸一つ、鉄分になる釘1本、リンになるマッチ100本、炭素になる鉛筆450本、カルシウムになる石灰コップ1杯分、硫黄1つまみ、マグネシウム1つまみ、水1.8リットルと具体的で、まるで『鋼の錬金術師』でエルリック兄弟が行った「人体錬成」そのものでした。

『ハガレン』で禁忌である人体錬成を行った結果を鑑みても、まさにトラウマ級の衝撃回といえるでしょう。

◆何も悪いことをしていないのに悪夢のような結末……「椅子男」──『笑ゥせぇるすまん』 

 1989年から1992年にかけてTVアニメが放送された、藤子不二雄A先生の大ヒット作『笑ゥせぇるすまん』。

 多くのエピソードで客が喪黒と交わした約束を破ったり、忠告を聞き入れなかったりしたことから破滅を迎えるという救いのないストーリーが特徴ですが、放送回100話を超えるシリーズの中でも、特に衝撃的だったのが1991430日に放送された第54話の「椅子男」という回です。

 サラリーマンの安楽一寿は、事務所の椅子で寝ていたら馴染んでしまったことに悩み、それを喪黒に話したところ、喪黒は安楽に専用のベッドをプレゼントします。しかし、妻子に占領されてしまい結局自身はベッドで眠れませんでした。

 仕方なく事務所に行き、事務所の椅子で眠ろうとすると、そこへ再び喪黒が現れ、事務所の椅子は壊れていることを告げつつ、「安楽が椅子で安眠できるように」と、ドーンの呪文をかけます。

 翌朝、気持ち良く目覚めた安楽でしたが、なんと自分自身が椅子になっている……という何とも救いがなくおぞましい結末でした。

 

 ──大人から子供まで、幅広い世代に愛され続けてこそ「国民的アニメ」といえますが、時代とともにストーリーの表現幅は日々変化しています。

飽きられることなく、時代を越えて長く愛され続ける秘訣には、その時代に許される限界ギリギリを攻める「表現のふり幅」という要素もあるのかもしれません。

〈文/lite4s〉

《lite4s》

Webライター。『まいじつ』でエンタメ記事、『Selectra(セレクトラ)』にてサスペンス映画、韓国映画などの紹介記事の執筆経験を経て、現在は1980~90年代の少年漫画黄金期のタイトルを中心に、名作からニッチ作品まで深く考察するライター業に専念。 ホラー、サスペンス映画鑑賞が趣味であり、感動ものよりバッドエンド作品を好む。ブロガー、個人投資家としても活動中。

 

※サムネイル画像:Amazonより

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