連載漫画ではストーリーが進むにつれて登場人物の過去が明らかになったり、大きな謎が解き明かされたり、アッと驚く展開が用意されていたりします。

 しかし、あえて明かされない真相や、作者の意向によって描かれることなく連載が終了してしまった、言わば「作者のみぞ知る真実」も存在します。

◆「一応あるんです僕の中の答えが……」──『SLAM DUNK』インターハイ優勝校

 神奈川代表としてインターハイ出場権を勝ち取り、絶対王者・山王工業との激戦のすえ勝利を飾った湘北高校。そんな湘北バスケ部と、花道の成長を描いた『SLAM DUNK』ですが、3回戦の愛和学院との試合は描かれることなく、「ウソのようにボロ負けした──」という一文だけを残して連載は終了してしまいました。

 愛和学院戦もさることながら、インターハイの優勝校がどこなのかすら語られることなく連載が終了してしまったため、ネットやSNSでは今もファンの間でさまざまな憶測や考察が飛び交っています。

 ところが、2018年12月にYouTubeチャンネル『朝日新聞デジタル』で公開された動画「スラムダンクとバガボンドの違いとは 岡田優介選手と井上雄彦さんが対談 (Bリーグ・主役に迫る)」において、対談相手のプロバスケットボール選手・岡田優介さんは、『SLAM DUNK』のインターハイ優勝校について質問し、「名朋工業」と予想を口にしますが、これに対して井上先生は「それはないんですよ」と否定。

 続けて「(物語に)出てこないチーム」としており、「名朋優勝じゃヤダなって。まさに才能っていうか、そういう選手はやだなって」「一応あるんですよ僕の中の答えが」と、原作で描かれなかった大きなヒントを語っています。

 原作で描かれた試合結果と井上先生のコメントから、20校余りに候補を絞ることはできるものの、未だに真実は「原作者のみぞ知る」状態です。

◆実は構想があった! ベジータとブルマの恋愛劇──『ドラゴンボール』

 驚きの組み合わせのカップルも誕生した『ドラゴンボール』。中でもベジータとブルマの夫婦は、意外性No.1といっても過言ではないでしょう。

 ブルマといえば『ドラゴンボール』のお色気分野を一手に担い、成長した悟空と結ばれるかと思いきやヤムチャと交際したのち破局するなど、奔放な恋愛遍歴の持ち主です。そんなブルマと、かつて敵として地球に襲来したベジータが結ばれたと知った当時の読者は度肝を抜かれました。

 そんなベジータとブルマの馴れ初めについて、原作では描かれることはありませんでしたが、『DRAGON BALL大全集』 第7巻で鳥山先生は「ブルマとベジータの恋愛劇も頭の中にはできあがっているが“恥ずかしい”という理由で描かなかった」と語っています。

 また、悟空や悟飯の声優・野沢雅子さんは「ベジータに遠慮なく物事を言える人物は我が儘で言いたいことをはっきりと言う性格のブルマだけだったため二人を結婚させた」と、過去に鳥山先生が語っていたことを2013年に日之出出版が行ったインタビューで明かしています。

 アニメでは人造人間来襲前、重力室で過酷な修行を続けていたベジータが大ケガを負った際、ブルマの手厚い看護を受けるオリジナルストーリーが挟まれましたが、今年の3月、鳥山先生が永眠され、まさに真実は迷宮入りとなってしまいました。

◆本名は明かされないまま連載終了……『鋼の錬金術師』傷の男(スカー)の本名

 元々はイシュバラ教の敬虔な武僧であり、イシュヴァール殲滅戦によって「復讐者」となった、通称「傷の男」(スカー)。イシュヴァール人にとって、名前は神・イシュバラから授かるもので、復讐者となる決心をした際に名前を捨てたという設定により、序盤から本名を名乗るシーンはありませんでした。

 そんなスカーの本名が気になった読者から、原作者の荒川先生に寄せられた質問についての回答がコミック15巻の巻末に掲載されており、「決めてあるけどヒミツ」「本名を出さない事に意味があるのでそれは追い追い本編で語られるでしょう(連載がきちんと続けば)」と語られました。

 ストーリーは進み、迎えたコミック最終巻となる第27巻で、闘いを終え、手当てを受けたスカーはアメストリス国軍・アームストロング少将から「貴様本当の名はなんと言う?」と問われ、ついに伏線回収か? と読者が思った矢先、「名は無くていい」「好きに呼べ」と、まさかの未回収のまま連載は終了してしまいました。

 最終的に原作者がどういうねらいでスカーの本名を明かさなかったのかは分かりませんが、登場人物の意志を汲み取りながら物語を描き進めていった結果、名前は明かさないままのほうが自然なのでは? と判断したのかもしれません。

◆元はお面ナシの設定だった!──『鬼滅の刃』鱗滝左近次の素顔

 鬼殺隊の元・水柱であり次代の鬼殺隊員候補を育てる「育手」の鱗滝左近次ですが、彼のトレードマークともいえるのが、作中一度も外さなかった「天狗の面」でしょう。

 しかし、2020年の2月に『ライブドアニュース』が行った初代担当編集の片山氏へのインタビューによれば、鱗滝左近次は初期設定では「ただのおじいさん」として描かれていたそう。それを見た片山氏が「インパクトがない」と吾峠先生に提言したところ、次に原稿を見た時にはお面を付けており、そのままキャラ設定として固定されたものだったそうです。

 天狗の面にした理由は、単純に吾峠先生がほかにインパクトを出すための良いアイデアが思いつかず「とりあえずお面をつけてみた」というのが真相です。

 そのため、鱗滝の素顔を知っているのは、原作者の吾峠先生と当時の担当・片山氏の2人だけですが、インパクトがなかったという情報から、鱗滝の素顔は特徴に欠ける無難なものだったのかもしれません。

 

 ──ささいだけど「隠されると気になってくる」というものから、「重要な真相」にも関わらず謎のまま連載が終了してしまったものまで。

 すべてを描けるわけではない連載漫画において、巧みに真実を隠し、そのまま永遠の謎にしてしまうという判断も、物語に一層厚みを持たせるために必要な要素なのかもしれません。

〈文/lite4s〉

《lite4s》

Webライター。『まいじつ』でエンタメ記事、『Selectra(セレクトラ)』にてサスペンス映画、韓国映画などの紹介記事の執筆経験を経て、現在は1980~90年代の少年漫画黄金期のタイトルを中心に、名作からニッチ作品まで深く考察するライター業に専念。 ホラー、サスペンス映画鑑賞が趣味であり、感動ものよりバッドエンド作品を好む。ブロガー、個人投資家としても活動中。

 

※サムネイル画像:Amazonより

※タイトルおよび画像の著作権はすべて著作者に帰属します

※本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合があります

※無断複写・転載を禁止します

※Reproduction is prohibited.

※禁止私自轉載、加工

※무단 전재는 금지입니다.