3月からNHKの連続テレビ小説『あんぱん』で、漫画家のやなせたかし先生と妻の小松暢さんをモデルにしたTVドラマが放送されています。
これを機に、やなせ先生がかつてリリースした楽曲が復刻配信され、歌手デビューしていたことに驚くファンも多いようです。
しかし、やなせ先生だけではありません。ほかにも歌手活動をしている人気漫画家たちがいるのです。
◆84歳で歌手デビュー──『アンパンマン』やなせたかし先生
『アンパンマン』シリーズの原作者・やなせたかし先生は、漫画家としてだけでなく、絵本作家、詩人、作詞家、作曲家など、マルチな才能を発揮していました。
特に有名なのは、童謡「手のひらを太陽に」の作詞。作曲家としては「ミッシェル・カマ」名義で活動していました。
2003年11月には「いいなぁアキ(安芸)」、同年12月には「ノスタル爺さん」のCDをリリースし、84歳にして歌手デビューを果たしました。
今年の3月からは、やなせ先生と妻の小松暢さんをモデルにしたNHKの連続テレビ小説『あんぱん』の放送開始を記念して、「ノスタル爺さん」と「手のひらを太陽に ボニージャックス・ゆうえん地」が復刻配信されています。
『アンパンマン』は幼い子供を中心に人気を誇る国民的アニメですが、2006年4月出版の『毎日かあさん3 背脂編』(出版社:毎日新聞社)で、西原理恵子先生と対談したやなせ先生は、当初は主人公の顔を食べさせることは残酷ではないかという批判が多かったことを明かしています。
しかし、やなせ先生は「あんパンだから大丈夫です」とユーモアたっぷりに返答。やなせ先生の優しい人柄がにじみ出るエピソードといえるでしょう。
◆自身が歌ったCDをマンガの付録にする──『20世紀少年』浦沢直樹先生
2000年に「第25回講談社漫画賞」、2002年に「第6回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞」、2002年に「第48回小学館漫画賞」を受賞した『20世紀少年』の原作者・浦沢直樹先生は、大の音楽好きとしても知られており、2007年12月には和久井光司先生との共著『ディランを語ろう』(出版社:小学館)という対談集も出版しています。
そして、2003年2月出版の『20世紀少年』コミックス第11巻の初版には、『Bob Lennon』というCDが付録として封入されました。このCDには、浦沢先生が作詞・作曲・歌・ギター・ブルースハープ・録音を行ったオリジナル曲が収録され、ファンの間で話題になりました。
この曲は、映画版『20世紀少年』で主人公の遠藤健児役を演じた唐沢寿明さんも歌唱し、エンディングテーマに起用されています。
映画版も2004年に「アングレーム国際漫画祭(フランス)最優秀長編賞」、2011年に「アイズナー賞(アメリカ)最優秀アジア作品賞」といった数々の名誉ある賞を受賞するなど、高く評価されています。
また、浦沢先生の才能は漫画や音楽だけにとどまらず、2022年12月公開の映画『天上の花』に出演し、俳優デビューを果たすなどマルチに活躍しています。
◆歌手としてワンマンライブも果たす──『テニスの王子様』許斐剛先生
『週刊少年ジャンプ』のヒット作『テニスの王子様』(以下、『テニプリ』)の原作者、許斐剛先生は、同作のアニメ化後に複数のキャラクターソングの作詞を手掛けてきました。
2009年8月には「テニプリっていいな」で歌手デビューを果たし、多くのファンから支持されています。
2016年1月16日には、企画・演出・脚本などをすべて自分でプロデュースした、初のワンマンライブ『許斐 剛☆サプライズ LIVE 〜一人テニプリフェスタ〜』を開催。
許斐先生は『テニプリ』のTVアニメ第38話「ペナル茶(ティー)!」でファミレスのウェイター役、2002年9月発売のゲーム『テニスの王子様 SWEAT&TEARS』と2003年9月発売のゲーム『テニスの王子様 SWEAT&TEARS 2』で許斐先生をモデルにした許斐コーチ役で声優にも挑戦しています。
さらに、2006年5月放映の『実写映画 テニスの王子様』では、モブキャラクターとして1シーンのみ出演を果たしました。
◆自身の作品のオリジナルソングを熱唱──『満月をさがして』種村有菜先生
少女漫画雑誌『りぼん』で、『神風怪盗ジャンヌ』や『満月(フルムーン)をさがして』などのヒット作を生み出し、スマートフォン向けアプリゲーム『アイドリッシュセブン』のキャラクター原案を手がける種村有菜先生は、その美しいイラストだけでなく、歌声でもファンを魅了しています。
2002年4月に『満月をさがして』がアニメ化されたあと、2005年10月にリリースされたコンセプトアルバム『満月をさがして フルムーン・ファイナルライブ』には、ボーナス・トラックとして種村先生が歌う『SMILE 〜Arina’s Vocal Version』が収録されています。
また、同人音楽家としても作詞や歌唱を行い、2010年に行われた「冬コミ」に参加したときにはデビュー15周年を記念したCD『純愛天使』を販売。
このCDには、種村先生がこれまでに執筆した読み切りや連載作品のイメージソングが収録されています。
2011年からは、『満月をさがして』のTVアニメで主人公・神山満月役を演じた歌手のmycoさんと、「満月禁猟区」というライブイベントもたびたび行うなど、音楽活動にも力を入れています。
──自身の作品がアニメ化されたときにテーマソングを作詞する漫画家はいますが、許斐剛先生のようにワンマンライブまで開催してしまう人は極稀な存在でしょう。
漫画家としてだけでなく、歌や音楽でも多くのファンを楽しませようとする彼らの情熱からは、多くのファンを楽しませたいというエンターテイナーとしての力強さを感じます。
〈文/花束ひよこ〉
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