秋季の新作TVアニメも続々と始まり、毎シーズンTVアニメを追っている人も今季はなにを観ようか決まってきた頃ではないでしょうか。
そんなタイミングだからこそ、ぜひともまだスタート間もないこの時期に、まだチェックしていなければ観てほしいアニメがあります。今季から始まったTVアニメ『アオのハコ』です。
この『アオのハコ』、思わぬダークホースぶりを見せる仕上がりとなっていたのです。
◆こう見えて『ジャンプ』アニメ 漫画からアニメへ表現を移して変わったことは!?
『アオのハコ』は、もともと三浦糀先生によって『週刊少年ジャンプ』で連載中の漫画です。
昨今『ジャンプ』作品といえば、バトル要素やファンタジー要素などが特徴的な作品が多いですが、この漫画は現代を舞台にした直球な青春恋愛ストーリーです。
主人公は男子バドミントン部所属の高校一年生・猪股大喜。大喜は毎朝自主的な朝練で顔を合わせる一つ上の先輩である女子バスケットボール部のエースである鹿野千夏に好意を抱いているのですが、1話早々に思わぬ形で二人の関係が急接近することになっていきます。
『ジャンプ』でも大ヒット漫画というだけあり、原作を読んだことがある人やざっくりとしたあらすじを知っているという人も多いでしょう。しかし、そんな原作漫画を知っている人こそぜひ観てほしいのが今回のTVアニメ版です。
原作漫画は線が細く繊細な画風が特徴的ですが、今回のアニメ化においては原作のタッチに寄せるというよりは、今風のトレンドに合わせて原作の印象を損なわないバランス感のキャラクターデザインに落とし込んだうえで、漫画では出せない鮮やかな彩色で原作の物語を再現しています。
作中では場面によって割愛されていた背景なども今回のアニメではしっかり描かれているので、漫画を読んだときとは明確に違った体験となっています。
今回アニメーション制作を務めるのは、『ルパン三世』シリーズや『七つの大罪 黙示録の四騎士』などを手がけたテレコム・アニメーション。監督には『劇場版アイカツ!』などでも知られる矢野雄一郎氏が名を連ねており、十分に仕上がりに期待のできる布陣となっています。
◆上田麗奈さんが具現化する千夏というヒロイン
<画像引用元:https://aonohako-anime.com/より ©三浦糀/集英社・「アオのハコ」製作委員会>
ビジュアル的な部分でももちろん驚きのあったアニメ版でしたが、輪をかけて新たな印象を受けたのが上田麗奈さん演じる鹿野千夏の存在感です。
千夏という人物はバスケットボールの技術が優れているだけでなく、親切で人柄も良く、感情豊かで前向き。これでもかというヒロイン像を持ったキャラクターであり、2023年に行われたキャラクターの人気投票企画では、2位の雛の3万票にダブルスコアの大差をつける7万票で1位に選ばれたキャラクターです。
そんな「理想像」を絵にしたようなキャラクターということもあり、どこか非実在的な印象も受けるキャラクターだったのですが、今回のアニメ化により“声”という今までなかった要素が加わったことでグッと実在感が増し、たちまち千夏というキャラクターの存在がはっきりと見える体験となっていました。
上田麗奈さんといえば『SSSS.GRIDMAN』の新条アカネ役や『鬼滅の刃』の栗花落カナヲ役で知られる声優ですが、『アオのハコ』の千夏が今後の新たな代表作になるであろうことを確信させる活躍を早々から見せてくれました。
◆美麗なオープニング映像! 制作はまさかのあのアニメーション監督!
極めつけはオープニング映像の美しさです。
昨今、放送に合わせてノンクレジット映像が配信されることも定番になってきており、アニメーションを観てもらうきっかけとして重要なフックになっていますが、『アオのハコ』もしっかり惹きつける映像となっています。
リアルな背景描写は言わずもがな、リッチで鮮明な映像がどんどん切り替わっていくかと思えば、大喜のバドミントン描写が迫力のあるカメラワークで描かれます。煌びやかな撮影処理がそのまま青春の輝きとして映る見事なオープニング映像となっていました。
実はこのアニメの絵コンテや演出を担当しているのは『進撃の巨人』や『甲鉄城のカバネリ』、『バブル』などでも監督を務めた荒木哲郎氏。最近は『SPY×FAMILY』第2クールのオープニングや『僕の心のヤバイやつ』第2期のオープニングなども手がけており、すっかり“主題歌映像職人”としても活躍している御方ですが、今回も見事なお仕事を見せてくれました。
──ド派手な必殺技だとか熾烈なバトル要素もない作品ではありながら、そういったジャンプ漫画と並んで支持された人間模様や淡い体験を極上の映像で見せててくれる今回のアニメ版『アオのハコ』。まだまだ物語は始まったばかりなので、観ていないという人も配信などでぜひ本作を追いかけてほしいです。
〈文/ネジムラ89〉
《ネジムラ89》
アニメ映画ライター。『FILMAGA』、『めるも』、『リアルサウンド映画部』、『映画ひとっとび』、『ムービーナーズ』など現在複数のメディア媒体でアニメーション映画を中心とした話題を発信中。映画『ミューン 月の守護者の伝説』や映画『ユニコーン・ウォーズ』のパンフレットにライナーノーツを寄稿するなどその活動は多岐にわたる。noteでは『アニメ映画ラブレターマガジン』を配信中。Twitter⇒@nejimakikoibumi