どんなヒーローたちにも産みの親が存在します。『ONE PIECE』のモンキー・D・ルフィ、『HUNTER×HUNTER』のゴン=フリークスにも例外なく親がおり、それぞれ父親は重要なキャラクターとして登場しています。しかし、なぜか母親は作中に一切姿を見せません。実は、その理由を探っていくと、二人の作者に共通する面白い考え方が分かってきます。

◆『ONE PIECE』と『HUNTER×HUNTER』の共通点

 人気漫画の中で主人公の母親が登場することは珍しくありません。たとえば、『NARUTO -ナルト-』では、主人公・ナルトの母親としてうずまきクシナが登場しています。クシナは、ナルトの前任の九尾の人柱力であり、最終的に夫のミナトと協力し、自らの命を使ってナルトに自分のチャクラと九尾を封じるという、作中でも重要な役割を担っていました。

 また『BLEACH』の黒崎一護の母親、黒崎真咲も作中で重要なキャラクターとして登場しています。真咲は、純血統の滅却師(クインシー)の最後の生き残りで、死神である一護に滅却師の力と虚(ホロウ)・ホワイトの力を継承するきっかけとなりました。

 このほかにも『DRAGON QUEST -ダイの大冒険-』のソアラや『鬼滅の刃』の竈門葵絵(きえ)など、多くの作品に主人公の母親が登場しています。

 ソアラは、その太陽のように優しい性格がダイに引き継がれ、ダイが人間を選び地上を最後まで守るきっかけを与えています。そして葵絵は、死後も要所要所で炭治郎や禰豆子の意識下に登場し、窮地を救っているのです。

 こうしてみると、母親はただ登場するだけでなく、主人公の力の根源や、精神的な支えになるなど、重要な役割を担っているケースが多いことが分かるでしょう。

 しかし、『ONE PIECE』と『HUNTER×HUNTER』では、これらの重要な役割が母親に割り当てられていない点が共通しています。まずルフィの場合、力の根源である「ゴムゴムの実」も、憧れの「海賊」になるという精神的支柱も、両方シャンクスが担っています。

 そして、ゴンの場合は、念能力を学ぶきっかけもハンターを志した精神的支柱も、共に成長してきたキルアやカイトを中心とした仲間たちが担っているのです。つまり両作品の共通点として、ほかの作品では母親が担うような役割を、別のキャラクターが果たしている点が挙げられます。

◆母親が出ないのは作者の共通した「考え方」

 母親が登場しない理由には、作品の構成だけではなく、尾田栄一郎先生と冨樫義博先生に共通した面白い考え方があるからです。

 実は、尾田先生は過去に「母親」について考えが垣間見える発言をしています。ジャンプコミックス78巻に収録された読者質問コーナー「SBS」で、「なぜ登場人物たちの母親は死亡していることが多いのか」という質問が寄せられた際に、尾田先生は「冒険の対義語が母だからです」と回答しています。

 さらに、アニメ版でルフィ役の声優を務めている田中真弓さんも、2022年12月に出演したYouTube番組『丈熱bar』 で、尾田先生は「冒険」を描きたいから「母親」が出てこないとはっきり言っていた、と明かしているのです。

 つまり、尾田先生にとって母親は冒険を引き止める存在だということが分かります。改めて第1話を読んでみると、海賊になることに否定的だった村長を含め、フーシャ村の大人たちは皆でルフィの船出を見送っています。尾田先生は、最初からルフィの冒険を引き止める存在を一切描いていないのです。

 一方の冨樫先生もまた、2016年に『少年ジャンプ+』の企画で行われた石田スイ先生との対談 の中で「親」について語っています。その中で冨樫先生は「漫画における親とは主人公がやることを反対する立場の人間だ」と発言しています。

 そして、もしゴンにきちんとした親がいたら、危険な冒険に出るのを許すはずがないとも……。冨樫先生のこの考えは、まさに第1話でゴンを引き止めようとしたミトさんの言動と合致しています。

 出立の描写は違えど、面白いことに両先生とも、主人公が「冒険」に出るのを止める存在こそが「母親」だという共通した認識を持っているのです。

◆ルフィもゴンも母親は登場しないのか?

 では、ルフィやゴンの母親が今後一切登場しないのかというと、登場の可能性は十分にあり得ると考えられます。

 ルフィの母親について、尾田先生は、2008年に発売された北米版の『週刊少年ジャンプ』にあたる『SHOUNEN JUMP』(SJ)に収録されている「SBS」で回答しています。今も悩んでいると前置きをしつつ「生きていると思う」と語っているのです。

 さらに注目したいのは、ルフィの母親は、つまりドラゴンの妻である点です。ドラゴンは「世界最悪の犯罪者」であり、革命軍総司令官という肩書きを持つ重要人物。そして、現時点ではドラゴンがなぜ「世界政府」に反旗を翻したのか、その直接的な理由は判明していません。

 つまり、ドラゴンの過去が明かされるとき、彼の視点からキーパーソンとしてルフィの母親が登場する可能性は十分に考えられます。

 同じことが、ゴンの母親についてもいえます。「暗黒大陸編」では現在、ビヨンド勢力に加担しているジン。暗黒大陸に到着したら、間違いなくジンにフォーカスした物語が描かれるでしょう。そこで過去が語られたら、当時ジンと関係のあった女性が描かれる可能性は十分に考えられます。

 また第64話でミトの祖母が、ジンはゴンの母親と「別れた」と言っていたことを明かしています。言葉通り受け取れば、ジンと交際、もしくは結婚していた女性は今も生きている可能性が高いことになります。

 さらに興味深いのは、冨樫先生は前作『幽☆遊☆白書』で、それまで一切謎に包まれていた幽助の実の父親を、第173話で前触れもなく登場させていることです。もしかしたら、最終話近くで突如遠くからゴンを眺める女性の姿が描かれるかもしれません。

 

 ──あくまでもメインはルフィやゴンの物語……。それを邪魔する存在が、大きく本筋に絡んでくることはないでしょう。しかし、どちらの父親も重要人物であることから、彼らの過去が明かされる際に、母親が登場する可能性は決して低くないと考えられます。

〈文/fuku_yoshi〉

 

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※禰豆子の「禰」は「ネ+爾」が正しい表記となります。

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