※この記事にはTVアニメ・原作漫画『ちいかわ』のネタバレを含みます。ご注意ください。
かわいい絵柄と短い話数のテンポの良さから、つい油断して見てしまう『ちいかわ』。ところがある回から、「ちいかわって、こんなに怖い作品だった?」と胸の奥がざわつくようになります。

<画像引用元:Amazon.co.jpより 『Blu-ray「ちいかわ 豪華版」第3巻(販売元:Happinet)』>
ファンの間で『ちいかわ』が「実は怖い作品」、「トラウマを植え付けられる」と評されるのは、怪物が出てくるからではなく、日常のすぐ隣にある不条理を“説明しないまま”置いていくから。
この記事では、特に話題になりやすい「黒い流れ星」、「三ツ星レストラン」、「ちいかぶ」、「草むしり検定」を中心に、ネタバレありで「何が怖いのか」を紐解いていきます。
◆なぜ『ちいかわ』は怖い? ホラーじゃないのにトラウマになる理由
『ちいかわ』の怖さは、視聴者を突然驚かせるようなホラー演出に頼りません。怖いのは、以下の3点が一貫しているからです。
(1)理由が語られない
(2)助けが来ても完全に救われない
(3)キャラが弱い立場のまま世界に放り出される
現実でも、理不尽に巻き込まれた際、理由が分からないまま時間だけが過ぎていくことがあります。その感覚が、ちいかわたちの小さな体と表情を通して胸に迫るのです。だからこそ「かわいいのに怖い」「優しい世界観なのにトラウマ」という矛盾した感覚が生まれます。
◆【最恐】「黒い流れ星」の回は何話? ちいかわ屈指のトラウマ回をネタバレ解説

<画像引用元:『ちいかわ』公式X(旧Twitter)より (C)nagano>
「黒い流れ星編」は「ちいかわの怖い回」の代表格。作中では、「願いは叶うけどイヤな思いをする黒い流れ星がある」という噂話が語られます。
ちいかわは、寝坊や遅刻の不安といった日常の小さな困りごとをきっかけに、目覚まし時計を手に入れます。そこから“うまくいく日”が続き、写真を撮る、勉強会をする、いつもの道を歩く——そんな穏やかな日々が積み重なるのですが、だんだん既視感が濃くなっていきます。
決定的なのは、同じ朝に戻ってしまう感覚。気づけばちいかわは、同じ一日を何度もやり直す「時間ループ」に閉じ込められています。そして深夜0時、ちいかわは時計から現れた『黒い星』が、針を無理やり回して時間を巻き戻している姿を目撃してしまう────。
このエピソードの怖さは、黒い流れ星が直接襲いかかってくるのではなく、「幸せそうな一日」を延々と繰り返させる点にあります。本人の意思と無関係に、安心できるはずの日常が檻になる。最終的には対処法を見つけ状況を打開しますが、出来事に対する説明は完全ではなく、視聴後には“胸のざわざわ”だけが残ります。これがトラウマ回と呼ばれる理由です。
◆「三ツ星レストラン編」は怖い? ちいかわ“食べられる側”になる回をネタバレ解説

<画像引用元:『ちいかわ』公式X(旧Twitter)より (C)nagano>
「三ツ星レストラン編」は、入口のワクワクがそのまま恐怖へ反転するエピソードです。森で見つけた「三ツ星レストラン」の看板に誘われ、ちいかわとハチワレは豪華な料理を期待して入店します。ところが店内には、料理ではなく“星”が捕らえられている異様な光景が広がっていました。ここで「三ツ星」とは、レストランの“評価”ではなく“星そのもの”であることが示唆され、空気が一気に不穏になります。
さらに店員(コック)が現れ、二人を客ではなく「料理(食材)」として扱い始めます。巻かれる、追われる、逃げ道が塞がれる──かわいい絵柄のまま「食べられる側」の恐怖が進行します。
絶体絶命の状況でハチワレの「なんとかなれッ!」が起点となり、星が解放され、奇跡的に脱出に成功するのですが、助かった後も後味の悪さが残ります。
日常の“安全なはずの外食”が、ワンカットで捕食の舞台に変わる……。これが「ちいかわ が怖い」「トラウマ回が多い」と言われる要因の一つといえます。
◆「ちいかぶ編」はトラウマ? 友だちだと思っていた存在の正体が怖すぎる回

<画像引用元:『ちいかわ』公式X(旧Twitter)より (C)nagano>
「ちいかぶ編」の怖さは、怪物の造形ではなく「関係性の崩壊」にあります。洞窟のスイッチを押した先で出会うのが、かぶとむしのような姿をした“ちいかぶ”です。
最初は無害そうで、ちいかわの家についてきてしまうちいかぶ。ハチワレは「新しいともだちだね!」と受け入れ、うさぎも含めてしばらくは“世話をする日常”が描かれます。
ところが、ちいかぶの行動は次第に不穏なものに変わり、噛みつく、討伐対象を食べるなど、かわいさだけでは隠しきれない兆候が出てきます。
切ないのは、ちいかわが本能的に怖がりながらも、相手に情を移してしまうところです。視聴者も「本当に危険なのか、それとも誤解なのか」で揺さぶられます。
最終局面では正体が明確になり、ちいかわたちは鎧さんに救出され、ちいかぶは本来の大きな姿へ変化して去っていきます。助かったはずなのに、心のどこかが欠けたような感覚……。信じた相手が“最初から”危険な存在だったと確定する喪失感が、トラウマとして残り続けます。
◆「草むしり検定編」が一番つらい? ちいかわが現実すぎて怖いと言われる理由

<画像引用元:『ちいかわ』公式X(旧Twitter)より (C)nagano>
「草むしり検定編」は、怪物が出ないのに、精神的に追い詰められる「生活ホラー」といえます。
ちいかわたちは報酬アップを目指して勉強し、検定を受験します。努力の過程はていねいに描かれますが、結果は残酷で、合格したのはハチワレだけでした。不合格のちいかわは泣きたい気持ちを飲み込み、合格した友だちを祝う側に回ります。
ここで刺さるのは、優しさが報われない不条理です。現実社会でも、頑張りが評価に直結しない瞬間は多々あります。その“言葉にならない痛み”を、ちいかわは小さな表情と沈黙で訴えかけてくるのです。誰しも身に覚えがあるからこそ、たんなる「怖い回」ではなく「つらい回」「トラウマ回」として語られやすいのでしょう。
◆【一覧】『ちいかわ』の怖い回・トラウマ回は何話? アニメ話数/原作対応表まとめ
| エピソード | アニメ話数(目安) | 原作での位置 | 怖い・トラウマ要素 |
|---|---|---|---|
| 黒い流れ星編 | アニメで「黒い流れ星/ループ編」としてまとまる回(配信の話数表記で前後あり) | 中盤 | 時間ループ/願いの代償/説明されない不穏さ |
| 三ツ星レストラン編 | 配信の話数表記で『三ツ星レストラン編』としてまとまる回 | 中盤 | 捕食・監禁の状況ホラー/安全神話の崩壊 |
| ちいかぶ編 | 配信の話数表記で『ちいかぶ編(新しいともだち)』としてまとまる回 | 中盤 | 関係性ホ/正体判明の喪失感 |
| 草むしり検定編 | 配信の話数表記で『草むしり検定編』としてまとまる回 | 初期〜中盤 | 生活ホラー/努力が報われない痛み |
『ちいかわ』の“怖さ”は、大きく4種類に分けられます。
(A)考察型トラウマ=黒い流れ星のような説明されない異変
(B)状況ホラー=三ツ星レストランのような捕食・監禁
(C)喪失ホラー=ちいかぶ編のような関係性の崩壊
(D)現実ホラー=草むしり検定のような生活における痛み
自分がどのタイプに弱いかを知っておくと、見返すときのダメージを減らせます。
怖い回が苦手な人は、夜に一人で見るより、明るい時間帯に短編として区切って見るのが良いでしょう。
また、あえて怖い回を視聴する場合、まずは「草むしり検定編」のような“つらい系”から入り、慣れてきたら「三ツ星レストラン」→「ちいかぶ」→「黒い流れ星」の順に進むと、トラウマの強度を段階的に調整できます。逆に、考察型が苦手なら黒い流れ星は最後に回すのが無難です。
なお原作は短編の積み重ねであるため、同じテーマでも空気感が少しずつ変わります。一方アニメは、音や間が加わることで不穏さが強調されやすく、「かわいいのに怖い」という感覚がよりダイレクトに伝わりやすい傾向にあります。怖さへの耐性がない日は、癒し回(ごはん・散歩・小さな達成の回)を挟んで“心のリセット”をしながら楽しむと、『ちいかわ』の魅力を安全に味わえます。
◆ミニFAQ
トラウマになりやすいのは「黒い流れ星編」ですが、心に刺さる怖さの種類は人それぞれです。
ショックを受けやすい子の場合、「三ツ星レストラン編」や「ちいかぶ編」など“捕食・変化”の回は避け、まずは日常回から様子を見るのが安心です。
◆だから「ちいかわは怖い」「トラウマを植え付けられる」と言われ続ける
「黒い流れ星」は“幸せのループという怖さ”、「三ツ星レストラン」は“安全の崩壊”、「ちいかぶ」は“信頼の喪失”、「草むしり検定」は“努力が報われない現実”。どれも派手なホラー演出ではなく、現実に近い不穏さを描いているからこそ、視聴後にじわじわと残り続けます。かわいいのに怖い。癒されるのにトラウマになる。そんな矛盾を抱えたまま心に残り続けるから、『ちいかわ』は今日も語られ、見返されるのです。
〈文/士隠カンナ〉
《士隠カンナ》
1990年〜2000年代に放送されたアニメに中学・高校の頃にどっぷりとハマり、その後フリー編集・ライターに。主にアニメ・漫画のムック本のブックライターといて活動中。最近のマイブームはもっぱら『ちいかわ』。
※サムネイル画像 Amazonより 『Blu-ray「ちいかわ 豪華版」第3巻(販売元:Happinet)』




