最近の日本のヒットTVアニメといえば“オカルト”の要素が入ってくるのが定番。『鬼滅の刃』、『呪術廻戦』、『チェンソーマン』そして最近では『ダンダダン』と近年の人気TVアニメでは鬼や霊、悪魔などオカルト分野に関連したキャラクターや要素が主軸となることが多いです。

 つまり、オカルトもので攻めればアニメーションはヒットする!──と言いたいところですが、意外と、オカルトとアニメーションを結びつければ“なんでも”良いわけではないことは直近のオカルトアニメ映画の動向からも分かります。

◆コアなファンには届くけど……大ヒットに結びつけるまでのもうひと押しが難しい!

 2024年もオカルトをテーマにした映画が多数上映されています。

 直近ではこの夏、TVアニメ発のアニメシリーズ『モノノ怪』の初の映画『劇場版モノノ怪 唐傘』が上映されたことが記憶に新しいです。

 本作は劇場版の制作を盛り上げるべく、2022年にクラウドファンディングを募りました。その際には目標の1000万円という金額に対して6倍に近い5900万円もの支援を獲得する成功を収めました。

 多数の支持を得て完成した『劇場版モノノ怪 唐傘』は今年7月26日に上映を果たしました。興行通信社が発表する週末の動員数ランキングでも公開の初週末には、公開を始めてから間もない『怪盗グルー』シリーズや『キングダム』シリーズ、同日公開の『デッドプール&ウルヴァリン』など強力なライバルがひしめく中で7位を獲得。公開館数が300館以上の規模の作品が並ぶ中で、200館ほどの本作としては大健闘と言える結果でしょう。

 ただし悩ましいのは初動こそ良かったけれども“大ヒット”にまで結びつかないところ。

 翌週には『劇場版モノノ怪 唐傘』は同ランキングの圏外になってしまい、上映回数も翌週にはどんどん減っていきます。

 ロングランヒットする人気シリーズ作品は興行収入が何十億円にまで及ぶので「そこに並ぼう」とまではいわないものの、今年初めて劇場版アニメに臨んだ『劇場版すとぷり はじまりの物語〜Strawberry School Festival!!!~』や、未就学児向け作品である『それいけ!アンパンマンばいきんまんと絵本のルルン』は今年興行収入7億円というスケールのヒットを収めてニュースになっています。

 クラウドファンディングでの大成功を果たした作品でもまだこれらの数字には及ばないと思うと、ヒットこそ実現できても大ヒットといえる成功まではまだもうひと押し必要なのでしょう。

 ちなみに、同じく妖怪ものでもある『化け猫あんずちゃん』も、『劇場版モノノ怪 唐傘』の前週に公開されたのですが、こちらは前述のランキングに初週末ですらランクインできませんでした。TVアニメシリーズもなくて、バトルものでもないとなると、さらに興行は難しいのでしょう。

◆面白くないわけではない? 海外では高評価を獲得していた!

 ヒットしないのはそれほど面白くないからでは? という意見もあるでしょう。どんな作品も面白い・面白くない感想は出てくるでしょうが、少なくとも『劇場版モノノ怪 唐傘』や『化け猫あんずちゃん』の評価の一つの指標として“海外では映画賞を受賞している”という快挙を果たしているという共通点があります。

『劇場版モノノ怪 唐傘』はカナダ・モントリオールで行われた第28回ファンタジア国際映画祭で、最優秀長編アニメーション賞である今敏賞と、観客の人気投票で選出される観客賞で銅賞のW受賞という快挙を果たしています。

 また『化け猫あんずちゃん』についても、同映画祭ではその観客賞でさらに上をいく金賞を獲得したり、第77回カンヌ国際映画祭の監督週間に選出され公式上映されたりと高い評価を獲得しています。

 ファンタジア国際映画祭といえば、オカルトやホラーといったいわゆる“ジャンル映画”が集まる映画祭なわけですが、まさにそういった舞台でお墨付きを獲得しています。

◆海外で評価されて制作された日本のホラーアニメーションが凱旋上映!

 実はそんな海外で高い評価を得て、わざわざ海外向けの新バージョンを制作した映画が、凱旋して日本上映がされます。その映画が坂本サク監督の『心霊蟲-GHOST BUGS-』です。

 この映画は、坂本サク監督が2018年に制作して後にリファイン版が制作された映画『アラーニェの虫籠』と、前日譚にあたる2023年に制作された映画『アムリタの饗宴』の二本をミックスして再編集した“海外向け”に作られたバージョンです。

『アラーニェの虫籠』も『アムリタの饗宴』も、どちらも海外の映画祭で多数の上映や受賞を果たしている映画で、わざわざ特別バージョンが制作されるのも納得できる映画です。それでいて、どちらも日本での一般興行はしていたものの、日本では広く知られるというよりも“知る人ぞ知る”作品に落ち着いてしまっているのがもったいない話です。

 今回の『心霊蟲-GHOST BUGS-』の上映も一般興行ではなく、東京・シネマハウス大阪での11月17日(日)・24日(日)の2日間限定で、特別上映会と題したイベントとしての催しのみ。国外で高い評価を獲得して生まれた映画なのに、やはり惜しい話です。

 日本の一般興行でこそ大ヒット作にはなれなかったかもしれませんが、世界スケールで見るとこれらの日本のオカルトものの映画が実は良い成績や反響を得ています。

 人気TVアニメの“オカルト”のエッセンスが好きだ、という人は実はこういった作品こそ、好みにグサリと刺さるかもしれません。

〈文/ネジムラ89〉

《ネジムラ89》

アニメ映画ライター。『FILMAGA』、『めるも』、『リアルサウンド映画部』、『映画ひとっとび』、『ムービーナーズ』など現在複数のメディア媒体でアニメーション映画を中心とした話題を発信中。映画『ミューン 月の守護者の伝説』や映画『ユニコーン・ウォーズ』のパンフレットにライナーノーツを寄稿するなどその活動は多岐にわたる。noteではアニメ映画ラブレターマガジンを配信中。Twitter⇒@nejimakikoibumi

※サムネイル画像:YouTubeチャンネル『TWIN ENGINE』より

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