『サイボーグ009』や『エリア88』、近年でいえば『アイシールド21』『モブサイコ100』など……。タイトルに“数字”が含まれる作品は、決して珍しくありません。その中には、意外な意図や作者自身の想いが込められている場合も。次の4作品のタイトルにある“数字”にも、さまざまな意味が織り込まれていました。
◆「13」が意味するものとは?──『ゴルゴ13』
超A級スナイパー「ゴルゴ13」の人生を描いた『ゴルゴ13』。作者のさいとう・たかを先生亡き後も『ビッグコミック』で連載が続く作品です。そんな『ゴルゴ13』のタイトルにある“13”の数字には、ある意味が存在していました。
“13”については、作中で2つの説が語られています。1つ目は、ゴルゴの囚人番号が「1214号」だったためという説。西洋では12と14の間に位置する“13”の数字は不吉とされ、忌み嫌われています。
その理由には諸説ありますが、最も知られているのはイエス・キリストを裏切ったユダが「最後の晩餐」で13番目の椅子に着席していたというもの。不吉な数字“13”が何かピッタリとくる感じの男というイメージもあり、ゴルゴには“13”のナンバーがつけられるようになりました(『ゴルゴ13』「ビッグ・セイフ作戦」より)。
2つ目は、「ゴルゴタの丘でイエス・キリストに荊の冠をかぶせて十字架にかけた13番目の男」に由来するという説(『ゴルゴ13』「ビッグ・セイフ作戦」より)。タイトルのロゴマークには、それを象徴するかのように荊の冠をかぶって背を向ける骸骨が不気味に添えられています。どちらの説にもただよう不穏さ。謎多き「ゴルゴ13」にまさに最適な由来といえるでしょう。
◆「999」に込められた意味──『銀河鉄道999』
星野鉄郎と謎の女性メーテルの宇宙を巡る旅を描いた『銀河鉄道999』。宇宙SFマンガの金字塔として、40年以上にわたり読者に愛されてきた作品です。そんな本作のタイトルにある“999”には、作者のある思いが込められていました。
作者の松本零士先生は、“999”の意味について「『999』は青春で、これが『1000』になると大人になってしまう。そうした思いを、私は心の中にずっと持っていたので『999』にしたんです」と述べています(舞台『銀河鉄道999 さよならメーテル~僕の永遠』公開取材)。
作中で“1000”といえば、「1000年女王」と呼ばれるラー・アンドロメダ・プロメシューム。“1000”になると、大人になってしまう。だからその一歩手前、未完成のままで永遠の青春を続けていきたいという思いが、“999”には込められていたのです。
また、インタビューでは、「『銀河鉄道999』も『宇宙海賊キャプテンハーロック』『クイーン・エメラルダス』も一つの物語。一つになって終わったときに私の人生も終わる。まだ、最後は描きたくない」と明かしたことも(MANTANWEB「ビッグに聞く」より)。松本先生の作品愛と情熱が詰まった、意外な由来が明らかになりました。
◆「28」はどこから?──『鉄人28号』
2023年にアニメ化60周年を迎えた『鉄人28号』。金田正太郎と鉄人28号が、日本と世界の平和を守る戦いに身を投じるさまが描かれています。
太平洋戦争末期に軍の命令で「鉄人計画」に加わった敷島博士が開発した28番目のロボット、それが「鉄人28号」でした。しかし、実は“28”の数字の由来は、「28番目のロボット」だけではなかったのです。
作者の横山光輝先生は“28”の数字について、「別に深い意味はない。人には何度も実験して28番目にできたから28号にしたんですというが、それならば10号でも44号でもいいわけである」「この数字をつけたのは、やはりB-29という『空の要塞』が頭にあったからだろう」とコメント(光文社文庫「少年傑作選」第2巻)。
さらに、光文社文庫『鉄人28号』第2巻では、その言葉を補うかのように「『28号』の『28という数字が浮かんだのは日本を廃墟と化したボーイング社の爆撃機B-29から」「当時、巨大なもの、強いもの、と言ったらB-29しか浮かんでこなかった」と語っています。
ただ、数字に特別な思い入れがあったわけではなく、26でも27でもよかったとのこと(グリーンアロー出版社インタビュー「横山光輝 鉄人28号を語る」)。
爆撃機の号数を直接使うのははばかれたため、近しい数字である“28”が採用されたのでしょう。“28”の数字には「B-29」の影響があった……そんな意外な事実が秘められていました。
◆「1/2」の由来とは?──『らんま1/2』
高橋留美子先生によるドタバタ格闘ラブコメディー『らんま1/2』。その人気は連載開始から35年以上経った現在も衰えることを知らず。今年の10月5日からは、完全新作アニメの放送が始まりました。そんな『らんま1/2』のタイトルにある“1/2”には、どういった意味があるのでしょうか。
本作の主人公は、呪泉郷の呪いによって水をかぶると女性に変わり、お湯をかけると男性に戻る体質になってしまった早乙女乱馬。“1/2”の意味について明記はされていませんが、この乱馬の性別問題をさしていると考えられます。
また、作中には乱馬のほかにも、水をかけるとパンダになる早乙女玄馬や、猫に変身するシャンプー、黒豚に様変わりする響良牙、アヒルに変わるムース、怪物に変貌するパンスト太郎が登場。二つの生物を行き来するキャラクターが複数描かれており、それらの設定にも由来しているのでしょう。
高橋先生は、『うる星やつら』の藤波竜之介や潮渡渚などジェンダーが曖昧なキャラクターを描き続けてきました。『らんま1/2』にもそれは受け継がれており、そのジェンダーフリーな作風を“1/2”の数字に反映させたのかもしれません。
──タイトルに含まれた“数字”には、作中で語られたものだけではなく、作者自身の思いが込められている場合も。“数字”はもちろん、アルファベットや『【推しの子】』などに使用される記号にも注目してみると、作者の意外な真意が解明できるかもしれません。
〈文/繭田まゆこ〉
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