2001年の公開から、今年で26年目を迎える『千と千尋の神隠し』。名作として名高い同作ですが、誕生のきっかけは宮崎駿監督のとある「思い付き」だったようです。

◆荻野千尋のモデルになった少女がいる?──当初、名前は「千晶」の予定だった

 2006年3月出版の『宮崎駿全書』(出版社:フィルムアート社)によると、宮崎駿監督は信州に山小屋を所有しており、毎年夏にはスタジオジブリの関係者や、その子供たちを招いて合宿を行っていたといいます。

 その場には宮崎監督の友人で、日本テレビの社員・奥田誠治さんの娘・千晶さんも遊びに来ていて、監督もかわいがっていたそうです。

 2016年3月出版の『ジブリの教科書12 千と千尋の神隠し』(出版社:文藝春秋)によると、ある日、宮崎監督は「千晶の映画をやろうか」と提案し、その後、同作は『千の神隠し』という仮のタイトルで企画がスタート。

 2016年6月出版の『熱風 スタジオジブリの好奇心 146号』(発行:スタジオジブリ出版部)では、当初、主人公の名前は奥田さんの娘の名前をそのまま使う予定だったものの、「教育上よくない」との理由で「千晶」から「千尋」に変更されたことなどが明かされています。

◆カオナシは脇役の予定だった?──「橋の上にただ立っているだけの存在」のつもりが……

 『千と千尋の神隠し』で、視聴者に絶大なインパクトを与えたカオナシ。同作で長時間出演するにもかかわらずセリフはあまりなく、小さな声で「あ……」や「え……」と発言するのみでした。

 そんなカオナシは20018月出版の『ロマンアルバム 千と千尋の神隠し』(出版社:徳間書店)で、製作時は重要なキャラクターになる予定はなく、「ハクと千尋が油屋に向かう際、橋の上にただ立っている存在」で終わる予定だったことが明かされています。

 また、カオナシのモデルはスタジオジブリの映画『思い出のマーニー』の監督・脚本を務めた米林宏昌さんだとされていましたが、20149月に行われた「ジブリの立体建造物展」の動員10万人突破記念セレモニーでのインタビューで本人が否定しています。

 イベントのMCから「まろさん(米林監督のニックネーム)はカオナシのモデルって聞いたんですけど本当ですか?」と問われた米林監督は、「それ、方々で言われるんです」「実際はモデルというより僕が描いていたカオナシを見て、宮崎(駿監督)さんが『まろにそっくりじゃないか』とおっしゃって、そういうふうに言われるようになった」と語り、真相が明かされたのでした。

◆主題歌「いつも何度でも」は幻のジブリ作品の曲になる予定だった?──『もののけ姫』を観て思いついた結果……

 木村弓さんが歌う主題歌「いつも何度でも」は、多くのアーティストがカバー曲をリリースするほど人気を誇り、今でも愛される楽曲の一つです。

 20221月、『文春オンライン』で公開された「呼んでいる〜『千と千尋』主題歌「いつも何度でも」誕生前夜、ボツになった幻のジブリ作品宮崎駿監督から届いた手紙「残念ながら挫折しました」という記事のインタビューで、木村さんは『もののけ姫』を視聴したことが楽曲の誕生のきっかけになったことを明かしています。

 ですが、意外にも当初は『千と千尋の神隠し』ではなく、『煙突描きのリン』という別のジブリ作品に使われる予定だったのだとか。

 しかし、宮崎監督から「残念ながら、かんじんの『煙突描きのリン』が挫折しました」とお蔵入りになってしまった旨の手紙が届いたものの、「くり返し くり返し聴かせていただきました。いい歌です。詩も素敵です」「煙突の上でこの歌を口ずさむリンの横顔が目に浮ぶようです」「いつも何度でも イイ歌です。遠くを見つめる澄んだまなざしと、近くのものへのやさしさと両方を持っていて、その上、風を感じます。どうか大切に育てて下さい」と絶賛されていたそうです。

 そして、「いつも何度でも」は紆余曲折を経て『千と千尋の神隠し』の主題歌に起用され、木村さんの代表曲となったのでした。

◆千尋の両親は食事シーンで「アレ」を食べていた?──宮崎監督が用意していたものとは……

 202210月放送の『帰れマンデー見っけ隊!!3時間SP』(テレビ朝日)に女優の沢口靖子さんが出演し、『千と千尋の神隠し』で千尋の母・荻野悠子役を務めたときのことを明かしています。

 番組ではケンタッキーフライドチキンを食べることになったことにちなみ、沢口さんは「お仕事で、内藤(剛志)さんと夫婦の役なんですけど、チキンを食べながら豚になっていくという役なんですけど」「セリフもしゃべるので、宮崎監督がチキンを用意してくださって」「実際食べながら、あそこ(の場面)をやりました。その時がケンタッキー」と当時を振り返り、映画の収録からおよそ20年ぶりにケンタッキーフライドチキンを口にしていました。

 

 ──TVアニメや映画は製作に膨大な時間を必要としますが、同作の要となるカオナシが当初は脇役の予定だったり、「いつも何度でも」が起用される予定だった別の映画がお蔵入りになったりと、さまざまな大人の事情があったようです。もしも『煙突描きのリン』が上映されていたら、『千と千尋の神隠し』という名作は生まれなかったかもしれません。

〈文/花束ひよこ〉

 

※サムネイル画像:https://www.ghibli.jp/works/chihiro/ 『千と千尋の神隠し - スタジオジブリ|STUDIO GHIBLI』より

© 2001 Hayao Miyazaki/Studio Ghibli, NDDTM

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