かつて、少女漫画雑誌の付録といえばレターセットやシール、文房具などの普段使いできるものが主流でした。しかし、現在は驚きの付録や豪華すぎる付録が登場し、ネットを中心に話題となっています。
◆賛否両論を巻き起こす結果に?──ミニ婚姻届
2020年7月出版の『りぼん』8月号では、なんと「ミニ婚姻届」が付録として同封されました。
小中学生向けの雑誌の付録に婚姻届という前代未聞の企画に、多くの人が驚きましたが、これは当時連載されていた黒崎みのり先生原作の『初×婚(ういこん)』と、同年6月出版の結婚情報誌『ゼクシィ』8月号のコラボ企画だったのです。
『ゼクシィ』は、実際に役所に提出できる婚姻届が付録になることもありますが、この『りぼん』のミニ婚姻届は「実際には使えません」という注意書きがあり、あくまで遊びの範囲内で使うもの。
ミニ婚姻届には「プロポーズの言葉」「理想の結婚式」「ブーケのデザイン」などを事細かに記入できるほか、「結婚式の衣装」を自分で描くスペースも設けられており、結婚への夢を膨らませる仕掛けが満載でした。
しかし、この付録に対してはネットを中心に賛否両論が巻き起こりました。
「好きな人との結婚を想像できて楽しいのではないか」「とてもかわいらしくて良いと思う」という肯定的な意見がある一方で、「令和の時代に子供に結婚観を押し付けるようでどうかと思う」「子供をねらった犯罪も多いので、こういった付録は遊びでも心配」という否定的な意見もありました。
ちなみに『初×婚』は、2023年に「第68回小学館漫画賞児童向け部門」を受賞し、2024年4月出版の『りぼん』5月号で、コミックスの累計発行部数が220万部を突破したことが発表されています。
◆付録の基準は「親に買ってもらえないもの?」──ロボット掃除機
2017年3月出版の『ちゃお』4月号では、まさかの家電が付録になりました。
それは当時連載されていた篠塚ひろむ先生原作の『プリプリちぃちゃん!!』に登場する「ちぃちゃん」をモチーフにしたロボット掃除機で、その名も「ぷりちぃお掃除ロボCH-01」。
その吸引力は、「消しゴムのカス」サイズのゴミまで吸い込むほどでした。
さらに、2020年5月出版の『ちゃお』6月号にも同様のロボット掃除機「おそうじロボUSA-8」が付録として登場。こちらは前回のロボット掃除機から改良を重ねたのだとか。
2018年8月に公開された『ORICON NEWS』のインタビュー記事「少女漫画誌『ちゃお』の付録なぜ豪華に?“家電”まで登場のワケを直撃」で、『ちゃお』の付録担当者は、「付録制作におけるキーワードに“親に買ってもらえないもの”“大人は使うけど、子供はなかなか使わせてもらえないもの”というのを掲げている」とコメントしています。
近年の付録の中でも特に大きな反響を呼んだ「ぷりちぃお掃除ロボCH-01」について、担当者は「『プリちぃ~』は2年ぐらいかかりました」「ペンやメモ帳のように、すでに世に存在する物であれば半年程度で制作しますが、これらのように1から作る場合は本当に長く時間がかかる」「なので、付録の予算も月によって違ってきます。学年が変わる4月号や年末発売の2月号、読者が長いお休みに入るタイミングなどは、特に力を入れていますね」と、制作の苦労を明かしました。
◆貯金箱なのにハイテクで斬新?──ATM型貯金箱
2015年12月出版の『ちゃお』1月号では、付録に「ATM型貯金箱」が登場。
『ちゃお』の付録担当者は、ロボット掃除機と同様に子供がなかなか使わせてもらえないものにATMをあげ、「そういう“使ってみたい!”っていう子供心を刺激するギミックの効いたものを考えるようにしています」とコメント。
このATM型貯金箱はカードを差して4ケタの暗証番号をプッシュすると引き出しがオープンする仕組みになっており、コインが30~40枚ほど収納できます。
2018年12月出版の『ちゃお』2月号でも、このATM型貯金箱が再び付録として登場。「指認証」の機能まで追加されました。
また、全国のセブン-イレブンで『ちゃお』2月号を買うと、ATM型貯金箱を着せかえられる「ちゃお×セブン銀行コラボきせかえシール」がもらえる特典もありました。
◆「男のコも大人の人も、みんなで読んでね!」と書かれた意味とは?──生理カンペキBOOK
2021年10月出版の『りぼん』11月号には、「生理カンペキBOOK」が付録になり大きな反響を呼びました。
女性をターゲット層とした雑誌には、生理に関する悩みやトラブル解消を目的とした冊子が付くことは珍しくありませんが、この「生理カンペキ BOOK」の表紙には「男のコも大人の人も、みんなで読んでね!」と記されており、多くの人に読んでほしいという編集部の熱い思いが伝わってきます。
内容は生理を迎えることによる身体の変化や、さまざまな生理用品、そのほかのマナーについて紹介されており、生理に関する知識が網羅されています。反響の大きさから、2022年6月27日より『りぼん』の公式サイトで無料公開されました。
2022年11月公開の『東京新聞』の記事「娘が生理に!でも妻は仕事でいない・・・ 37歳パパ記者のピンチを救った少女漫画誌「りぼん」の付録」によると、当時37歳の男性記者が、妻の不在中に娘が生理になったとき、『りぼん』の公式サイトを見るよう勧められ、助かったというエピソードが紹介されています。
『りぼん』の女性編集者は、取材に対し、「友だちの家に行ったときにどうする?お布団(の汚れ)はどうする?など、自分たちの経験から、知っていたらと思うことがたくさんありました」「でも『隠すもの』という意識もあり、聞けなかった、教えてもらえなかった」「基礎知識だけでなく『私たちが知りたかった』ことも詰め込もうと思いました」と、冊子制作の経緯を説明しています。
また、表紙に掲載された「男のコも大人の人も」のメッセージについては、「誰にでも関係あることですし、(男の子なら)将来は妻や娘の生理に直面するかもしれない」「そんなときに思い出してもらえればうれしいです」と、その真意を語っています。
──編集者の試行錯誤により生み出される雑誌の付録。普段使いできる手軽なものも便利ですが、時にはネット上で議論を巻き起こすほど、社会に影響を与える付録もあるようです。
〈文/花束ひよこ〉
※サムネイル画像:Amazonより