人気漫画でも、構想段階からすべてのキャラクター設定が必ずしも決まっているわけではありません。 中には、元々は脇役で登場する予定が主要キャラになったり、主人公に大出世したりしたケースもあります。

◆主役は「あの博士」のほうだった?──則巻アラレ『Dr.スランプ』

Dr.スランプ』は、当初は異なるストーリーで、主人公もアラレではありませんでした。

 202438日に『東京新聞』が報じた記事「鳥山明さんとの出会いを鳥嶋和彦さんが語る Dr.マシリトは“いちばん嫌いなやつを描いてこい”で誕生」によれば、当初の構想では則巻千兵衛が主人公で、アラレは1話のみ登場予定だったそう。

 しかし、当時の編集担当だった鳥嶋氏の強い意向によって、アラレを主人公に据えることになったと明かしています。そのアイデアがピタリとハマり、アラレが話す「んちゃ」や「ほよよ」、「キーン」、「バイちゃ」などの、「アラレ語」は社会現象を巻き起こすほどの人気を博しました。

◆原作者が感情移入して急きょ仲間入り!──三井寿『SLAM DUNK

 湘北バスケ部を恨んで体育館を襲撃し、一時はバスケ部を廃部寸前まで追い込んだ不良グループの首謀者・三井寿ですが、20086月に出版された『漫画がはじまる』(出版社:スイッチ・パブリッシング)によると、登場した時点では元・バスケ部だったという設定はなく、ただの不良役で終わる予定だったと明かされています。

 ところが、体育館での喧嘩のシーンが予想外に長引き、原作者・井上先生が三井を描いているうちに感情移入し、急きょ予定を変更し「元・中学MVP」という設定を追加したうえで、湘北のバスケ部に加入させることになりました。

 挫折することなく3年間バスケットボールに打ち込んできた赤木や小暮に比べて人間として弱い部分がある反面、「元・中学MVP」という天才的なセンスを持つ二面性などから、三井は多くの読者の共感を呼び、1996年に行われた人気投票では2位になるなど、高い人気を誇るキャラクターとなりました。

◆仲間になるのは蔵馬だけの予定だった?──飛影『幽☆遊☆白書』

『幽☆遊☆白書』で幽助の敵として蔵馬、剛鬼とともに登場し、霊界との取り引きがきっかけで仲間になった飛影は、元々敵役で終わる予定でした。

 20053月に出版された『幽☆遊☆白書 公式キャラクターズブック 霊界紳士録』(出版社:集英社)に収録されている原作者・冨樫先生のインタビューによると、当初は蔵馬だけを仲間入りさせる予定だったそうです。

 ところが、当時の編集担当・高橋氏から「こっち(飛影)じゃない?」と指摘されたことで「あぁこいつもあるのか」と思ったことがきっかけとなり、仲間入りさせるシナリオに変更されたといいます。

 幽助の仲間になってからの飛影の活躍はめざましく、鮮やかな剣術に邪王炎殺拳など強力な技で数々の強敵を打ち倒し、コミックス第7巻と第12巻で行われた2度のキャラクター人気投票では二冠を達成するなど、『幽白書』になくてはならない不動の人気キャラクターとなりました。

 物語後半の魔界編では、魔界三大妖怪の1人である軀との深いつながりや、飛影の生い立ち、邪眼を得た経緯が掘り下げられるなど、幽助に劣らないほど詳しく描かれました。

◆脇役の構想から主役に大抜擢!──竈門炭治郎『鬼滅の刃』 

 世界で大ヒットを記録し、今年には新作映画『劇場版「鬼滅の刃」無限城編』の公開も予定されている『鬼滅の刃』。その主人公は竈門炭治郎ですが、実はネーム段階では主役ではなく、脇役として登場する予定でした。

 202025日に『livedoor News』が報じた記事「“鬼滅の刃”大ブレイクの陰にあった、絶え間ない努力――初代担当編集が明かす誕生秘話」によると、『鬼滅の刃』の前身作『鬼殺の流』の主人公は「盲目、隻腕、両足義足」というシリアスすぎる設定だったために見送られることに。

 当時の編集担当・片山氏が「この作品の中に、もうちょっと普通の子いないですかね」と、原作者・吾峠先生に聞いたところ、「炭を売っている男の子がいて、その子は家族全員殺されたうえに妹が鬼になっちゃって。男の子は妹を人間に戻すために鬼殺隊に入るんです」と、炭治郎の設定を説明した結果、主役に抜擢されることになりました。

 2つの前身作『過狩り狩り』、『鬼殺の流』で評価が低かった主人公に代えて、炭治郎を据えたことが功を奏し、『鬼滅の刃』は瞬く間に高い評価を受け、アニメ、舞台、歌舞伎など、さまざまなコンテンツで作品化されました。

 

 ──連載漫画は、原作者と編集者が二人三脚でストーリーを練り、キャラクター設定も試行錯誤の末決まっていきます。読者の反応を見ながら調整を加え、当初の予定を変更することもあるものです。

 最終的に思いもよらないキャラクターが高い人気を得たことに一番驚いているのは、意外にも原作者なのかもしれません。

〈文/lite4s〉

《lite4s》

Webライター。『まいじつ』でエンタメ記事、『Selectra(セレクトラ)』にてサスペンス映画、韓国映画などの紹介記事の執筆経験を経て、現在は1980~90年代の少年漫画黄金期のタイトルを中心に、名作からニッチ作品まで深く考察するライター業に専念。 ホラー、サスペンス映画鑑賞が趣味であり、感動ものよりバッドエンド作品を好む。ブロガー、個人投資家としても活動中。

 

※サムネイル画像:Amazonより

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