ゲームには「負けイベント」というものがあり、有名どころでは『ドラゴンクエストV 天空の花嫁』のゲマ戦などが挙げられます。このゲマ戦は主人公の父であるパパスが不遇の最期を遂げたことなどから、プレイヤーに恐怖とトラウマを植え付けました。

 負けイベントはゲームのみならず、漫画やアニメでもたびたび描かれ、読者・視聴者に絶望感を与えることがあります。

◆青キジを前にして麦わらの一味は手も足も出なかった──『ONE PIECE

 『ONE PIECE』にはこれまでも強大な敵が登場してきましたが、20053月放送のTVアニメ第227話「海軍本部大将青キジ!最高戦力の脅威」で初登場した海軍大将の「青キジ」ことクザンの存在は、麦わらの一味にとって驚異的でした。

 空島での大冒険やフォクシー海賊団とのデービーバックファイトを経て、ミステリアスな存在だったロビンもようやく一味に溶け込んだと思ったのも束の間……

 青キジの姿を見たロビンは青ざめて震えあがり、その姿を見たルフィたちもまた、青キジが只者ではないと本能的に悟ります。

 その後、青キジとの対峙は第228話「ゴムと氷の一騎打ち!ルフィVS青キジ」まで続きますが、青キジはロビンの全身を一瞬で凍り付かせ、応戦したルフィたちもまるで歯が立たず、まさに「負けイベント」といえる展開となりました。

 最後に青キジは、麦わらの一味にとってロビンの存在がいかに重荷になるかを告げて去って行きますが、一味の誰一人として青キジに敵わなかった事実、そしてせっかく仲間として受け入れられつつあったロビンが、いまだ敵側の人間に見えたことが視聴者には大きなショックとなったようです。

 のちにウォーターセブン編での戦いを終え、ずっと孤独だったロビンが麦わらの一味に居場所を見つけられた姿を見て、青キジはどこか安堵した様子を見せています。

◆視聴者にトラウマを植え付けた大兎──『リゼロ』

 『Re:ゼロから始める異世界生活』(以下、『リゼロ』)における大兎とスバルの戦いは、物語の中でも極めて絶望的かつ印象的なシーンの一つです。

 聖域での試練が進行する中、スバルはロズワール邸やエミリア陣営の未来を救うため、繰り返される死と絶望に立ち向かっていました。しかし、スバルに訪れたのはさらなる試練……「大兎」との邂逅です。

 大兎は魔獣の一種で、「三大魔獣」の一角を担う存在。無数に存在し、個体ごとに高い戦闘力を持つ上に、圧倒的な繁殖力と集団戦術で獲物を逃しません。その恐ろしさは、一度目にした者の心を凍らせるほどです。

 スバルは無力ながらも必死に抗いますが、大兎の前ではあまりにも非力でした。大兎たちは容赦なくスバルの肉体を喰らい尽くします。

 このエピソードは、アニメながら、ゲームのような負けイベント感がただよう絶望の演出が印象的です。

 そのため、ファンからは大兎は、「『リゼロ』に登場するキャラクターの中でも、トップクラスでトラウマになった」と言わしめるほどの存在となりました。

 これにより大兎が登場するシーンは、原作・TVアニメ・コミックスを含めてすべて閲覧注意と見なしているファンも多く、「グロテスクなものに耐性がない場合、大兎が出てくるシーンは観ないほうが良い」とネット上で警告している人もいるほどです。

◆物語冒頭からただよう絶望感──映画『プリキュアオールスターズF

 2023年公開の映画『プリキュアオールスターズF』は、物語冒頭から驚きの展開が待ち受けています。突如現れた謎の存在・プリムの登場によって、78人のプリキュアたちは記憶を奪われ、異なる世界に散り散りにされてしまいます。これはまさに、開幕からの負けイベントと呼ぶにふさわしい衝撃の幕開けです。

 プリムは、クールでどこかミステリアスな雰囲気をまとう劇場版オリジナルキャラクターとして登場しますが、物語が進むにつれて彼女の正体が明らかになります。実はその正体こそが、地球外生命体であり物語の黒幕でもある「シュプリーム」だったのです。

 プリキュアたちの「強さ」や「絆」の本質を知るために、プリム=シュプリームは自らプリキュアの姿「キュアシュプリーム」へと変身し、戦いを通じてその意味を見極めようとします。

 冷静で理知的な判断を下しつつも、やがて心の交流により彼女自身もまた変化していく──。そんなストーリーが、シリーズの枠を超えた感動を呼び起こしています。

◆異端審問官ノヴァクからは絶対に逃れられない──『チ。―地球の運動について―』

 ノヴァクは、『チ。地球の運動について』に登場する異端審問官で、地動説を唱える者たちを執拗に追い詰める存在として描かれています。

 その冷徹な尋問姿勢や、権力のもとで異端者を追及する様子は、多くの登場人物にとって逃れられない運命の象徴でもあり、彼と対峙する展開はまさに物語上の負けイベントのような緊張感を生み出しています。

 TVアニメ第11話「血」でも、直接的な拷問の描写は控えめであるものの、精神的に追い詰められていく様子がていねいに演出されており、視聴者に強い印象を残しました。

 

 ──漫画やアニメにもゲームに似たように、負けイベントがたびたび起こり、視聴者にトラウマを植え付けています。しかし、一度は負けてもそれに屈しないところが、アニメ・漫画キャラの凄いところ。以前よりも実力をつけ、かつて負けイベントに追い込んだ敵を打破する瞬間は視聴者のトラウマを払拭し、爽快感を与えてくれる瞬間といえるでしょう。

〈文/花束ひよこ〉

 

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