<この記事にはTVアニメ・原作漫画『チェンソーマン』のネタバレが登場します。ご注意ください。>
新幹線の中、致命傷を負っても平然と立ち上がった公安対魔特異4課のリーダー、マキマ。彼女の「死なない体」は、作中でも最大級の謎です。
なぜ彼女は、あれほどの攻撃を受けても平気でいられるのか。いったいどんな悪魔と契約すれば、あのような常識を超えた力を手にできるのでしょうか。
彼女が見せた不可解な能力を整理することで、その不死身にも見える力の正体と、恐るべき仕組みが見えてくるかもしれません。
◆「死なない体」の謎──マキマの異常な再生能力
マキマの謎の中でも、特に不気味で彼女の人間離れした存在感を際立たせるのが、あの「死なない体」です。
その異常さがもっともはっきりと示されたのが、サムライソードの仲間たちによる新幹線での奇襲でした。マキマは、複数の敵から至近距離で攻撃を受けます。普通なら即死は免れないほどの致命傷です。
しかし、彼女は何事もなかったかのように平然とホームへ降り立ちます。これは傷が塞がる「再生」というよりも、攻撃そのものがなかったことにされているかのようにも見えます。彼女が「ダメージを無効化する」あるいは「死を覆す」ような特別な悪魔と契約している可能性が考えられます。
この異常なタフネスさは、彼女の周りの人間関係にも不思議な影を落としています。
デンジやアキのように彼女に憧れる者がいる一方で、姫野や岸辺といった経験豊富なデビルハンターたちは、強い警戒心を隠しませんでした。彼らの警戒心は、マキマの非情な一面だけでなく、この「死なない体」の正体がまったくわからない不気味さから来ているのではないでしょうか。ベテランでさえ理解できない力を持つからこそ、信用できない底知れない存在として距離を置いていたのかもしれません。
つまり、マキマの「死なない体」はたんなる再生能力では説明がつかない、より根源的な「死」に干渉する、高レベルの悪魔との契約によって成り立っている可能性が高いといえます。そして、その正体が誰にもわからないことこそが、彼女の最大の強みであり、周囲に恐怖と尊敬の念を抱かせる源泉となっているのではないでしょうか。
◆遠隔攻撃のカラクリ──目に見えない“何か”を操る力
マキマの異常性は「死なない」という防御力だけにとどまりません。彼女は、遠く離れた敵を一方的に攻撃する、恐るべき力をも持っています。
その能力が大規模に使われたのが、京都での出来事です。新幹線でマキマを襲った者たちの仲間に対し、彼女は東京から遠く離れた京都の神社で、ある儀式を行います。目隠しをされた囚人を「生贄」として並ばせ、彼らに敵の名前を言わせる。そして印を結ぶような手の動きで、東京にいる敵を次々と謎の力で押し潰していきました。
また、囚人たちは国家によって用意された存在であり、この光景は公安とマキマの“異常な権力構造”を象徴しているようにも見えます。一つの命を別の命の代償として使う──。その冷徹さが、彼女の恐ろしさを際立たせていました。
この攻撃は「生贄」「名前」「特定の印」という、“呪い”の儀式のような要素で成り立っています。このことから、マキマが契約しているのは「呪い」や「運命」といった、目に見えないルールを操る特殊な悪魔なのではないでしょうか。
さらに、彼女が使う遠隔攻撃はこれだけではありません。作中では、彼女が“睨む”だけで相手を残酷に倒す場面も描かれています。これらの攻撃に共通しているのは、マキマ自身は指一本触れていないということです。
現時点では、この力が複数の悪魔との契約によるものなのか、それとも一体の悪魔が多彩な遠隔攻撃を行っているのかは明らかではありません。しかし確かなのは、マキマの戦い方が、自らは安全な場所にいながら敵を一方的に排除するという、極めて強力で冷徹なものであるということです。
その力の根源は「呪いの悪魔」、あるいは複数の悪魔を操る、さらに上の存在なのかもしれません。彼女はデビルハンターというより、悪魔の軍団を操る冷徹な“支配者”そのものだったのかもしれません。
◆デンジに隠された“真の目的”──アメとムチで飼いならす理由
「死なない体」と謎の「遠隔攻撃」。これほど強大な力を持つマキマが、なぜデンジに執着するのでしょうか。その答えは、彼女がデンジを巧みに飼いならす、アメとムチの使い分けに隠されています。
デンジをスカウトしたときを思い出すと、マキマはデンジにこう言っていました。「飼うならちゃんと餌はあげるよ」「使えない公安の犬は安楽死させられるんだって」。
普通の生活という「餌」を与え、願いを叶えつつも、常に「死」の恐怖をちらつかせる。この人の心をコントロールする術によって、デンジは精神的にマキマに支配され、彼女から離れられない存在となっていきます。彼女の優しさが、計算されたものである可能性は高いでしょう。
そしてその計算の先にあるものこそ、彼女の真の目的です。マキマはデンジに「デンジくんみたいな人が好き」と、思わせぶりな言葉を返します。しかし、彼女が本当に見ているのは、デンジという少年個人なのでしょうか。
マキマがデンジに執着する本当の理由は、彼の純粋さではなく、その心臓に宿る「チェンソーマンの力」に、何か特別な価値を見出しているからではないでしょうか。デンジが悪魔を倒し、その名が世間に知れ渡るほど、彼女は満足そうな表情を浮かべます。まるで、計画が順調に進んでいるとでもいうように。
つまり、マキマがデンジを飼いならすのは、彼の中にある「チェンソーマンの力」という私たちがまだ知らない何かを手に入れ、自分の目的のために利用するためだと考えられます。
彼女の不可解な能力と、デンジへの執着。この二つの謎がつながるとき、彼女が本当に倒したいと願う「ある悪魔」の正体と、物語の核心が見えてくるのかもしれません。
──「死なない体」と、不可解な遠隔攻撃能力。マキマの力の数々は、彼女が悪魔さえも操る、指揮官のような存在であることを示唆しているといえます。
そして彼女の真の目的は、デンジを飼いならし「チェンソーマンの力」を利用することにあるのかもしれません。その謎めいた瞳の奥には、どんな未来が描かれているのか。マキマという存在こそが、この物語最大の謎といえるでしょう。
〈文/凪富駿〉
《凪富駿》
アニメ・漫画に関するWebメディアを中心に、フリーライターとして活動中。特にジャンプアニメに関する考察記事の執筆を得意とする。作品とファンをつなぐ架け橋となるような記事の作成がモットー。
※サムネイル画像:『TVアニメ『チェンソーマン』第3話 場面写真 © 藤本タツキ/集英社・MAPPA』