アニメやマンガの名セリフには、ネットやバラエティ番組などでよく使われているものもあります。しかし、ネットミームやゲームで1部切り取った場面が拡散されたことで、中には間違って伝えられたり別のキャラクターの言葉なのに有名キャラが言ったことにされてしまったりしたフレーズも存在します。

◆実際に言ったのはルフィとは別人だった心にささるセリフ

 『週刊少年ジャンプ』で2006年に連載されていた西公平先生による『ツギハギ漂流作家』で、主人公の吉備真備が発した「何が嫌いかより何が好きかで自分を語れよ」というセリフ。

 吉備真備の外見がルフィに似ていたことから、コラ画像やアスキーアートがネットで拡散されて『ONE PIECE』の原作で本当にルフィが言っていたと勘違いする人まで出現する事態となりました。

 昔から「人の悪口は蜜の味」という言葉がありますが、現代においては匿名ということもあってネット掲示板では自分の嫌いなものや他人を批判する投稿が多いです。それだけに「何が嫌いかより何が好きかで自分を語れよ」という正論は、多くの人の心に突きささりネットで広く使われることになります。

 このセリフは『ツギハギ漂流作家』の最終回に吉備真備が、犬が嫌いか猫が嫌いかで命の奪い合いまでしている村人たちに向けて発したものでした。悲劇だったのはこのセリフを発しているコマの吉備真備が、国民的漫画の主人公であるルフィに似ていたことです。

 悲しいことに同じセリフでも、誰が言ったかによって説得力は変わってきます。それもあってか、ネットでは知名度の高いルフィのコラ画像やアスキーアートが拡散。

 さらに2014年に発売されたゲーム『ジェイスターズ ビクトリーバーサス』のギャラリーモードで、ルフィのセリフとして収録されてしまいます。ルフィの声優である田中真弓さんは、このセリフを『ONE PIECE』で言った覚えがないと困惑した模様……。

 開発者の悪ノリによるネタだったのか、本当にルフィのセリフだと思っていたのかは現在でも謎となっています。しかし、3ヵ月後のアップデートで削除されたことから考えると、問題視されたのは確かでしょう。

 このような悲劇と誤解が重なり、ついには『ONE PIECE』の原作で本当にルフィが言っていたセリフだと思っている人も続出。日本では2000年代後半からスマホが普及したとされていますが、事実を捻じ曲げる切り取り記事の危険性を既に示唆する出来事だったといえるのかもしれません。

◆改ざんされていたアムロのセリフ

 あまりにも有名なアムロの「殴ったね、親父にもぶたれたことないのに」というフレーズ。実はアムロはブライトから最初に殴られたときには「な、殴ったね」としか言っておらず、2度目にぶたれたときに「二度もぶった…親父にもぶたれたことないのに」と発言。

 ネットやバラエティで使われる中で、テンポを考えて2つのセリフがくっつけられて広まったのだと考えられます。

 『機動戦士ガンダム』におけるアムロのもっとも有名なセリフといっても過言ではありません。ネットやバラエティで「殴ったね、親父にもぶたれたことないのに」というセリフだけを聞くと、アムロに甘ちゃんや坊やというイメージ持つ人も多いでしょう。

 しかし、アムロは1度目にぶたれたときには「親父にもぶたれたことないのに」というセリフはグッと飲み込んだのだと思われます。この後ブライトに「殴って何故悪いか」と言われてもう1度ぶたれるわけですから、少しくらい甘ったれたセリフを発してしまっても仕方がないでしょう。

 また、アムロがこのセリフを発した背景を知るとなおさらです。もともと民間人だったアムロですが、なりゆきでガンダムのパイロットになって死闘を繰り広げて来ました。

 しかもモビルスーツ戦の才能がずば抜けていたため、大人たちからの期待も大きくプレッシャーも相当だったでしょう。それを1516歳という年齢の少年が背負いながら戦っており、このときはまだ民間人だったにもかかわらず軍人としての責務を全うすることを求められていたわけです。

 このあと、ブライトは「それが甘ったれなんだ!殴られもせずに一人前になった奴がどこにいるものか!」と怒鳴っていますが、境遇を考えれば決してアムロが甘ったれとはいえないでしょう。ただ、ブライトもアムロを奮い立たせるためにわざと厳しい言葉をぶつけたのだと思われます。

 このときホワイトベースには民間人も多く収容しており、ブライトも彼らを守るために必死でした。頭ごなしの説得は反発を招くばかりで逆効果でしたが、アムロの才能を認めて期待しているという最後の発言は胸にささったようです。

 さらに幼なじみのフラウ・ボウが「今日までホワイトベースを守ってきたのは誰でもない俺だって言えないアムロなんて男じゃない」と叱咤激励。これによってアムロは、「悔しいけど、僕は男なんだな…」と再びジオンと戦うことを決意しました。

 「親父にもぶたれたことないのに」という部分ばかりがクローズアップされて広まっていますが、戦争という過酷な状況下でそれぞれの想いが交錯しての発言だったことが分かります。15歳くらいの年齢で、アムロと同じように戦いにおもむける人はなかなかいないでしょう。

◆第9部で逆輸入された空条承太郎とディオのセリフ

 ファンがネットなどで好んで使っている、空条承太郎とディオの時を止める能力が解除されるときの「そして時は動き出す」というセリフ。これは『ジョジョの奇妙な冒険 未来への遺産』という格闘ゲームが初出であり、原作では「時は動き出す」のみでした。

 しかし、第9部 『The JOJOLands』予告のキャッチコピーでは、「そして時は動き出す」というセリフが逆輸入される形で使われました。原作を重んじるならば「時は動き出す」を使うべきですが、「そして」をつけるほうが語呂がよく言葉に重みが出るように感じます。

 そのため、ファンの間でも「そして時は動き出す」のほうがよく使われるようになったのでしょう。それがついに逆輸入されたことでジョジョファンは盛り上がり、このセリフが原作でも登場することが期待されています。

 というのも『ジョジョの奇妙な冒険』の歴代のボスキャラは、ディオをはじめディアボロ、エリンコ・プッチなど時を操る能力を有していることが多いです。第9部 『The JOJOLands』でも、同じような能力を持つスタンド使いが登場する可能性は十分あるでしょう。

 また、承太郎やディオの「時よ止まれ」、時を消し飛ばすディアボロの「時よ再始動しろ」、時を加速させるエンリコ・プッチの「時よ加速させろ」といった能力を発動するときの決めセリフも多いです。

 その中でも「そして時は動き出す」がファンに圧倒的に親しまれているのは、第3部で初めて導入されたスタンドによるバトルのインパクトが強かったことも影響しているのでしょう。

◆スペシャルウィークにケチなイメージがついた?

 スペシャルウィークが吐き捨てるように放つ「あげません!」というセリフは、鬼気迫る表情のインパクトもあってネットミームとして瞬く間に広まりました。しかし、これはアニメ『ウマ娘 プリティーダービー』でのトウカテイオーの妄想であり、本物のスペシャルウィークが言ったセリフではありません。

 アニメを視聴しておらずミームだけを目にした場合、スペシャルウィークにケチというイメージを持つ方もいるでしょう。なにしろこのときの彼女の表情には、そう思わせるだけの必死さと迫力があります。

 ただ、スペシャルウィークが守っているものは人参やお金などではなく、「ありがとう」の文字が入った漫画の吹き出しっぽい物です。ライバルであるメジロマックイーンにだけ、素直に「ありがとう」を言えないトウカイテイオー。

 彼女の妄想の中で1人だけ「ありがとう」をもらえないメジロマックイーンが、困惑しながらスペシャルウィークを見たときの「あげません!」です。実際の彼女は素直で明るい性格なので、そのギャップによるおもしろさもネタにされている要因でしょう。

 そして、その後アプリゲーム『ウマ娘 プリティーダービー』では、★3のトウカイテイオー(ビヨンド・ザホライズン)の新育成イベントに「あげません!」が追加。はちみつパンをかけて勝負することになり、スペシャルウィークが「はちみつパンは──あげません!!」というセリフで導入されます。

 また、この「あげません!」は『ウマ娘 プリティーダービー Season2』の公式LINEスタンプや名言Tシャツなどでも登場。キーホルダーや学習帳にも使われており、完全に公式公認のものとなっています。

 

 ──アニメではキャラクターのセリフがファンの間でネタにされて拡散、注目を集めることも多いです。それが事実と異なる形で広まることもありますが、後に作品に逆輸入されたり公式に商品化されたりすることも。それが実現されたときファンの間には、アニメ放送を観て感想を語り合っていた時間とはまた違う一体感が生まれることになります。

〈文/諫山就〉

《諫山就》

アニメ・漫画・医療・金融に関するWebメディアを中心に、フリーライターとして活動中。かつてはゲームプランナーとして『影牢II -Dark illusion-』などの開発に携わり、エンパワーヘルスケア株式会社にて医療コラムの執筆・構成・ディレクション業務に従事。サッカー・映画・グルメ・お笑いなども得意ジャンルで、現在YouTubeでコントシナリオも執筆中。X(旧Twitter)⇒@z0hJH0VTJP82488

 

※サムネイル画像:Amazonより 『「機動戦士ガンダム ピューリッツァー ーアムロ・レイは極光の彼方へー」(出版社:KADOKAWA)』

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