『ちびまる子ちゃん』の原作第98話は、連載雑誌『りぼん』には掲載されたものの、コミックスには未収録となってしまいました。
本来ならば収録される予定だったにもかかわらず、なぜ第98話のみが見送りとなったのでしょうか? そこには『ちびまる子ちゃん』の世界観をぶち壊すような衝撃の理由があったからです。
◆幻の第98話「まる子 夢について考える」とは?
『ちびまる子ちゃん』第98話「まる子 夢について考える」は次のようなストーリーです。
ある日、まる子がうたた寝をしていると、仮面をかぶった邪教徒たちが火を囲んで歌い踊り「神よ 天よ 力を与えよ」などと、ギラギラした目で繰り返し言い続けるという夢を見ました。
まる子は物陰に隠れていましたが、邪教徒に見つかって逃げまどっていると、見知らぬ王子様のようなイケメンの男の子に助け出されます。
のちに、邪教徒はまる子のクラスメイトである藤木と永沢だと判明しますが、安堵するや否や同じくクラスメイトの小杉の遺体が足元に転がっていることに気づくのです。
小杉の遺体にはハエがたかっており、驚いて「なぜ小杉は亡くなったのか?」と問うまる子に、イケメンの男の子は「食べすぎだ」「…それよりまる子 結婚しようぜ」などとサイコパス発言。
それからも夢の中には母親のすみれが子供になって登場したり、友人の野口が平安時代のお姫様のような恰好で登場したりと一貫性がありません。
やっと夢から覚めたまる子は教室にいましたが、夢と現実の区別がついておらず、大声で「小杉は食べ過ぎで死んでりゃいいの!!」と暴言を吐き、クラス中をシーンとさせてしまうのでした。
◆未収録の理由とは? さくらももこ先生が直筆のコメントを掲載
本来、雑誌に掲載されたマンガはよほどのことがない限りコミックスにも収録されます。
ところが、この第98話に関しては未収録扱いとなり、『ちびまる子ちゃん』のコミックス第13巻では、第97話の次に第99話が収録されました。
その理由について、原作者のさくらももこ先生は第13巻で「この原稿を描いていたころの私は、それはそれはモーレツに忙しかった」と直筆のメッセージで綴っています。
当時のさくらももこ先生は『ちびまる子ちゃん』のほかにマンガ『コジコジ』の新連載、永沢を主人公としたマンガ『永沢君』の最終回、締め切りの迫るエッセイ、『ちびまる子ちゃん』第12巻の書き下ろし、TVアニメ版の『ちびまる子ちゃん』の新作台本の執筆に加え、アニメの主題歌の作詞まで抱えていたのだとか。
さらにいつも来てくれているアシスタントの都合もつかず、自分の子供の面倒を見ることも重なって、何が何だか分からない日々を送っていたそうです。
加えて第98話のテーマを「夢について」という壮大なものにしてしまったため、とりあえず描き上げてみたものの、とても納得のいく出来栄えとはいえず、コミックスへの収録は悩んだ末に見送りとなったのでした。
さくらももこ先生は「またいつかこのテーマで、ちゃんと完成したものを発表できる時がきたらいいなあと考えております」と綴っていましたが、2018年に53歳の若さで亡くなってしまい、その希望は残念ながら叶わないものとなってしまいました。
◆コンプライアンス的にNGだった?
第98話に関しては、さくらももこ先生自身がコミックスへの収録を見送りましたが、クラスメイトが亡くなり、その身体にハエがたかっているという表現は、実際のところ当時の『りぼん』ではOKだったのでしょうか?
結論からいうと、『りぼん』は明確なコンプライアンスの規定を発表していません。
ですが、かつて『りぼん』でマンガを連載していた槙よう子先生は「りぼんにはりぼんの枠があって、描いてはいけないことがある」と自身のコミックスに綴っていたことがあります。
そのときに槙先生が描いていたマンガ『愛してるぜベイべ★★』では、登場人物がクラスメイトから集団でいじめられるシーンがあるのですが、本来そのような過激なシーンは『りぼん』としてNGであるところ、ギリギリのラインで掲載できる内容にしていたというように取れます。
ましてや、さくらももこ先生は『りぼん』を出版している集英社にとって『ちびまる子ちゃん』をヒットさせた大功労者です。
そのため、多少過激な表現も許されていたのかもしれません。
◆「幻の第98話」は読めないのか?
中にはこの「幻の第98話をどうしても読みたい!」という人もいるかと思いますが、その方法は2つあります。
1つ目は、東京都にある国立図書館で連載されていた『りぼん』を読むこと。
2つ目は、「98話が収録されている『りぼん』」を買うこと。
幻の第98話が掲載されている1995年2月号の『りぼん』は、『メルカリ』などのフリマアプリやネットオークションに少なからず出品されています。
ただ、レアな商品のため高値で取り引きされていることがほとんどで、安くても1万円ほど、高ければ5万円以上の値段がついています。
現在さくらももこ先生の跡を継いでいるスタッフがコミックスに収録してくれることが一番望ましいですが、あまりにも過激な内容だったため、望みは薄いかもしれません。
〈文/花束ひよこ〉
※サムネイル画像:Amazonより