今の時季、大ヒットが上映前から確実というぐらいに劇場版『名探偵コナン』シリーズは公開初日から劇場側が相当数の上映回数を割いています。本来、ほかの映画は興行的に同時期の公開を避けたがるものですが、ここに真っ向から勝負を挑んだ作品があります。それが劇場版『僕とロボコ』。

 『週刊少年ジャンプ』のギャグ漫画を原作とした本作は、わずか3分のアニメシリーズからいきなり長編へとステップアップを果たした作品ですが、ただたんに公開の時期をぶつけてきただけでなく、“ロボコらしい”挑戦に富んだ映画となっていました。

◆同日公開の『コナン』に乗っかれ! 逆に宣伝に加担する劇場版『僕とロボコ』

 前述の通り、劇場版『僕とロボコ』は劇場版『名探偵コナン 隻眼の残像(フラッシュバック)』と同じ4月18日に劇場公開されました。公開時期が近いどころかまったく同じタイミングでの公開ということで、かなり挑戦的。しかし、本作のさらにすごい点はそれを前面的にアピールしていく点にあります。

 というのも、決して挑発的な意味ではなく予告編の時点ではっきりと作品名は明言しないながらもロボコが『名探偵コナン』と公開時期が重なってしまっていることを嘆く姿が登場するといったギャグ作品らしい自虐的なネタにしています。

 この姿勢は予告編だけでなく『僕とロボコ』の公式X(旧Twitter)の投稿でも健在です。

 本来、公開初日は映画としては大事な宣伝のタイミングですが、『僕とロボコ』の公式アカウントではなんと、自身の作品に先行して劇場版『名探偵コナン 隻眼の残像(フラッシュバック)』を観にいっている様子がアップされます。しかも一緒に投稿された写真をよく見ると、完売も続出していた公開日0時開始の最速上映に観にいっているという点などツッコミどころ満載。『コナン』と上映時期が一緒という点を逆手にとった『ロボコ』らしい映画の宣伝の仕方となっていました。

 ちなみに原作漫画『僕とロボコ』の映画公開時点での最新刊にあたる4月4日に発売されたばかりの21巻も、『名探偵コナン』作品を思いっきりパロディしたデザインとなっています。

 『ロボコ』のコミックスは、ほかの漫画作品のデザインのパロディをするのが恒例となっているのですが、基本的には同じ出版元である集英社作品が選出される中、小学館発の『名探偵コナン』が採用されるのは珍しい例です。競合として争うといった形でなく、ロボコらしく“乗っかって仲良く興行を行う”へ振り切っているところがさすがです。

◆『ジャンプ』作品だからこそのパロディギャグ! 映画独自のアレンジも?

 もちろんひたすらに『名探偵コナン』に乗っかるだけではなく、本家本元の集英社作品、とりわけ掲載元である『週刊少年ジャンプ』ネタが映画の細部に盛りだくさんとなっています。

 そもそも今回の映画の原作エピソードにあたる第157話からなる「マルチバースとロボコ」はいろんな世界線のロボコが現れるというギャグが展開されるエピソード。『ONE PIECE』のルフィや『北斗の拳』のケンシロウといったキャラクターを思わせる風貌のロボコが登場するというギャグを前面的に押し出した内容です。

 ただしそういった原作の要素だけでなく、アニメ映画版独自の追加要素やアレンジにも富んでいるところも注目点です。

 映画が始まってまもなく、『ONE PIECE FILM RED』や『劇場版 呪術廻戦 0』、『劇場版 SPY×FAMILY CODE:White』といった『ジャンプ系』の近年のヒット映画のシーンを続々とロボコが演じるというパロディが登場。

 ルフィ風である王道バトルの世界線のロボコに対しても「200億様」と呼びかけたりと、発行部数で呼びかけていた原作から映画ならではのアレンジを施すなど、しっかり映画ならではのギャグに変更しているのも細かいです。

 本編の中だけでなく、その徹底したパロディは入場者プレゼントにも表れています。劇場入場者プレゼント第1弾である「僕とロボコ第零巻」のデザインは、入場者プレゼントで小冊子を配布するブームを起こした作品である2009年公開の『ONE PIECE FILM STRONG WORLD』の入場者プレゼント「ONE PIECE 巻零」のデザインを踏襲したもの。ふざけているようで、むしろここまでやるかというディテールに至るまで“『ロボコ』らしい”パロディギャグにあふれているのはさすがです。

 アニメ『僕とロボコ』の監督を務める大地丙太郎監督といえば、ギャグアニメも多数手がけてきた方です。中でも代表作の一つである『おじゃる丸』はたびたび攻めたパロディギャグが盛り込まれてきました。そういった点でも、しかるべくして今回の映画が生まれたのだと思い知るところです。

 『僕とロボコ』が現役パロディギャグ作品のトップランナーであることをはっきりと見せつけてくれる、そんな“普通じゃない”映画でした。

〈文/ネジムラ89〉

《ネジムラ89》

アニメ映画ライター。『FILMAGA』、『めるも』、『リアルサウンド映画部』、『映画ひとっとび』、『ムービーナーズ』など現在複数のメディア媒体でアニメーション映画を中心とした話題を発信中。映画『ミューン 月の守護者の伝説』や映画『ユニコーン・ウォーズ』のパンフレットにライナーノーツを寄稿するなどその活動は多岐にわたる。noteでは『アニメ映画ラブレターマガジン』を配信中。X(旧Twitter)⇒@nejimakikoibumi

 

※サムネイル画像:https://boku-to-roboco.com/より


劇場版『僕とロボコ』公式サイト
©宮崎周平/集英社・劇場版「僕とロボコ」製作委員会

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