今、日本だけでなく海外でもアニメーション映画の市場に変化が生まれています。というのも世界的な興行の記録が多様になり、金額としてもどんどん伸びているのです。今、アニメーション映画界に何が起きているのでしょうか?
◆更新された世界興行収入ランキング 『ナタ』が新記録!
2025年に入ってそうそうアニメーション映画の世界興行収入ランキングに変動がありました。中国で公開されたアニメーション映画『ナタ 魔童の大暴れ』が前代未聞の興行成績を打ち立て、ランキングの首位に躍り出たのです。
●アニメーション映画の世界興行ランキング(2025年3月時点)
1位:ナタ 魔童の大暴れ(2025)18億ドル
2位:インサイド・ヘッド2(2024)16億9800万ドル
3位:ライオン・キング(2019)16億6200万ドル
4位:アナと雪の女王2(2019)14億5300万ドル
5位:ザ・スーパーマリオブラザーズ ムービー(2023)13億6300万ドル
6位:アナと雪の女王(2013)13億600万ドル
7位:インクレディブルファミリー(2018)12億4300万ドル
8位:ミニオンズ(2015)11億5900万ドル
9位:トイ・ストーリー4(2019)10億7300万ドル
10位:トイ・ストーリー3(2010)10億6700万ドル
(参照 : Box office Mojo)
『ナタ 魔童の大暴れ』のすごい点は、これまでアメリカの大手アニメーションばかりが並んでいた記録を一挙に抜き去るほどの成績をいきなり残した点です。
実際、その成績の異様さは中国における記録でもより際立ちます。これまで中国におけるアニメーション映画の興行成績第1位は『ナタ 魔童の大暴れ』の前作にあたる『ナタ 魔童降臨』(2019)で興行収入50億元(約996億円)ほどでした。
既に前作が偉大な記録を打ち立てていたのですが、今回の『ナタ 魔童の大暴れ』は軽々とその記録を更新し、その2倍どころか3倍となる興行収入150億元(約2,988億円)を記録しています。
これはアニメーション映画としての記録更新どころか、中国における全映画の歴代最高興収である『1950 鋼の第7中隊』(2021)の57億元(約1,135億円)をも大きく引き離す記録でした。
日本では長年突破は無理だと思われていた『千と千尋の神隠し』の300億円という興行収入記録を、『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』が400億円という大差をつけて記録を更新したことも記憶に新しいですが、まさに中国でもそんな記録の大幅な更新が果たされたのです。
◆今、世界的にもアニメーション映画の成績は上昇中?
中国の台頭ぶりが表れている記録更新のニュースだったわけですが、そもそもアニメーション映画の世界興行収入ランキングに上がっている作品年代を見ると分かるとおり、実はその作品のすべてが2010年代以降の作品であり、かつ上位は比較的近年の作品が最上位にいます。実はアニメーション映画の興行成績は近年激しく変動しているのです。
特に2位の『インサイド・ヘッド2』も去年の夏に公開されたばかりの新作映画。久しぶりの首位の更新が果たされたと思いきや、まさか約半年でその記録を塗り替える作品が出てくるとは、誰もが思いもしなかったでしょう。
これは近年ほど優れた作品が多く出てきているというよりも、世界的な市場が広がっていることや、アニメーション映画を受け入れる世代が世界的にも拡大していることに起因しているでしょう。
これも中国市場を見るとはっきりしていて、そもそも2010年代に入り中国の映画市場が急拡大していった上に、それまでは子供向け作品という印象の強かったアニメーション映画に、より上の年齢層も楽しめるような作品が登場するようになり、ついに『ナタ 魔童の大暴れ』が登場したという背景があります。
今でこそアメリカの大手アニメーション制作会社の作品が、世界興行という視点では圧倒的に強い状況ですが、今後はそれも変化していくかもしれません。
◆日本作品は世界で戦っていけるのか? 望みはある?
では日本作品も世界という市場での大ヒットも期待できるのでしょうか。
実は前述のアニメーション映画の世界興行ランキングでも、上位50作品に日本作品はランクインができていないのが現状です。どうしてもアメリカや中国に比べると、日本単体での市場規模は相対的に小さいので、どれだけ日本で大ヒット作品となっても世界的な市場でもヒットを果たせないと名を連ねるのは難しいです。
そんな中でやはり期待がかかるのが世界的にも注目を集めている『鬼滅の刃』です。やはり世界市場においても日本のアニメーション映画で一番の成績を獲得しているのが『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』で5億ドル(約727億円)に迫る成績を残しています。本作は新型コロナウイルス感染症の流行が市場にまだ大きく影響を残していた時期の作品ということもあり、まだ高い成績を残し得るポテンシャルの作品だったという見方ができるでしょう。
そんな中、今年公開される『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 』第一章の公開です。
本作は日本だけでなく世界150の国と地域での上映が既に発表されており、これまでよりもさらに範囲を広げた世界興行に臨むことが発表されています。
配信環境の向上により、以前よりも最新の日本のアニメーションを世界のファンが見られるようになった状況を思うと、数字の面でも日本だけでなく世界的にも大ヒットを果たす作品がいつ出てきてもおかしくありません。果たして今年の夏、日本の作品も世界市場に大きく切り込んでいけるのか、期待が高まります。
〈文/ネジムラ89〉
《ネジムラ89》
アニメ映画ライター。『FILMAGA』、『めるも』、『リアルサウンド映画部』、『映画ひとっとび』、『ムービーナーズ』など現在複数のメディア媒体でアニメーション映画を中心とした話題を発信中。映画『ミューン 月の守護者の伝説』や映画『ユニコーン・ウォーズ』のパンフレットにライナーノーツを寄稿するなどその活動は多岐にわたる。noteでは『アニメ映画ラブレターマガジン』を配信中。X(旧Twitter)⇒@nejimakikoibumi
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劇場版「鬼滅の刃」無限城編 公式サイト
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