ちいかわの長い戦いについに決着がつきました。TVアニメ『ちいかわ』の昨年10月末からスタートした「黒い流れ星」編が年を跨いだ今年1月になってやっと完結しました。
番組内の1コーナーという特殊な放送形態をしているせいか『ちいかわ』という作品にとってもかなりかなり挑戦的なシリーズとなり、今後の展開に期待も不安も感じるエピソードとなりました。
◆“エンドレスエイト”再来!? 視聴者を振り落としかねない「黒い流れ星」編
「黒い流れ星」編は話の内容と放送形態の特殊さも相まって、視聴者がかなり試されるシリーズと化していました。
TVアニメ『ちいかわ』は、フジテレビ系列で放送中の朝の情報番組「めざましテレビ」内にて、火曜日と金曜日の週二回に約1分半ずつ新作が放送されている作品です。ただし、その内の30秒はED曲となっているので、実質本編は毎話1分。週に2分程度しか本編は更新されないのです。
かなりの牛歩ペースですが、『ちいかわ』がすごいのはこのペースで原作通り長編エピソードを再現するところにあります。
「黒い流れ星」はエピローグを含め前後シリーズに分けて22話分にかけて放送されました。期間にすると年末年始を挟んで約3ヵ月にわたる大長編となっています。時間にすると22分ほどと考えれば、一般的なTVアニメ1話分の内容のはずですが『ちいかわ』となるとこれだけの時間がかかってしまいます。
しかもこの「黒い流れ星」編は内容もかなり攻めた内容です。ちいかわが何度も同じ毎日を繰り返す空間に閉じ込められてしまい、なんとかして脱出しようとするお話なのですが、当初は同じ日が繰り返されていることに気づいておらず、まったく似たような放送回が発生するほどでした。
それを聞いて往年のアニメ好きなら思い出すのは2009年に放送されたTVアニメ『涼宮ハルヒの憂鬱』の「エンドレスエイト」シリーズ。これも登場人物たちがひたすら夏休みの最後を繰り返すことになるという内容で、約2ヵ月にかけてほぼ同じ放送内容が流れるという実験的なシリーズでした。
『ちいかわ』はそれに比べると、似た様な内容の回は一部話数だけなので極端ではないものの、放送時間が限られているので、結果的にハルヒとはまた別のベクトルで長い戦いとなりました。
◆控えている大長編シリーズは一体どうなってしまう?
こうなってくると気になるのは、今後の放送が控えている原作漫画『ちいかわ』の長編エピソードです。
中でも話数としては過去最多となる「セイレーン編」はシリーズ屈指の大長編作。休載期間も含みますが2023年の大半をかけて発表されていったシリーズです。このシリーズでは、ちいかわたちが遠い島へやってくるというエピソードで、レギュラーキャラクターが勢揃いする上に新キャラクターも何匹も登場する大作となっていました。
そのスケールのせいか、シリーズの完結の際にはSNSなどで“劇場版ちいかわ”などと謳われるほどの連作となっており、実際に重厚なドラマが含まれるシリーズでした。
問題はこれを果たしてどうアニメ化するのかです。
ただでさえ一つの放送回が短いTVアニメ『ちいかわ』で「セイレーン編」を再現するとなると半年以上の放送回数が必要となることは必至。下手したら年間ペースでの放送となりかねない状態です。
こうなるとやってほしいのは、従来の放送枠を飛び出して、一本の長編としてアニメ『ちいかわ』のセイレーン編を制作すること。TVスペシャルなのか、はたまた前述のような劇場版なのか。なににしても、週2分の更新では物足りないほどの厚みのある回なので、なにかしらの特例を期待したいところです。
『ちいかわ』は中国でも既にタイアップ多数の人気シリーズとなっているだけに長編作や映画展開は日本を飛び越えて、成功できるポテンシャルがあるともいえます。
放送順としてはもう少し先にはなってしまいますが、いつの日か長尺でじっくりとちいかわたちの活躍を楽しめる日に期待したいです。
とはいえ、フジテレビ自体の経営存続が危ぶまれている今、TVアニメ『ちいかわ』の放送がそれまで続いてくれるのかはそもそもの心配にはなってしまいますが……。
〈文/ネジムラ89〉
《ネジムラ89》
アニメ映画ライター。『FILMAGA』、『めるも』、『リアルサウンド映画部』、『映画ひとっとび』、『ムービーナーズ』など現在複数のメディア媒体でアニメーション映画を中心とした話題を発信中。映画『ミューン 月の守護者の伝説』や映画『ユニコーン・ウォーズ』のパンフレットにライナーノーツを寄稿するなどその活動は多岐にわたる。noteでは『アニメ映画ラブレターマガジン』を配信中。X(旧Twitter)⇒@nejimakikoibumi
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