『キャプテン翼』ではシュートのときに必要以上に脚を振り上げたり、GKが片手で強烈なシュートをキャッチしたり、リアルのサッカーではありえない演出が見られます。しかし、それがあるからこそ、選手やプレイのすごさが伝わってくるといえるでしょう。

 次の4つ要素は『キャプテン翼』で繰り広げられるサッカーの魅力を高めるために、欠かせないものとなっています。

◆足を上げる高さ、長さでシュート威力が増す演出

 超強力なシュートを打つとき、蹴り脚を振り上げる高さ、その時間によって威力のすさまじさを表現しています。

 リアルのサッカーでは、いかにコンパクトに振り切るかが大切であり、シュートまでそんなに時間を使っていたらボールを奪われるだけです。しかし、『キャプテン翼』では、この演出によって読者にシュートのすさまじさを伝えています。

 また、ボールを蹴るときのシュート演出も見どころです。

 足を振り上げている時間と同じように、ボールを蹴るインパクトの瞬間が長ければ長いほど、ボールにパワーが加わって威力が増すように見せられています。動きの表現方法が限られる漫画だからこそ生まれた技法ですが、これらの演出はアニメにも引き継がれて迫力あるシュートシーンを生む要因になっているといえるでしょう。

◆キャプテン同士の11がチーム全体のメンタルに影響

 フランスジュニアユースとの対戦では、大空翼とエル・シド・ピエール両エースの11の対決の勝敗がチームのメンタル状態に大きな影響を及ぼしました。

 リアルのサッカーであれば、どんな名プレイヤーでもボールを奪われることはよくあるので気にすることはありません。しかし、『キャプテン翼』では11の重要性を際立たせることで、局面でのボールの奪い合いやゲームへの影響など見どころを演出しています。

 これによって11、特にエース同士のボールの奪い合いが白熱。また、それがチーム全体の勢いにも関わって来るため、その後のゲーム展開に大きな影響をおよぼす要素となっています。

 実際のサッカーでは前線からの守備でパスコースやスペースを制限、チームで連携してボールを奪っていくことが大切です。しかし、ドリブルを得意とする攻撃の中心選手が1試合を通じて、相手DFに完璧に封じられたらチーム全体に響くことはあるかもしれません。その心理をより際立たせて利用することで、11の局面をおもしろく描いているといえるでしょう。

◆超人的な握力を持つGKのワンハンドキャッチ

 ドイツユース代表のゴールを守るデューター・ミューラーは、翼のドライブシュート、翼と日向小次郎のドライブタイガーツインシュートも片手でキャッチしました。

 いくらミューラーのように体や手が大きいといっても、リアルのサッカーでワンハンドキャッチするにはボールをはじかないための化け物なみの握力と、シュートの勢いをゼロにする柔らかさがないと実現不可能です。

 リアルのサッカーでは強烈なシュートは、ほとんどパンチングなどではじきます。下手にキャッチに行ってファンブルすれば、こぼれ球に詰められて失点する可能性もあり、弾くほうがリスクが少ないからです。

 しかし、GKのすごさを伝えるのに、ワンハンドキャッチの威力は絶大。どうしても地味になってしまいがちなGKのプレイですが、渾身のシュートをワンハンドキャッチされたときの絶望感はハンパないです。また、両手でキャッチすると余裕感が出てしまうのに対して、ワンハンドキャッチはギリギリでセーブした感を演出できるメリットもあります。

 このワンハンドキャッチはミューラーだけでなく、若島津健が翼のドライブシュートを止めたときにも見せています。また、日本の隠れた実力者、巨漢のゴールキーパー中西太一も小学生のとき、翼との対戦試合でワンハンドキャッチを披露。

 ワンハンドキャッチは、サッカーにおいてやられ役になりがちなGKのすごさを伝えるためのすぐれた演出といえるでしょう。

◆サッカーのルールに縛られない自由な発想

 『キャプテン翼』では立花兄弟の空中技スカイラブハリケーンに対応するため、あらかじめゴールバーの上に選手が登って待ち伏せしたり、『キャプテン翼 ライジングサン』ではスペイン五輪代表のミカエルが、ボールに乗って地面を滑って移動するセグウェイ・ドリブルを披露したりしています。

 高橋陽一先生はもともとサッカーにあまり詳しくなかったそうで、だからこそルールや常識に縛られない自由な発想が生まれるのでしょう。

 セグウェイ・ドリブルは玉を転がしながら進む玉乗りとちがって、乗っているボールを滑らせて進む、とんでもないバランス感覚が必要な技です。

 これに対して、高橋先生は「コミックナタリー特集・インタビュー」で「ボールに乗れたら楽しいだろうなと思って。スーって(笑)」と答えています。サッカー経験者では、おそらくこのような発想は生まれないでしょう。しかし、リアルでは不可能な演出や技を見せてくれることこそ、『キャプテン翼』の魅力の一つといえます。

 

 ──高橋先生の体力の衰えや執筆環境の変化という理由で、残念ながら『キャプテン翼』の漫画としての連載は20244月をもって終了しました(今夏からネーム形式でWebサイト『キャプテン翼WORLD』で週刊連載)。しかし、『ブルーロック』でも、二段式空砲直蹴撃(にだんしきフェイクボレー)をはじめとするスゴ技がさく裂しています。

 これからも、ぶっ飛んだ技で読者を魅了してくれるサッカー漫画の出現に期待したいです。

〈文/諫山就〉

《諫山就》

フリーライターとして活動中。漫画・アニメ・医療・金融などの記事、YouTube用シナリオを執筆・編集しています。

 

※サムネイル画像:Amazonより

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