※この記事には複数の作品のネタバレが含まれます。ご注意ください。
「悟空にやられて死ぬはずだったのに生かしてやったんだぞ!」──作者の鳥山明先生自身がそう打ち明けたキャラクターが、『ドラゴンボール』のベジータ。あの強烈なヘアスタイルのサイヤ人王子は、本来であれば物語の早い段階で退場する設計だったといいます。読者投票で運命が変わったキャラは、彼だけではありません。
◆退場予定だった王子、人気投票が運命を変える
『ドラゴンボール』の中で、最も劇的に立ち位置が変わったのがベジータでした。地球襲来のラスボス格として登場した彼ですが、構想段階では早々に命を落とす予定だったとされています。
その経緯が明かされたのは、『30th Anniversary ドラゴンボール超史集 ―SUPER HISTORY BOOK―』(出版社:集英社、2016年1月出版)に収録された描き下ろし漫画。作中に鳥山先生、悟空、ベジータ、フリーザが登場し、舞台裏が語られる構成になっています。
鳥山先生から「悟空にやられて死ぬはずだったのに生かしてやった」と告げられたベジータは、「ほう…それはこのオレが予想外に人気だったので読者が怖くて退場させられなくなったと聞いたけどな…(※コンプライアンスに抵触する発言のため一部改変)」と切り返す。さらに鳥山先生は、ベジータの代役として急遽“やられ役”を担うために生まれたのがフリーザだったと明かし、ベジータの人気については「だってそんな変なヘアスタイルのヤツが人気になるって思わないじゃん」とコメント。軽妙な掛け合いの中で、生死がアンケート結果に左右された事実が浮き彫りになりました。
その人気は数字にも表れています。第1回キャラクター人気投票(『週刊少年ジャンプ』1993年12号)では4位、続く連載10周年・500回記念の投票(同誌1995年5・6号)では2位を獲得。投票のたびに上位に食い込み、不動の人気を確立していきました。
◆一度きりのゲストが、まさかのヒロインに昇格
『地獄先生ぬ~べ~』の雪女・ゆきめも、当初の設計図には載っていなかった一人。物語の序盤では、童守小のマドンナである高橋律子こそがヒロインの本命と目されていました。ところが連載が進むにつれ、ゆきめの存在感がじわじわと増していくことになります。
舞台裏が語られたのは、『ジャンプ+α』(『少年ジャンプ+』オリジナルコミックエッセイ・ブログ記事)に掲載された「地獄先生ぬ~べ~30周年記念インタビュー」。原作担当の真倉翔先生によれば、男女問わず支持を集めたゆきめは、もともと一度限りのゲストキャラとして設計されたキャラだったといいます。
転機は原作第30話「なごり雪-季節はずれの雪女の巻」。この回をきっかけに人気に火がつき、再登場が決定。真倉先生としてはヒロインに据える気はまったくなかったそうですが、流れに押される形で物語の中心へ。最終的には主人公・ぬ~べ~と結婚するまでに上り詰めました。
支持はアニメ版でも揺るぎません。Blu-ray BOX発売を記念して行われたエピソード総選挙では、ゆきめの初登場回「スクープ! ぬ~べ~が雪女と婚約!?」が堂々の1位を獲得。読者の声が一人のキャラクターの運命を根底から変えた、象徴的な事例といえます。
◆「こんなやつが何で人気出るのか全然わからなかった……」 岸本斉史先生も首をひねった人気
『NARUTO -ナルト-』のうずまきナルトたち第七班を率いる上忍・はたけカカシ。シリーズを代表する人気キャラの一人ですが、その圧倒的な支持は作者の岸本斉史先生にとって、長らく腑に落ちないものだったようです。
先生本人の発言が飛び出したのは、漫画専門番組『漫道コバヤシ』第13回「NARUTO完結!岸本斉史SP」。「カカシの人気には予感があったか」と問われ、岸本先生は「全然なかった。こんなやつが何で人気出るのか全然わからなかったです」と、自身の想定を完全に超えていたと吐露。逆に、人気が出ると見込んで描いていたサイや春野サクラについては、思ったほど反応が伸びなかったと振り返っています。
数字で見ると、その差は歴然。カカシは第1回(コミックス第7巻掲載)と第3回(『週刊少年ジャンプ』2003年5号掲載)のキャラクター人気投票で1位を獲得。アニメ20周年を記念した「NARUTOP99」(『NARUTO OFFICIAL SITE』)でも、全488キャラクターの中で5位に食い込みました。作者の予想を裏切る形で、不動のトップ層に躍り出たキャラクターです。
◆「10週もつかどうか」 脇役が背負った作品の屋台骨
『はじめの一歩』の主人公・幕之内一歩にとって生涯のライバルとなる宮田一郎。鷹村守に連れられて鴨川ボクシングジムを訪れた一歩のスパーリング相手として登場した彼ですが、作者の森川ジョージ先生によれば、当初は数話で姿を消す“通行人”に近い立ち位置だったといいます。
詳細が語られたのは、『漫道コバヤシ』第60回「祝!『はじめの一歩』30周年!森川ジョージSP 1983-1995 前編」。「宮田が生涯のライバルだと最初から決めていたのか」という問いに、森川先生は「決めていなかった」と回答しています。
背景にあったのは、連載スタート時の事情。『はじめの一歩』はスタッフから「10週だけお付き合いください」と告げられて幕を開けた作品で、宮田もそのままフェードアウトするジムメイトにすぎなかったというのです。
ところが、低迷していた人気アンケートがV字回復を果たした際、その立役者が宮田だったと判明。これを察知した森川先生は方針を切り替え、宮田を徹底的に描き込んでいくことを決意します。脇役で終わるはずの存在が、作品を支える柱へと姿を変えた瞬間でした。
──退場するはずだったサイヤ人王子、一度きりの予定だった雪女、作者自身が首をかしげた天才忍者、10週で消えるはずだったボクサー。4人に共通するのは、読者の声を浴びて輪郭を変えていったキャラクターだということ。
人気投票のハガキも、アンケートの一票も、エピソード総選挙の結果も、形は違えど積み重なって設定を書き換え、物語の行き先を変えてきました。手の中のページで生き残ったキャラクターは、読者自身の熱量が引き寄せた存在でもあるのかもしれません。
〈文/最上明夫 編集/相模玲司〉
《最上明夫》
アニメ・漫画・特撮・映画など、幅広いエンタメ作品に関心を持つライター。作品内の設定やキャラクター描写、物語構成を丁寧に読み解き、読者が作品をより深く楽しめる記事制作を心がけている。アニギャラ☆REWでは、アニメ・漫画を中心とした考察・解説コラムを担当している。
※サムネイル画像:バンプレストナビサイトより 『「ドラゴンボールZ MATCH MAKERS ベジータ(VSザーボン)」 (発売元:BANDAI SPIRITS バンプレストブランド) (C)バードスタジオ/集英社・東映アニメーション』


