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 日本では漫画やアニメで得た知識が、常識として世間に定着してしまうことがあります。しかし、あくまでフィクションの世界のため、その中には実際と違っていたりリアルには存在しなかったりする設定や演出も多いです。ネットのない時代は今のように簡単に調べられなかったため多くの日本人が信じてしまい、人気漫画作品による勘違い現象が生まれました。

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◆『名探偵コナン』の便利道具である麻酔針

 『名探偵コナン』において腕時計型の麻酔銃で毛利小五郎や鈴木園子が一瞬にして眠り、事件が解決したころに何事もなかったように目を覚ます流れはお決まりのシーンとなっています。しかし、実際は麻酔の効果が出るまでに時間がかかるうえ、使用量を間違えると死んでしまうこともある危険なものです。

 ドラマや漫画ではクロロフォルムやみぞおちへの攻撃、首の後ろに手刀を当てるいわゆる首トンなど人を簡単に気絶させられる方法が多く存在します。しかし、現実では人を気絶させることは簡単ではありません。

 たまにスポーツなどで脳震盪を起こすシーンを見ることはあっても、意識混濁状態がほとんどで意識を消失することはまれでしょう。『名探偵コナン』で用いられるような麻酔銃も同じで、通常は刺さったからといってすぐに眠るわけではありません。

 毛利小五郎のリアクションからあっさり眠ってしまうイメージが定着しましたが、あれが本当であれば最近人里への出没が増えて問題になっている熊を麻酔銃で眠らせることも簡単です。

 実際は麻酔針が刺さってもしばらくは活動できるうえ、麻酔銃の飛距離は猟銃より短いため大きな危険がともないます。かといって、麻酔量を多くしすぎれば眠ったまま二度と起きない事態になりかねません。

 『名探偵コナン』の麻酔描写をリアルに描いてしまったら、最大の見せ場であるコナンの推理の邪魔になるだけです。しかし、黒の組織にバレないように事件を解決するには眠りの小五郎の存在は重要であり、作品のおもしろさを優先するために麻酔銃の演出については簡略化しているということでしょう。

 熊問題への関心の高まりもあって、今では麻酔銃についての正しい知識も広く知られるようになりました。しかし、いまだに麻酔銃で眠らせることをイージーな行為だと思っている人も一定数いるようです。

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◆『ルパン三世』の銭形警部が所属するICPO

 ICPO(インターポール)の銭形警部が「ルパン、逮捕だ~」と叫びながら追いかけるシーンは、『ルパン三世』では定番です。しかし、実際のICPOの役割は情報伝達ルートとなって各国の警察の連携を図るもので、職員に容疑者を逮捕する権限も警部という階級も存在しません。

 ICPOはフランスのリヨンに本部があり、2017年時点で世界で195の国と地域が加盟する世界最大の警察機構です。犯罪のデータをまとめたり手配情報を出したりといった情報処理関連をはじめ、テロや組織犯罪などの捜査やサイバー犯罪の捜査協力などを行っています。

 今ではネットで簡単に調べられますが、かつてはICPOといえば『ルパン三世』の銭形警部が所属する組織という程度しか知らない人も多かったです。日本人にとってICPOは身近な存在ではなく、警察や弁護士のようにドラマで頻繁に取り上げられることもありません。

 そのため、ICPOは国際的な指名手配犯を捜査、逮捕する組織と勘違いが生まれてしまいました。『ルパン三世』好きであればあるほど、ICPOの職員は犯罪者を逮捕しないことを知ったときの衝撃は大きかったのかもしれません。

 ただ、ドラマでは犯罪現場で証拠を集めて分析する鑑識官が犯人を追っかけたり、逮捕したりするフィクション設定になっている場合も珍しくありません。世界中で盗みを働くルパンを逮捕する専門の捜査官という意味では、世界最大の警察機構であるICPO所属という肩書きがちょうどよかったのだと考えられます。

◆『魁!! 男塾』で有名になった出版社「民名書房」

 『魁!! 男塾』では「民明書房」の本からの引用という形で、拳法や戦闘様式など数多くの知識が披露されています。このため、多くの読者が「民明書房」という出版社が本当にあると思い込み、引用されているネタ知識を信じてしまう勘違いが生まれました。

 漫画で引用元が記載される場合、実際にある書籍からというのが当たり前だったため「民明書房」の存在を信じてしまう人が多かったのは必然だったのかもしれません。それにともなって、記載されている内容もネタ知識まで信じてしまう読者も出て来てしまいます。

 その中でも特に有名なものが、民明書房刊『スポーツ起源異聞』より引用された纏劾狙振弾(てんがいそしんだん)という武術がゴルフの起源であるというネタになります。纏劾狙振弾は男塾三面拳の一人、月光が見せた棍法術最強の流派として名高いチャク家流に伝わる最大奥義です。

 特殊な棍で地面に置いた小さな鉄球を飛ばして敵を攻撃するというもので、その動きはまさにゴルフのスイングそのもの。ネットがない時代ですから、本当にゴルフの起源がこの武術であると信じてしまった人も多かったです。

 このほかにも民明書房はネタなのか本当なのか分からない絶妙なラインを攻めて、スポーツや歴史などまことしやかに解説していました。ただ、作中の設定では「民明書房」の創始者である大河内民明丸は大ボラ吹きで、男塾のメンバー以外からはインチキ出版社として認識されている模様です。

 つまり、作中の一般人の間で「民明書房」はフェイクニュースばかりを発信する出版社だったということです。それなのにリアルの世界では、マニアックな知識を正しく伝える出版社として信じる人が増えてしまうというおもしろい現象が起きていたことなります。

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◆『ミスター味っ子』で広まったパスタの茹で加減

 『ミスター味っ子』の第2話「スパゲティはアル・デンテ」は、パスタの中心に髪の毛1本の芯を残して茹で上げるアル・デンテの重要性がフィーチャーされた話となっています。

 本来アル・デンテはパスタをソースに絡めるための加熱時間で火が通り過ぎないようにするための茹で方です。しかし、味皇料理会イタリア料理部主任の丸井善男が「スパゲティにはある程度の歯ごたえが要求されます」とアル・デンテを一番最高の茹で加減と紹介したため、本場イタリアのパスタは固茹でであるという知識が日本人に広まりました。

 日本人よりパスタが身近であるイタリアではお店や家庭で茹で加減が異なり、日本のパスタは硬すぎると感じるイタリア人もいるそうです。ただ、乾麺を使うことが多い南イタリアは硬めのアル・デンテが多く、生パスタが主流の北イタリアではそもそもアル・デンテという概念が薄い傾向があるとのこと。

 日本でもうどんのコシやラーメンの麺の硬さには好みや地域差がありますから、一概にどの茹で加減が正しいなんていえないのと同じでしょう。ただ、いまやすっかり全国区となった讃岐うどんは、強いコシと弾力のある食感が特徴です。

 また、ラーメンにはバリカタやハリガネといった芯を残す茹で方があります。さらには粉を落とす程度でお湯から引き上げる粉落とし、生麺を湯気に当てるだけの湯気通しもあるほどです。

 つまり、日本人には固茹で麺を好きな人も多く、パスタもアル・デンテの茹で加減が好みに合っていたことで爆発的に広がったという側面もあると考えられます。

 『ミスター味っ子』で紹介されていなくても、いずれパスタも日本人好みに合わせてアル・デンテの茹で方が全国に広まっていた能性も十分あるでしょう。

 

 ──日本人にとって漫画の影響力は強く、好きな作品に書かれたことを鵜呑みにしてしまうことはよくありました。それによって大きな勘違いが全国的に広まって常識になってしまう現象が生じるのは、それだけ日本人の生活に漫画が浸透しているということでしょう。しかし、ネットが発達した現代ではすぐに真実に到達できるため、もはや失われつつある「漫画あるある」といえるのかもしれません。

〈文/諫山就〉

《諫山就》

アニメ・漫画・医療・金融に関するWebメディアを中心に、フリーライターとして活動中。かつてはゲームプランナーとして『影牢II -Dark illusion-』などの開発に携わり、エンパワーヘルスケア株式会社にて医療コラムの執筆・構成・ディレクション業務に従事。サッカー・映画・グルメ・お笑いなども得意ジャンルで、現在YouTubeでコントシナリオも執筆中。X(旧Twitter)⇒@z0hJH0VTJP82488

 

※サムネイル画像:Amazonより 『「魁!! 男塾」第1巻(出版社:サード・ライン)』

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