『ドラえもん』や『ちびまる子ちゃん』など、数十年に渡り愛され続ける国民的アニメ。放送が長きに渡ると、声優交代やストーリーの路線変更のような変化もしばしば見られます。登場人物が“キャラ変”をするのもその一つで、中には別人級の性格の変化を遂げた人物も──。
◆原作は辛辣だったしずかちゃん
『ドラえもん』のしずかちゃんといえば、清楚で正義感のある絶対的ヒロイン。ところが原作のしずかちゃんは、ジャイアンたちと一緒になってのび太を仲間外れにしたり、嘲笑ったり。とてもシビアで腹黒い女の子だったのです。
とくに驚くのは、その毒舌ぶり。コミックス第40巻「顔か力かIQか」では、ひみつ道具でハンサムな顔になったのび太に対し、「ウッソー!のび太さんの顔はもっとおもしろい顔よ」と辛辣な一言を浴びせます。
さらに、コミックス第2巻「テストにアンキパン」では、記憶力には自信があると豪語するのび太に「クラスでいちばんわすれんぼのあんたが?」と、あんた呼ばわりしながら爆笑するありさま。
のび太からもらった誕生日プレゼントに「かわいくないわあ」と文句をつけ、すぐ次のコマでは隣の家の女の子にあげてしまう非情な行動もありました(コミックス第4巻「のろいのカメラ」)。
原作と比べると、現在のアニメのしずかちゃんの性格はかなりマイルドになっています。昔のままではあまりに手厳しすぎるので、子供ウケや親しみやすさを考えての止むを得ないキャラ変だったのかもしれません。
◆実はダメンズ筆頭だった花輪クン
『ちびまる子ちゃん』に登場するお金持ちの男の子・花輪クン。彼はジェントルマンでレディーに優しい性格ですが、登場初期は現在のイメージとはかけ離れたキャラクターでした。
花輪クンがはじめてアニメで描かれたのは、第3話「生き物係のキザ野郎参上の巻」。
花輪クンの性格について、劇中では「でしゃばり・小心者・マヌケ・わからずや…というどうしようもない性格の持ち主」と解説されており、かなりの“ダメンズ”であることがうかがえます。
また、コミックス第1巻の初登場時は「オイラ」キャラで、コミックス第2巻「まるちゃんの町は大洪水の巻」では教室に落っこちていたウンコを踏んづけるなど、まさかの道化役なとしての一面も。
原作者のさくらももこ先生によると、花輪クンは1回きりの出演のつもりだったそう(コミックス2巻より)。
意外な人気でレギュラーを獲得した花輪クンには、のちに英語が堪能、ニューヨークに母親がいて別々に暮らしているなどの設定が加わっていきます。
追加設定により徐々に現在の紳士的なイメージが確立されていったことを考えると、当初の“クセの強い花輪クン”のキャラクターは、まだ試行錯誤の最中だったのかもしれません。
◆昔は口が悪かったタラちゃん
『サザエさん』に登場するサザエの一人息子・タラちゃん。タラちゃんといえば言葉遣いがていねいな“いい子キャラ”として広く認知されていますが、初期の頃はとても荒々しい性格でした。
とくに1970年7月に放送された「モノオキの神様」では、タラちゃんの荒くれっぷりがよく表れています。
窓に落書きをしたことがサザエにバレたタラちゃんは、物置に閉じ込められることに。いくら謝っても出してくれないサザエに対し、「開けろー!子どもを虐めんなー!」と3歳とはとても思えない暴言を吐くのです。この頃はまだ敬語も使っておらず、カツオに負けず劣らずのやんちゃ坊主として描かれていました。
ちなみに、『サザエさん』にはタラちゃん以外にも様変わりしたキャラクターが存在します。
たとえば、昔はハサミ片手に波平を追いかけ回していたフネが良妻賢母に(「75点の天才!」より)、昔は病院に行きたくないあまり半裸で町内を駆けずっていたワカメが品行方正になったなど(「お医者さんの巻」より)。
初期はドタバタなコメディ色が強かったものの、時代とともにホームドラマ系に移行した『サザエさん』。シフトチェンジにともない、キャラクターも徐々に変化していったのではないでしょうか。
◆最初はマトモじゃなかった『こち亀』麗子
『こちら葛飾区亀有公園前派出所』(以下、『こち亀』)の常識人ポジションを担う秋本・カトリーヌ・麗子。『こち亀』のトラブルメーカーといえば両津勘吉ですが、実は初期の麗子も引けを取らないくらいの問題児でした。
麗子が初めて描かれたコミックス第11巻「麗子巡査登場の巻」では、その破天荒ぶりがうかがえます。
補欠員としての初出勤日、ミニパトごと派出所に突っ込んだ麗子。「ごめんなさいねぇ、車がかってにこの中にとびこんだの」と、悪びれる素振りも見せません。
さらに事故を起こした際には、自らの荒い運転が原因にもかかわらず、被害者に「あなたの前方不注意よ!」と罪をなすりつけ、挙げ句の果てに不当逮捕まで……。
このようにかなりワガママな性格として描かれていた麗子ですが、長期連載の中で徐々にマトモなキャラに。めちゃくちゃな両津たちから世俗や常識を学んだ末の、成長による性格の変化なのかもしれません。
──昔と比較すると、どのキャラクターも性格が丸くなった印象。もちろん”キャラの成長”もありますが、視聴者の声や厳しくなりつつあるコンプライアンス、時代の風潮など、のっぴきならない事情も性格の変化に関係したのかもしれません。
〈文/繭田まゆこ〉
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