近年、“未就学児向け”アニメーション映画がかなり充実してきています。いわゆる小学校に上がる前の子供とその保護者の集客を見込んだ作品のことで、代表作といえば既に35作品以上が製作されてきた『それいけ!アンパンマン』シリーズなどがあります。
最近ではこれらの作品では「映画館デビュー」を謳い文句として、劇場の場内が通常よりも明るく設定していたり、音響を控えめに調整したりと、独自の上映形態を設けたりとさまざまなのですが、そもそもそういった「映画館デビュー」を促す作品の母数が増えてきています。
◆未就学児向けアニメーション映画にはどんなものがあるのか?
そもそもこれまでに未就学児を対象としたアニメーション映画にはどんなものがあったのでしょうか。
前述の通り、筆頭と言える作品が『それいけ!アンパンマン』シリーズで、その歴史は1989年に公開した『それいけ!アンパンマン キラキラ星の涙』に始まり、今や初夏に公開される毎年恒例の作品として定着しています。
興行収入は最近では毎年5〜6億円前後で定着していて、去年公開の『それいけ!アンパンマン ばいきんまんとえほんのルルン』はシリーズ歴代最高の興行収入である、7億円を突破する快挙を果たしました。
今年も6月27日から劇場版第36弾『それいけ!アンパンマン チャポンのヒーロー!』の公開が予定されていて、アニメ化35周年を経てまだまだ好調です。
一方で『アンパンマン』よりもさらに大きな市場規模となっているのが『プリキュア』シリーズです。
幅広い客層にリーチするシリーズになっていながらも、映画館デビューを促す上映企画などもあわせて行っている点では特殊なブランドに成長していて、市場規模は毎年興行収入10億円前後を記録できるほどです。
しかも2023年に公開された『映画 プリキュアオールスターズF』に至ってはシリーズ最高の14億円を超える成績を記録するほどにまで成長しています。
本シリーズの特徴は、作中で応援を促す演出を設けているのが有名で、入場者プレゼントとなる小型のライトを振らせる演出は、全作に共通するものではないながら、もはや『プリキュア』映画の代名詞ともいえるものとなっています。今年も9月12日から最新シリーズをフィーチャーした『映画キミとアイドルプリキュア♪』が公開予定です。
それ以外にも充実した応援上映形式や映画の途中で休憩時間を設けたりと子供への配慮が徹底された映画『しましまとらのしまじろう』シリーズや、3DCGシリーズから2Dアニメーションへの大幅なリニューアルが行われながらも未だに根強い人気のある『きかんしゃトーマス』シリーズなど、年に一回は上映が行われるブランドがいくつか存在します。
このように既に複数の作品が年一回のどこかで定例的に劇場企画を設けているのが未就学児向けアニメ映画界なのですが、昨今新たな作品ブランドがさらに定着を始めています。
◆最新作の映画は第2弾だけど今年で3年目? 人気番組の劇場版『シナぷしゅ』シリーズ
直近で上映が控えているのが、テレビ東京系で放送中の“乳幼児”を対象にしたテレビ番組『シナぷしゅ』の劇場版シリーズ。劇場版としては第2弾となる『シナぷしゅ THE MOVIE ぷしゅほっぺダンシングPARTY』が5月16日に全国ロードショーとなります。
レギュラー放送で人気のキャラクターや歌などが多く登場し、パペットを使った人形劇のやアニメーションなどいろんな作家が参加するオムニバス作品としての楽しみ方もできるシリーズです。
第2弾にして“定着”という表現は気が早いんじゃないかと思うかもしれませんが、シナぷしゅの興行自体は実は今年が3年目。
2023年に劇場版の第1弾『シナぷしゅ THE MOVIE ぷしゅほっぺにゅうワールド』を公開したのですが、翌年の2024年には同作品をアンコール上映し、2年連続で興行をしていました。完全新作でなくても需要と供給が成立するのは面白い現象です。
◆海外からの刺客! 毎年恒例の独自性の強い『パウ・パトロール』
もう一作、ここ最近の活躍が目覚ましいシリーズが『パウ・パトロール』シリーズ。
元はカナダとアメリカの合作作品で、シリーズの発表自体は2013年には始まっていました。既に世界でも大人気シリーズとなっていたのですが、日本でもやや遅れて2019年からアニメシリーズの放送がスタートし、同じようにヒットを果たしました。
そんな『パウ・パトロール』は2021年に初の長編劇場版『パウ・パトロール ザ・ムービー』が製作されたのですが、日本ではそれに先駆けて前年の2020年に『パウ・パトロール カーレース大作戦 GO! GO!』を劇場上映。海外ではテレビスペシャルとして放送された内容にダンスパートといった独自の実写映像などを加えて興行を行いました。
以来、長編上映も混ぜつつ夏休みシーズンの恒例作品として『パウ・パトロール』は毎年映画館でのプログラムを発表しています。
今年ももちろん『パウ・パトロール パウ・パーティー in シアター 2025』と題して7月11日から夏の興行が発表されていて、ついに今年で6年目となります。
2026年には長編第3弾にあたる『パウ・パトロール:ザ・ダイノ・ムービー(原題)』の製作も発表されており、まだまだ今後の活躍が期待できます。
映画館の毎年恒例企画となっている海外作品としては『きかんしゃトーマス』以来の快挙ともいえ、トーマスのような長寿人気作品となっていくことが期待できそうです。
一時期は『おかあさんといっしょ』が劇場版シリーズを定着させようとしていた時期もありましたが最近ではその上映もなくなったりと、実は“定着しなかった”例も未就学児向け映画の世界には全然あります。少子化が叫ばれて長い日本ですが、果たして群雄割拠めいてきたこれらの作品は果たして毎年興行を続けていけるのでしょうか。
〈文/ネジムラ89〉
《ネジムラ89》
アニメ映画ライター。『FILMAGA』、『めるも』、『リアルサウンド映画部』、『映画ひとっとび』、『ムービーナーズ』など現在複数のメディア媒体でアニメーション映画を中心とした話題を発信中。映画『ミューン 月の守護者の伝説』や映画『ユニコーン・ウォーズ』のパンフレットにライナーノーツを寄稿するなどその活動は多岐にわたる。noteでは『アニメ映画ラブレターマガジン』を配信中。X(旧Twitter)⇒@nejimakikoibumi
※サムネイル画像:https://2025.precure-movie.com/より
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