かなり際どいネタでおなじみの『パンティ&ストッキング with ガーターベルト』が新作を携えて“令和”ならではの形で帰ってきました。今季より放送が始まった新作『New PANTY & STOCKING with GARTERBELT』(以下、『Newパンスト』)では、おなじみの挑戦的なギャグセンスはそのままに表現に配慮したバージョンとネタをそのまま楽しめる2バージョンでの制作となりました。いったいどんな違いが施されているのでしょうか。
◆配信で比較可能! 『Newパンスト』は2バージョン
久しぶりの新作となった『Newパンスト』は、際どい下ネタでおなじみのシリーズ。
2010年のシリーズから約15年ぶりの放送となり表現の規制が厳しくなったのか、今回の放送では規制が入った放送限定の「CENSORED版」と、配信などで限定的に観られる「オリジナル版」の2バージョンが制作されました。
具体的どんな規制が入っているかといえば、際どいと思われるビジュアル表現には“CENSORED(検閲済み)”のラベルによって見えないようにされていたり、際どいセリフにはピー音による制限が入るようになっています。
10年前のシリーズではこういった規制の施されたバージョンの制作はされていなかったことを踏まえると、時代的に制限が厳しくなったという見方ができる一方で、第1話となる「パンティ アンド ストッキング ホームカミング」では、身体をキューブ状にバラバラにされてしまったパンティの陰部のパーツを、豊年祭の如く担いで運ぶといった過去シリーズでもやっていなかったぐらい直接的な描写が登場しています。
規制が厳しくなったのか、はたまた今までやってこなかったぐらいの際どさにも挑戦しているのか。どちらなのかは表現ごとにも理由は違うのかもしれませんが、自重するという方向ではなくバージョン違いによる“住み分け”のような形に至ってくれたのは、従来のファンにとっては嬉しい決断と言えます。
◆新時代の表現は自粛ではなく“発信”の仕方の変化へ
今回の『Newパンスト』のように放送版と配信版の2バージョンを作り放送コードへの配慮をするケースは、今季放送作品では本作だけではありません。TVアニメ『ぬきたし THE ANIMATION』も同様に放送向けの全面規制ver.と配信限定ver.の2バージョンが制作されています。
R18ゲームを原作としたアニメーション化企画であり、原題のタイトルから大幅な改変が加わっているほど放送に伴い配慮が成されています。原作が原作なだけに『Newパンスト』以上に性的な表現の色合いが濃い内容となっています。
時代を経てTV放送できる表現が厳しくなってきている一方で、配信サービスの普及からむしろ表現の幅という点では自由度は増しているという見方もできそうです。
かつてはOVA(オリジナルビデオアニメーション)という直接販売やレンタル商品という形で、際どい表現を含んだ作品はテレビ放送されることを避ける傾向がありました。
しかし配信という手段が一般化したことで、配慮を加えたバージョンを放送して、配信版で規制を解くという手段が増え、より一般的に作品を送り出しやすくなってきたともいえます。
これは性的な表現だけでなく、暴力的な表現や命に関わる表現などにも言えることで、TVアニメ『進撃の巨人』シリーズでも暴力面での規制を施したバージョン差が設けられたり、そもそも放送自体を“しない”という選択をした『タコピーの原罪』も倫理面や視聴者の精神的な影響への配慮が加味されています。
表現に対する規制が厳しくなってきたという見方ができる一方で、そういった規制が加わるような表現をしなくなったのではなく“発信の仕方が整備されてきた”という見方の方が正しいのかもしれません。
攻めた表現を自粛するのではなく、観たい人は観られるという選択肢の幅が設けやすくなり、選択肢を取る作品が一般化してきたのがこういった“住み分け”の作品の増加に顕れています。
むしろ時代的にはどうやって攻めた表現を発信していくのかという点よりも、個人のSNSなどオフィシャルではないルートでの波及の方が問題かもしれません。
テレビや配信プラットフォームなどでは管理ができても、それ以外のメディアを経由して刺激の強い作品が安易に子供や苦手な人にも届き得る時代にもなっています。
製作サイドだけでなく視聴者である私たちもまた、そういった作品の情報をどう共有していくのかも、発信する側としても受信する側としても気をつけていく必要がありそうです。
〈文/ネジムラ89〉
《ネジムラ89》
アニメ映画ライター。『FILMAGA』、『めるも』、『リアルサウンド映画部』、『映画ひとっとび』、『ムービーナーズ』など現在複数のメディア媒体でアニメーション映画を中心とした話題を発信中。映画『ミューン 月の守護者の伝説』や映画『ユニコーン・ウォーズ』のパンフレットにライナーノーツを寄稿するなどその活動は多岐にわたる。noteでは『アニメ映画ラブレターマガジン』を配信中。X(旧Twitter)⇒@nejimakikoibumi
※サムネイル画像:『TVアニメ「New PANTY & STOCKING with GARTERBELT」キービジュアル ©TRIGGER・今石洋之/NPSG製作委員会』
New PANTY & STOCKING with GARTERBELT
©TRIGGER・今石洋之/NPSG製作委員会