TVアニメ『ちびまる子ちゃん』は、現在の平和な雰囲気とは異なり、平成初期は毒の強いエピソードが数多くありました。
『ちびまる子ちゃん』は過去の放送回がリメイクされることもある一方で、あまりにも衝撃的な内容で、もはや封印状態のエピソードもあります。
◆放送後にたくさんのクレームが入った?──第1期116話「永沢君の家、火事になる」の巻(1992年3月29日放送)
第1期116話「永沢君の家、火事になる」の巻では、まる子のクラスメイトの永沢君の家が隣家の火事に巻き込まれ、全焼してしまいます。
燃え盛る炎が迫り来るシーンなどが非常にリアルで、火事の怖さも伝わってくるのですが、問題は登場人物の「セリフ」にありました。
火事の翌日、学級委員の丸尾君が「永沢君を励ます会」を教室で開催し、クラスメイト全員が集まることに。
まる子やクラスメイトたちが火事の話題でもちきりになっていると、暗い影を落とした永沢君が登場します。
誰もが言葉も出ないほど緊迫した空気だというのに、丸尾くんだけはハイテンションで、永沢君に薔薇を差し出しながら「明日はズバリ、キミのためにあるでしょうっ!!」と元気に言います。
その後、出席番号順に次々とクラスメイトたちが励ましの言葉を述べさせられますが、一夜にして生まれ育った自宅を失った永沢君に差しさわりのない言葉をかけることしかできません。
そのような中、お調子者のハマジ(浜崎君)だけが「永沢、昨日は新聞に載ってたな。そんな機会、滅多にないから少しは良かったな」と発言してしまいます。
それを聞いた永沢君がガクッと肩を落とした姿を見て、ハマジは「逆効果だった!」と心の中で後悔するのでした。
最後は丸尾君の提案で「手のひらを太陽に」を歌うことになりましたが、クラスメイトたちは「僕らはみんな……生きている……」とボソボソ歌う者、ドン引きして口を閉ざしている者もいる一方で、丸尾君だけは「手~のひらを~太陽に~透かしてみ~れ~ば~あ~あ~あっ!!」と元気いっぱいに熱唱。
歌を聴き終えた永沢君は一言「……みんなはいいよな、火事にならなかったんだから」と呟き、励ます会はどん底のまま終わりました。
この話はリアルな火事の様子を描いていることと、不謹慎な発言や励ます会が影響してか、放送終了後にたくさんのクレームが入ったといわれています。
◆永沢君がおしっこまみれに!?──第2期第227話「ハチの巣を見にいこう」の巻(1999年6月6日放送)
第2期第227話「ハチの巣を見にいこう」の巻では、神社にできたハチの巣をまる子、ハマジ、山田、ブー太郎の4人で見に行くことになりました。
ところが、巣を見ている最中に山田がくしゃみをしてしまい、怒ったハチが次々と飛び出し、たまたま近くを通りかかった永沢君の全身を何度も刺したのです。
顔や両手、両足をハチに刺されて痛がっている永沢君を見て、何を思ったのか、ハマジは「そうだ、おしっこだ!!」と言います。
なんとハマジは、ハチに刺された対処法として、自分の尿を永沢君にかけると言うのです。
当然ながら全力で嫌がる永沢君を、山田とブー太郎が押さえつけ、その隙にハマジは荒療治を決行。
神社には永沢君の絶叫が響き渡り、次の場面では全身ずぶ濡れの永沢君が白目を剥いていたのでした。
翌日、ハチの巣は専門業者の手によって取り除かれたのですが、そこでまる子たちは「ハチに刺された時におしっこをかけると良い」というのはただの迷信で、むしろバイキンが入る可能性があると教えられます。
ちびまる子ちゃんは夕方の午後6時台という食事時に放送されていますが、夕食をとりながらリアルタイムで視聴していた人たちは、さぞビックリしたことでしょう。
◆洪水をバックに記念撮影!?──第1期第23話 「まるちゃんの町は大洪水」の巻(1990年6月10日放送)
第1期第23話「まるちゃんの町は大洪水」の巻は、1974年7月7日に静岡県で発生した「七夕豪雨」をモチーフとした話です。
豪雨の翌日、まる子は祖父の友蔵に連れられて水浸しになった町内を見に行くのですが、2階の屋根まで水に浸かっているなどショッキングな光景が続きます。
しかし、物見遊山状態の友蔵は「まる子、水害をバックに写真を撮ろう」などと発言し、まる子もニッコリと微笑みながらピースサインをする始末。
挙げ句の果てに「向こうはもっと被害の大きい地域があるので見に行こう」と、完全に水害を楽しんでいるかのような発言を繰り返し、この話もクレームが殺到する事態となったのです。
七夕豪雨は多くの犠牲者を出した水害だったため、マンガやアニメで取り扱うにしても注意が必要だったはずです。
平成初期というコンプライアンスが緩かった時代だからこそ、放送が実現したのかもしれません。
◆いじめが原因で流血騒ぎに──第2期第40話「たかしくん」の巻(1995年10月8日放送)
第2期第40話「たかしくん」の巻は、『ちびまる子ちゃん』のアニメ史上最大の「流血事件」といわれており、胸が痛むエピソードとなっています。
クラスメイトの西村たかしくんは非常におとなしい性格で、気の強い関口君や佐々木君たちから嫌がらせにあってもやり返したりせず、いつもじっと耐えていました。
まる子と同じく朝起きるのが苦手なたかしくんは遅刻をすることが多く、それを関口君たちに責められ、手をあげられる日々が続きます。
あるとき、クラスメイトたちは、たかしくんが給食の時間に苦手な牛乳を残しているのを目ざとく見つけ、彼はいつものように嫌がらせを受けていました。
さらに、関口君たちはたかしくんが大切にしている犬のアップリケがついた給食袋を「女みたい」と笑い、踏みつけてしまいます。それはたかしくんの母親のお手製の給食袋でした。
その様子を見たまる子は激怒し、
「たかしくんに謝りなよ!毎日、いじわるしたことを謝りなよ!」
と叫びます。
逆ギレした関口君は「お前も痛い目に遭いたいか!」と怒鳴ってまる子を突き飛ばし、よろけたまる子は、掲示板に頭を打ち付け流血したのです。
その瞬間、クラスは騒然となり、親友のたまちゃんは悲鳴を上げました。
まる子は手に付着した自分の血を見て、「どうしよう、学校でぶたれてケガしたなんて言ったら、お母さん泣いちゃうよ……」と涙ぐみます。
その夜ぐっすり眠るまる子を見て、母のすみれが「まる子、もうケガなんてしないでよ……」と囁くのでした。
このエピソードは、いじめについて考えさせられる一方、視聴者からは「関口と佐々木が不快すぎる」「胸糞悪い」との声があったとされています。
普段、愉快な話が多いからこそ、『ちびまる子ちゃん』の世界観の中では異端なエピソードといわれているのかもしれません。
──さまざまな理由で物議を醸したこれらのエピソードですが、永沢君の火事に関する話と洪水の話は、とりわけ不謹慎だと話題になっています。
中には、動画配信サービスで視聴できるエピソードもありますが、今の時代のコンプライアンスを考えると、テレビでの再放送は叶わないといえるでしょう。
〈文/花束ひよこ〉
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