アニメではおなじみのキャラクターでも、原作を読み返すと姿が見当たらないことがあります。『らんま1/2』のリンリンとランラン、『こち亀』の婦警コンビ、『名探偵コナン』の高木刑事、そして『ドラゴンボール』のバーダック。作品の世界に自然となじんでいる彼らは、実はアニメから生まれた存在でした。原作との違いや、後に本編へ影響を与えた例をたどると、アニメオリジナルキャラクターの面白さが見えてきます。
◆『らんま1/2』シャンプーを慕う双子は原作にいなかった?
アニメ『らんま1/2 熱闘編』で、シャンプーを“姉御”と慕っていた双子のリンリンとランラン。桃色髪のリンリンと青髪のランランは、アニメを見ていた人には印象に残りやすい存在ですが、原作漫画には登場しないアニメオリジナルキャラクターです。
やや紛らわしいのが、原作にも二人によく似た双子がいる点です。コミックス第29巻「悲劇の種子」に登場する玭珂(ピンク)と琳珂(リンク)は、お団子ヘアの双子という共通点があります。ただし、二人はシャンプーを慕うどころか、過去の因縁から彼女を恨む立場にあり、リンリンとランランとは役回りが大きく異なります。
アニメでリンリンとランランが初登場したのは、1990年8月放送の第58話「暴れん坊娘 リンリンランラン」。一方、原作のピンクとリンクが登場したのは1994年7月発売のコミックス第29巻です。時期だけを見ればアニメ側の双子が先ですが、原作キャラクターとの関係性については明確に語られていません。いずれにせよ、アニメ版ならではのにぎやかさを支えたキャラクターだったといえるでしょう。
◆『こち亀』小町と奈緒子はなぜ原作にいないのか
アニメ『こちら葛飾区亀有公園前派出所』(『こち亀』)で、両津勘吉とたびたび対立していた婦警コンビといえば、小野小町と清正奈緒子です。アニメ第1話から登場し、メイン回も作られるほど存在感のある二人ですが、原作には一切登場しません。
原作で両津の天敵として描かれていた婦警には、コミックス第85巻「ザリガニ合戦!?の巻」で初登場した早乙女リカがいます。警察官でありながらプリクラ機を無断で持ち出すなど、両津に負けないほど強烈なキャラクターでした。ただし、リカがアニメに登場したのは1998年1月放送の第68話「対決!美女一本釣り」からです。
そのため、小町と奈緒子は、アニメ版で両津に対抗する女性警官ポジションを担うために生まれた存在だったのかもしれません。
なお、原作コミックス第29巻「洋子の春!の巻」には、同じ表記の小野小町という婦警が登場しますが、読みは「おののこまち」で、元女子プロレスラーという設定も容姿も異なります。アニメの小町とは別キャラクターとして見るのが自然です。
◆モブ警官からレギュラーへ 『名探偵コナン』高木刑事の大出世
『名探偵コナン』の高木刑事は、今では警視庁捜査一課に欠かせないレギュラーキャラクターです。しかし、もともとは原作発ではなく、アニメから存在感を増していったキャラクターでした。
高木刑事の原型となる警官が初めて登場したのは、1996年6月放送のアニメ第21話「TVドラマロケ殺人事件」です。この時点では名前のないモブキャラクターでした。役名が定着するきっかけは、1997年7月放送のアニメ第66話「暗闇の道殺人事件」だとされています。
この経緯については、劇場版『名探偵コナン ハロウィンの花嫁』の完成披露宴舞台挨拶で、高木刑事役の声優・高木渉さん本人が語っています。高木さんは少年探偵団の小嶋元太役も担当しており、元太の出番がない場面で“警官A”を兼ね役として演じることがありました。そこでセリフにアドリブで「高木です」と入れたところ、そのまま名前として採用されたそうです。
その後、高木刑事はコミックス第18巻「同じはずなのに…」で原作へ逆輸入されました。アニメのモブから始まり、原作にも登場する主要キャラクターへと成長した、珍しい出世例といえるでしょう。
◆悟空の父・バーダックもアニメ発 原作へ逆輸入された存在
『ドラゴンボール』で孫悟空の父として知られるバーダックも、出発点はアニメオリジナルでした。初登場は、1990年10月放送のテレビスペシャル『ドラゴンボールZ たったひとりの最終決戦〜フリーザに挑んだZ戦士 孫悟空の父〜』です。
原作では、コミックス第17巻「カカロット」でラディッツが悟空に対し「父親にそっくりだ」と語る場面はありますが、この時点で父親の姿は描かれていません。バーダックというキャラクターが具体的に描かれたのは、テレビスペシャルが初めてでした。
『DRAGON BALL 大全集』第6巻(出版社:集英社、1995年12月出版)によると、当時の放送は作者の鳥山明先生も視聴しており、その完成度に強く感激したとされています。その後、コミックス第26巻「超決戦の火ブタ切る!!」では、フリーザの回想場面にバーダックが登場。アニメ発のキャラクターが原作へ逆輸入された、非常に大きな例となりました。
同じく原作には登場しないものの、ブロリーやグレゴリーなどもアニメから生まれ、長くファンの記憶に残る存在になっています。アニメオリジナルだからといって、本編に劣るとは限らないことを示す好例でしょう。
──原作には存在しなかったキャラクターでも、アニメの中で自然に受け入れられ、作品の印象を支える存在になることがあります。リンリンとランラン、小町と奈緒子のようにアニメ版を彩ったキャラクターもいれば、高木刑事やバーダックのように、後に原作やシリーズ全体へ大きな影響を与えた存在もいます。
アニメオリジナルキャラクターは、原作ファンにとって賛否が分かれることもあります。それでも、長く語られるキャラクターが生まれたとき、そこにはアニメならではの解釈や工夫が確かに残ります。原作とアニメの違いを見比べると、作品を楽しむ視点も少し広がるのではないでしょうか。
〈文/秋山緑〉
《秋山緑》
アニメ・漫画・ゲームを中心に、エンタメ領域の記事制作に携わるライター。話題作から長年愛される名作まで幅広く扱い、作品の魅力やキャラクターの関係性、印象的なシーンを読者目線でわかりやすく伝える記事制作を得意とする。アニギャラ☆REWでは、アニメ・漫画作品のコラムや解説記事を担当している。
※サムネイル画像:Amazonより 『DVD「らんま1/2 TVシリーズ完全収録版」第1巻(販売元:ポニーキャニオン)』


