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※この記事には漫画『ちびまる子ちゃん』のネタバレが含まれます。ご注意ください。

※本記事には一部、漫画『ちびまる子ちゃん』に関するライター個人の考察・見解が含まれます。公式の設定や見解とは異なる場合があります。

 明るい日常を描く『ちびまる子ちゃん』にも、コミックスに収録されなかった異色の一話があります。連載誌には掲載されたものの、単行本では第97話の次に第99話が並ぶ形となり、第98話だけが抜け落ちました。なぜ、その回は未収録になったのでしょうか。そこには、作品の雰囲気とはかなり違う内容と、さくらももこ先生自身が明かした制作時の事情がありました。

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◆雑誌には載ったのに単行本から消えた第98話

 『ちびまる子ちゃん』の原作第98話「まる子 夢について考える」は、連載誌『りぼん』には掲載された一方で、コミックスには収録されていない回です。ファンの間では“幻の回”として知られ、今も内容を気にする人が少なくありません。

 物語は、まる子がうたた寝の中で不思議な夢を見るところから始まります。夢の中では、仮面をかぶった集団が火を囲み、どこか儀式めいた雰囲気で歌い踊っています。まる子はその場から逃げようとしますが、次々と現実離れした場面に巻き込まれていきます。

 助けに現れる王子様のような少年、姿を変えて出てくるクラスメイト、子どもの姿になった母親、平安時代のお姫様のような野口さん……。夢らしい脈絡のなさが続く一方で、そこに混ざる不気味な描写は、普段の『ちびまる子ちゃん』とはかなり手触りが違います。

 最後に目を覚ましたまる子は教室にいました。しかし、まだ夢と現実の境目があいまいなまま、思わぬ発言をしてしまい、クラス中を静まり返らせます。日常の笑いで締めるというより、どこか後味の悪い余白を残す回だったといえるでしょう。

◆さくらももこ先生が明かした未収録の理由

 第98話がコミックスに入らなかった理由について、さくらももこ先生は単行本第13巻で直筆のメッセージを残しています。そこに書かれていたのは、内容への外部からの指摘というより、当時の制作状況と自身の納得度に関する説明でした。

 当時の先生は『ちびまる子ちゃん』だけでなく、『コジコジ』の連載、関連作品、エッセイ、単行本作業、アニメ台本、主題歌の作詞など、複数の仕事を抱えていたとされています。さらに家庭の事情も重なり、非常に慌ただしい時期だったようです。

 そのような状況で「夢について」という大きなテーマに挑んだものの、仕上がった原稿には自分でも十分に納得できなかった。結果として、コミックスへの収録を見送る判断に至ったと説明されています。

 つまり、第98話はたんに“過激だから封印された”というより、さくら先生自身が「この形で残すのは違う」と感じた作品だったと見るのが自然です。作者本人が迷い、未完成に近い感覚を抱いたからこそ、単行本から外されたのではないでしょうか。

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◆少女漫画誌の枠から見てもかなり異色だった内容

 とはいえ、掲載内容がかなり異色だったことも事実です。『ちびまる子ちゃん』は皮肉やブラックユーモアを含む作品ですが、基本的には小学生の日常や家族、友人関係を題材にした漫画です。第98話の夢の描写は、その範囲から少しはみ出しているようにも見えます。

 当時の『りぼん』は多くの子どもたちが読む雑誌でした。明確な掲載基準が公表されていたわけではありませんが、読者層を考えれば、扱いに慎重になる表現があったとしても不思議ではありません。

 一方で、さくら先生の作品にはもともと、かわいらしさだけではない毒や違和感がありました。日常の中にふと混ざる不条理さ、人の弱さ、妙な生々しさ。それらが『ちびまる子ちゃん』の魅力でもあります。第98話は、その毒の部分がいつもより前に出すぎた回だったのかもしれません。

◆今も“幻の回”として語られる理由

 第98話は現在のコミックスでは読めないため、余計に関心を集めています。単行本で普通に読める回であれば、ここまで長く話題にならなかった可能性もあります。欠番になっていること自体が、読者の想像をかき立てているのでしょう。

 実際に読む手段としては、掲載当時の『りぼん』を所蔵する図書館で確認する方法や、古書・オークションなどで該当号を探す方法が考えられます。ただし、希少性が高く、気軽に手に取れるものではありません。

 だからこそ、第98話は「読めないからこそ気になる回」として残り続けています。作品の本筋から大きく外れた異色作であり、作者自身も納得しきれなかった一話。その両方が重なったことで、『ちびまる子ちゃん』の中でも独特の存在感を放つ回になったのではないでしょうか。

 

 ──『ちびまる子ちゃん』は、ほのぼのした家族漫画として親しまれる一方で、実はかなり鋭い観察眼とブラックユーモアを持つ作品です。第98話は、その一面が普段より濃く出たために、単行本に残されなかったのかもしれません。

 ただ、未収録になったからといって、作品として無意味だったわけではありません。むしろ、作者が自分の作品に対して納得できる形を大切にしていたこと、そして『ちびまる子ちゃん』という作品がたんなる明るい日常漫画に収まらない幅を持っていたことを示しているともいえます。

 幻の第98話は、怖さや奇妙さだけで語られる回ではありません。さくらももこ先生が多忙の中で挑んだ「夢」というテーマと、結果的に単行本から外すことを選んだ判断。その背景を知ると、未収録という事実そのものが、『ちびまる子ちゃん』の奥深さを物語っているように感じられます。

〈文/士隠カンナ〉

《士隠カンナ》

アニメ・漫画関連のムック本を中心に活動するフリー編集・ライター。1990年代〜2000年代のアニメ作品を原点に、近年の話題作から長年愛される名作まで、幅広い作品の解説・考察・キャラクター分析を手がけている。作品の魅力や背景を読者にわかりやすく伝える記事制作を得意とする。

 

※サムネイル画像:Amazonより 『「ちびまる子ちゃん」第1巻(出版社:集英社)』

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