※本記事には複数の作品のネタバレが含まれます。ご注意ください。
普段はだらしなく見えるキャラほど、ここぞという場面で見せる頼もしさが強く残るものです。お調子者、無気力、臆病、不真面目──そんな印象を持たれがちな人物でも、大切な人や仲間のためなら一気に表情が変わります。
◆毛利小五郎はなぜコナンより先に真相へ? 妻への思いが冴えた名推理
『名探偵コナン』の毛利小五郎は、普段は女性に弱く、お酒好きで、的外れな推理を披露することも多い人物です。そのため、事件の解決場面ではコナンが小五郎を眠らせ、「眠りの小五郎」として真相を語る流れが定番になっています。
ところが、映画『名探偵コナン 水平線上の陰謀』では、その印象を大きく覆す場面が描かれました。小五郎はコナンより先に真犯人へたどり着き、自分自身の推理で事件の核心を見抜いたのです。
きっかけになったのは、真犯人が別居中の妻・妃英理に似ていたことでした。小五郎は、妻に似た人物が犯人であるはずがないと証明しようとして証拠を集めます。しかし調べるほど疑念は深まり、最終的にはその人物こそが真犯人だと気づきます。
妃英理からは「グズで不潔で女たらしで飲んだくれでいいかげんな男」と評される小五郎ですが、妻への思いだけは本物でした。普段は頼りなく見えるからこそ、愛する人に関わる場面で見せた鋭さが、より強く印象に残ります。
◆坂田銀時はなぜ“だらしない主人公”でも愛されるのか 最後に曲げない信念
『銀魂』の坂田銀時は、普段だけを見れば『週刊少年ジャンプ』の主人公らしからぬ人物に見えるかもしれません。無気力で、だらだら過ごし、酒癖や発言の危うさもあり、作中では「死んだ魚のような目」と言われることもあります。
「マダオ」や「ニート侍」と呼ばれるようなゆるさも、銀時の大きな特徴です。しかし彼は、本当に守るべきものを前にしたとき、普段の姿からは想像できないほど頼もしい表情を見せます。
たとえば、かぶき町四天王篇では、恩人であるお登勢が次郎長に傷つけられました。そのときの銀時は、いつもの力の抜けた様子とは別人のように怒りをあらわにし、次郎長へ斬りかかります。
また、攘夷戦争中に追い込まれた場面でも、「美しく最後を飾りつける暇があるなら最後まで美しく生きようじゃねーか」と語り、諦めない生き方を示しました。
ふざけているようで、仲間への情と自分の信念だけは決して曲げない。その落差があるからこそ、銀時は何回も行われた公式キャラクター人気投票で1位を獲得し続けたのでしょう。
◆我妻善逸は本当に臆病なだけなのか 眠って強い男が起きて守ったもの
『鬼滅の刃』の我妻善逸は、怖がりで泣き虫な姿が目立つキャラクターです。鬼を前にすると取り乱し、逃げ腰になることも少なくありません。普段の言動だけを見ると、とても頼れる戦士には見えない場面もあります。
しかし、恐怖と緊張が限界に達して眠りに落ちると、善逸は一変します。眠った状態では体のこわばりが消え、雷の呼吸を使いこなす剣士としての力を発揮します。
無限列車編では、鬼と化した八両編成の汽車のうち三両を、禰豆子とともに守り抜きました。さらに遊郭編では、「霹靂一閃・神速」によって、上弦の鬼である堕姫の首を斬る場面も描かれています。
ただし、善逸の魅力は眠っているときの強さだけではありません。鼓屋敷では、事情を知らないまま炭治郎の大切な箱を守り、遊郭編では人に化けた堕姫から女の子をかばいました。戦えないほど怖くても、守るべきものの前では踏みとどまる。その勇気こそ、善逸がただの臆病者ではない理由です。
◆ロイ・マスタングはなぜ部下に慕われるのか 軽さの裏にある上司の覚悟
『鋼の錬金術師』のロイ・マスタングは、普段は女好きで軽い人物に見えます。軍部の電話で女性に連絡する場面もあり、仕事に真面目な軍人というより、どこか職務怠慢な印象を与えることもあります。
それでも、ロイが仲間や部下から慕われるのは、いざというときに決して見捨てない人物だからです。親友のヒューズがエンヴィーに命を奪われたとき、ロイは葬儀のあとに「いかん 雨が降って来たな」と言い、涙を隠そうとしました。
その後、エンヴィーと対峙した場面では、普段の余裕ある態度からは想像できない怒りを見せます。仲間を奪われた悲しみと怒りが、彼の炎をより鋭くしていました。
部下のハボックが重傷を負って歩けなくなったときにも、ロイは「上で待っているぞ」と声をかけます。その言葉はハボックの気力を取り戻させ、終盤では武器や弾薬を届ける大きな働きにつながりました。
軽く見える態度の奥に、部下を信じて待つ覚悟がある。だからこそ、ロイは理想の上司として語られ続けるのでしょう。
──毛利小五郎、坂田銀時、我妻善逸、ロイ・マスタングは、普段だけを切り取ると頼りなく見える部分があります。しかし、いざという場面では大切な人や仲間を守るために、普段とはまったく違う強さを見せました。
完璧ではないからこそ、決めるべき場面での頼もしさがより際立ちます。だらしなさや臆病さ、不真面目さに見える部分も、物語の中ではギャップを生む大切な要素なのかもしれません。ふだんの姿を知っているからこそ、彼らが本気になった瞬間に、読者や視聴者は思わず引き込まれてしまうのでしょう。
〈文/最上明夫 編集/相模玲司〉
《最上明夫》
アニメ・漫画・特撮・映画など、幅広いエンタメ作品に関心を持つライター。作品内の設定やキャラクター描写、物語構成を丁寧に読み解き、読者が作品をより深く楽しめる記事制作を心がけている。アニギャラ☆REWでは、アニメ・漫画を中心とした考察・解説コラムを担当している。
※禰豆子の「禰」は「ネ+爾」が正しい表記となります。
※サムネイル画像:Amazonより 『「名探偵コナンセレクション (毛利小五郎編)」 (出版社:小学館)』


