漫画やアニメにおいて、当初は死ぬ予定だったキャラクターが、さまざまな理由で物語完結まで生き延びることもあります。たとえば、『ドラゴンボール』のベジータ、『るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-』の神谷薫などの人気キャラクターも、作者の中で迷いがあったようです。次の4人は、作者の意に反して途中退場をまぬがれたキャラクターです。

◆作者の予想に反して人気キャラに──『ドラゴンボール』ベジータ

 ベジータは、2016年1月に発売された『30th ANNIVERSARYドラゴンボール 超史集 -SUPER HISTORY BOOK-』 (出版社:集英社)の描き下ろし漫画の中で、実は悟空との戦いで敗れ、退場する予定だったと鳥山明先生が明かしています。

 ベジータは登場当初ドラゴンボールをねらって地球に侵略しにきており、悟空と敵対する立場でした。

 しかし、鳥山先生の予想に反し、ベジータは人気キャラとなり、その後の物語に欠かせない存在になりました。鳥山先生は「こんな変なヘアスタイルのヤツが人気になるとは思わなかった」と当時を振り返っています。

 こうして読者たちによって救われたベジータ。しかし鳥山先生曰く、これがきっかけで、代わりにあの悪役を生み出すことになったといいます。それがフリーザです。

 ベジータの生存は、フリーザという新たな強敵を登場させ、超サイヤ人といった作品の根幹をなす人気要素の誕生にもつながりました。

◆原作者が必死に守った大魔導士──『DRAGON QUEST -ダイの大冒険-』ポップ

 ポップが命を落とす予定だったことは、原作者の三条陸先生が、2021年12月に発売された『ドラゴンクエスト ダイの大冒険 竜(ドラゴン)の紋章BOX』 (出版社:集英社)をはじめ、数々の媒体で公言しています。

 序盤のポップは臆病な性格で、強いモンスターが現れたら仲間を置いて一目散に逃げるなど、連載当初は読者からの評判が良くないキャラでした。

 当時『週刊少年ジャンプ』の編集長を務めていた鳥嶋和彦氏から、何度も「ポップは退場させるべき」と言われたほどでしたが、三条先生は確固たる構想があると説得し続けたのです。その構想とは、主人公の引き立て役が成長して、最終局面では最強メンバーの1人に昇格することでした。

 最終的に三条先生は「クリリンがフリーザに一矢報いたらカッコよくないですか」と、かつて鳥嶋氏が担当していた『ドラゴンボール』に例えて説得し、ポップを守り切ったそうです。

◆ギリギリまで悩んだ末に生存──『るろうに剣心』神谷薫

 神谷薫は第207話で雪代縁に命を奪われるという衝撃的な展開が描かれましたが、その後第211話で実は死体と思われていたのは精巧に作られた人形で、本人は生存していることが判明しました。

 連載当時も賛否があったこの展開について、和月伸宏先生はギリギリまで悩んだことを、ジャンプコミックス第24巻の「FREE TALK」で明かしています。

 このシーンが描かれた「人誅編」では、作中最大のテーマでもある緋村剣心が行った「人斬りに対する贖罪」についてフォーカスされていました。当初、和月先生もテーマを最優先にするなら薫を退場させたほうがストーリーや構成もまとまりが良くなるだろうと考えていたそうです。

 しかし、少年漫画の基本は笑顔とハッピーエンドだとも考えていた和月先生。最後は「薫が死んでしまっては心からの笑顔もハッピーエンドもありえない」と、薫の生存という結末を選択したのです。

◆りんを救うため人間に倒される予定だった──『犬夜叉』殺生丸

 高橋留美子先生が「自分史上最もカッコいいキャラを描こう」と生み出したのが殺生丸です。そんな殺生丸ですが、2015年3月に発売された『ストレンジャーソレント』2015年4月号(出版社:小池書院) の高橋先生のインタビューで、実は退場させる予定だったことを明かしています。しかも、同行者であるりんを救うため、人間に倒されるという具体的な展開まで考えていたそうです。

 殺生丸は半妖の犬夜叉とは違い純血種の妖怪であるため、当初は人間や犬夜叉を見下していました。しかし、りんと出会うことで他者への思いやりや、自分以外の者のために怒るという、それまでになかった感情が芽生えはじめ、精神的に成長していきます。キャラが成長していく過程を描き進めるうちに、退場させる案は高橋先生の中で却下したそうです。

 一方で、殺生丸と似た想定にも関わらず、対照的な結末を迎えたキャラがいます。それが神楽です。

 高橋先生が2022年9月にX(旧Twitter)のポストで明かした通り、神楽もまた、当初から退場を考えていたとのこと……。そんな神楽の最期に立ち会ったのは奇しくも殺生丸であり、結果的に作者の思惑を越えて成長した殺生丸の姿を、より際立たせることになりました。

 

 ──途中退場する予定だったキャラが生存ルートをたどる理由はさまざま。作者の意に反して人気が出て途中退場させづらくなったベジータ。物語はハッピーエンドで終わらせたいという理由で生き延びた神谷薫。こういった例を見てみると、改めてキャラクターたちは作中で必死に生きているのだと実感できるのではないでしょうか。

〈文/fuku_yoshi〉

 

※サムネイル画像:Amazonより

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