アニメの中には、原作の描写があまりに過激で、放送時に設定や表現が変更された作品がいくつもあります。『ONE PIECE』や『名探偵コナン』などの人気アニメも例外ではありません。
◆『ONE PIECE』白ひげの最期の姿は放送不可だった?──ナレーションもカットされる
『ONE PIECE』コミックス第59巻で、「白ひげ」ことエドワード・ニューゲートは命を落とします。
原作では「死してなおその体屈することなく──」「頭部半分を失うも敵を薙ぎ倒すその姿まさに“怪物”」というナレーションとともに、逆光ではあるものの、頭部を失った状態の白ひげの姿が克明に描かれていました。
ところが、2011年1月30日放送のTVアニメ第485話「ケジメをつける 白ひげVS黒ひげ海賊団」では、表現が大幅に変更されています。
命を落とした白ひげの顔は頭部のある右側が強調され、ナレーションでも頭部に関する言及は一切ありませんでした。
さらに、原作で「その誇り高き後ろ姿には…」「あるいはその海賊人生に一切の“逃げ傷“なし!!!」とのナレーションとともに描かれた、体の前から刺された刀が背中まで貫通する描写は、アニメでは傷一つないキレイな背中に変更。流血も最小限に抑えられました。
◆『テニスの王子様』失明しながらも試合を続行?──アニメでは執拗にボールをぶつけられるも……
『テニスの王子様』コミックス第25巻で描かれた関東大会の決勝戦では、主人公・越前リョーマが在籍する青春学園中等部から3年生の不二周助がシングルス2に出場、立海大附属中学校の切原赤也と激突します。
ラフプレーもいとわない切原の攻撃により、原作では不二が一時的に視力を失ってしまいます。
ダブルスの試合で2敗している青春学園は、不二が棄権するともう後がないという絶体絶命のピンチに陥りました。
目が見えていないことに気づいた顧問の制止を振り切り、不二は試合を続行して見事勝利を収めるのですが、このエピソードは2004年3月17日放送のTVアニメ第125話「怒りの不二」で、大幅な変更が加えられています。
切原が執拗にボールをぶつけるシーンは原作通りに描かれますが、不二が視力を失う場面は全カット。
その理由については明かされていませんが、中学生のテニスの試合でラフプレーが原因で一時的とはいえ視力を失うという過激な描写は、アニメ化にあたって配慮されたと考えられます。
アニメでは、別の試合で切原のラフプレーにより入院した橘桔平が不二の応援に駆けつけ、切原がフェンス越しに橘にボールをぶつけるという嫌がらせを行うシーンが追加されています。
その光景を目にした不二が、普段の冷静沈着な姿からは想像もつかないほど激怒するという展開に変更されました。
試合に負けた切原は、のちに放送されるアニメオリジナルの「日米親善ジュニア選抜強化合宿編」で自らの行いを反省し、一部の生徒と和解するなど、内面的な成長を見せます。
◆『犬夜叉』弟の心臓を食べてパワーアップする兄!?──アニメではギャグ要素を追加
『犬夜叉』コミックス第3巻に登場する雷獣一族の飛天・満天は、まったく似ていない妖怪の兄弟です。
兄・飛天は些細なことで激高し、口説いていた女の妖怪を手にかけるなど、残虐な一面を持つ恐ろしい妖怪として描かれています。
飛天と満天は2000年12月放送のTVアニメ第9話「七宝登場! 雷獣兄弟 飛天満天!!」と第10話「妖刀激突! 雷撃刃VS鉄砕牙!!」に登場しますが、「四魂のかけら」を巡って犬夜叉と戦う中、弟の満天が絶命。
原作では、飛天が弟の亡骸を抱いて大声で号泣したあと、その心臓を勢いよく喰らい、妖力を取り込むという驚きの展開が待ち受けていました。
しかし、このシーンはアニメで規制され、満天の心臓ではなく四魂のかけらを体内に取り込んで力を得るという展開に変更。満天が絶命する直前にはギャグ要素が盛り込まれています。
容姿がまったく似ていない兄弟という設定は原作通りですが、アニメでは飛天が凛々しい父親似で容姿端麗、満天はお世辞にも美人とは言えない母親似で薄毛を気にする気の弱い弟として描かれました。
満天は息を引き取る前、「父ちゃんは母ちゃんのどこが良かったんだろうね……」とつぶやき、幼いころの回想シーンでは兄弟にそっくりな両親が登場。
それでも、最期は飛天に「今度生まれても飛天あんちゃんの弟で生まれたい」と感謝を述べていたため、兄弟仲は良好だったことがうかがえます。
当時、犬夜叉は19時台というゴールデンタイムに放送していたため、飛天の残虐性とバランスを取るために、満天に対するギャグ要素を増やしたのかもしれません。
◆『名探偵コナン』アニメ第1話から規制の対象になる──今でもネットで語り継がれる展開に
最終回に向けてますます盛り上がりを見せている『名探偵コナン』。実は、1996年1月8日放送のTVアニメ第1話「ジェットコースター殺人事件」でいきなり演出に規制が入っていました。
このエピソードは遊園地を訪れた工藤新一と毛利蘭が、ジェットコースターで遭遇する殺人事件を描いたもので、コミックス第1巻では過激な描写も含まれていましたが、『名探偵コナン』も『犬夜叉』と同様に当時は午後7時台に放送されていたことや、事件のショッキングな内容から、アニメでは被害者の頭部を光でぼやかす演出がなされました。
しかし、その光の演出が逆に不自然さを際立たせ、首が天に向かって光り輝いているようにも見えることから、今でもネットでは「不自然すぎる」と語り継がれています。
──原作に忠実なアニメ化が望ましいですが、過激なシーンの規制は致し方ありません。さまざまな配慮をしながら、可能な限り原作に沿った形で放送しようと尽力する製作スタッフには、頭が下がります。
〈文/花束ひよこ〉
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